第2話 Sb2C

「本気でバスケしようぜ」

「本気?」



質問は地面にバウンドさせたボールで返ってきた。


1on1、か。


カイトは首と手首の骨を鳴らして何回かジャンプした。



「一回でいい。今までオレに隠していたエイジの本気を見せてくれ」



カイトの真剣な眼差しが自分の目と合った。


何を企んでいるのかは分からないが、こちらとしてもコイツの本気ガチな目は今初めて見た。


期待には答えなければいけないな。


そう、




スリーポイントラインに立って一往復バウンドパスをした。


次に何か仕掛ければゲームが始まる。


右に行くか? 左に行くか?


否、本気を出すなら全部直感で行け。


とりあえず反則で相手にボールが渡ることだけは避けないと



「ここはコートであってコートやない」



カイトは腰を落とし片腕を俺の持つボールに向けながら口を開いた。



「ここは……、無法地帯ストリートや。自分を出し切れ」



言われた瞬間、俺の中の何かが弾けた。


表面張力で耐えてきた水が底からドバドバと溢れ出てくるあの感じ。


今まで縛られていたものが全て解き放たれたのだ。



その後のことはあまり覚えていない。


ただ無我夢中にボールをコントロールし、走り続けていた。



***



「いやぁ〜走った走った。リミッターを外した気分はどう?」

「うーん、悪くないな」



コートを囲う金網の外にある屋根付きベンチで休憩をした。


口にスポドリを溜めてカイトは転がっていたボールを弾いて手に取り、指先で回転させる。



「エイジ、提案だ。東京で年一回開催されてる『Sb2C』に出よう」

「えすびーつーしー? ……偵察爆撃機のこと?」



そう聞くと口に含んだスポドリを吹き出して笑った。


ググって出てきたのが偵察爆撃機だったのだが。



「ちげーよ! ‘‘Street BasketBall Championship’’。頭の文字を取ってSb2C! まあ初めて聞く時は皆んなそう答えるけどな」

「二人だけで参加できるの?」

「2v2、3v3の枠が用意されてるから大丈夫ダイジョーブ

あ、ちなみに世界大会の言う3x3(スリーバイスリー)やないで。Sb2Cはかなりアングラな大会や」



カイトは口の前に人差し指を置いてギリギリ耳に届くくらいに囁き始めた。



「なんでも、優勝賞金がえげつない。バイクの大型新車十台は買える」

「十台ってことは一つ五十万で見積もっても五百万は出るのか!?」



カイトは口角をニヤリと上げた。



「カケルゴ」

「……?」

「二百かける五。つまり一千万!!」



目が点になった。いっせんまん……?


ベンチから立ち上がり指を一本ずつ折って数える。


一、十、百、千、万、十万、百万、千万……。



「ぅぉ……」

「「うおおおおおおおおおおお!!!!!」」



両肩を組んで金額の凄さを叫びあった。


これはやらない選択肢がない!



「目指そうぜ、一千万!」

「おう! 待ってろ一千万、待ってろSb2c!!」


「――Sb2cが、なんだって?」



誰だ?


背後から知らない人の声が聞こえた。


カイトと机を挟み向かい合うように座って後ろを見た。



「ガキがSb2C出るんじゃねぇよ。ナメてんのか? キッズは学校でお勉強しとけ?」

「「ガッハッハッハッ!!」」



四人の大学生らしき奴らが近づいてきた。


一人がタバコを指で弾くように草むらへ投げ捨てた。


首にトライバル柄のタトゥーが入っている奴もいる。


四人は俺たちの座るベンチの空いたスペースに座ってきた。


下手したら殺される。そんな予感がした。



「お前らここで何してた?」



金髪のリーダーらしき人間が訪ね、その問いにカイトが即答した。



「ああ。バスケしてた」

「はぁ、ここのコートはなんだよ。余計なことしんないでくれるかな。殺されたいの?」



俺ら専用? そんなのおかしいだろ。


拳が力むとカイトが立ち上がって金髪の胸ぐらを掴んだ。



「んだよそれ! 頭おかしッ――」

「……な!?」



カイトが殴られた!!


それもノールックの裏拳でかなり鈍い音が鳴った。



「カイト!! お前何すんだよ!?」

「邪魔者がいたから排除しただけだが? 蚊がいたら殺すだろ? ゴキブリがいたら殺すだろ? 同じだよ」



え、怖。コワコワコワ! 怖いって!?


脚の震えが止まらない。


『――人気もなかったし満足できると思うぜ』


そういう意味だったのか……!!


クソッ、なんで気づかなかったんだ。



「立てよ。お前も来れなくしてやるからよ」

「え、嫌です……」

「立てよ!」



右二の腕を持たれて体を持ち上げられた。


カイトは狼狽えて座り込んでしまった。


誰も助けられない。死んだ。



「さあ歯ァ食いしばれ!!」



振りかざされた拳が頬に向かって伸びてきた。



「ッ!! ……?」

「おいレイ、邪魔すんなよ」



強く瞑った瞼を開けると金髪の腕を、レイと呼ばれる人が肘窩ちゅうかを使って静止させていた。



「今ここには丁度六人いるんだ。Sb2Cに出れるような実力かどうかは3on3をして決めよう。もしコイツらが負けたら殺してもいい」

「フンッ、そうかい」



何かよく分からないが、俺はこの人に助けられたらしい。



「カイト君、すまない。うちのボスが要らないことをした」

「いえ大丈夫っす、悪いのはあなたじゃないですし」

「えーっと、君もすまないね」

「エイジです」




レイさん?に謝られた挙句、3on3に強制的に参加させられる事になった。



「いいか、

チームは俺(タイガ)・ヒビキ・リョウ対、お前(エイジ)・お前(カイト)・レイ。

ルールは殴る蹴る以外有りの十ポイント先取。負けた時のペナルティは腹パン。

でいいな?」

「おう」

「あぁ」



逃げれば負けだ。勝つしか道はない。


ボールをバウンドさせ手に馴染ませて呼吸を整えた。


カイトとレイさんに目を合わせる。



「よし。いくぞ……!!!」

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薄明のブザービート 観葉植物 @house_plants

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