第1話 ストリート
【2020.03.28 05:14am】
朝に鳴るバイクの空吹かしは体育館に響くバスケットボールを着く音よりもよく聞いただろう。
「エーイジ!! 起きたかー! いくぞー!」
窓を閉じていても室内に届くカイトの声は、どの目覚まし時計よりもうるさい。
早朝から大声出して空吹かしして警笛鳴らして……。
「お前朝からうるせぇよ! 加減ってものを知らんのかー!」
「すまーーん! 新しい情報が手に入ったんや! 準備して降りて来い!」
「わーーぁった!!」
朝から大声を出すとすぐに目が覚める。
新しい情報が気になり、さっさと運動着に着替え、パンを口に含んで玄関を出た。
「新しい情報ってなんだよ」
「おはようエイジ。ここから少し遠方にコートを見つけたんだ。昼間なのに人気もなかったし満足できると思うぜ」
細短い白色の筒から煙が出るソレを咥えたカイトは、バイクに股がったまま右脇にヘルメットを抱え、左手でグッドのハンドサインをした。
別に今までの所でイイじゃん。とは口に出さず、車庫から自分のバイクを取り出した。
「案内は頼んだ」
「おう、任せとけ」
微かに白い息が出る朝の薄明に照らされた道路を二人は走り始めた。
インカムの接続完了音が鳴る。
「エイジはさー、何でバスケ部辞めたんや? 一年の時には既にエースになれる実力があったはずなのに」
「バスケ部のエースになる実力はあっても、資格がないよ」
「うーん、そうなんか。部活って堅苦しくて難しいな。オレらみてえなストバス勢が一番面白えわ」
退部のきっかけとなった高一の試合。
季節は冬だった。
『調子乗るからこうなるんだよ』
『部活辞めちまえ』
『肝心な場面でシュート決めないなんて』
あの試合終了後に発せられた三年の心無い陰口を耳にした俺は鬱に陥った。
苦し紛れに汚くてボロボロのバスケットコートで部活の未練を一人で晴らしていた時、カイトに出会った。
向こうは元々このコートの常連だったそうで、変わった奴がいると興味を持って話しかけたそうだ。
俺からすればカイトの方がよっぽどの変わり者なのだが。
それからというもの、友好関係を結んだ俺たちは二人でコートへ通うようになり半年が経とうとしている。
これでもまだ、スポットライトの当たったコートに足を踏み入れたいという願いを捨てきれずにいた。
悔しいが、その権利も剥奪されたのだ。
「まあ細けえことは気にすんな! 周りはそんな覚えてないさ。さて、もうじき着くよ」
「おう」
駐輪場には早朝特有の汚れの無い澄んだ空気が満ち足りていた。
肺いっぱいに空気を入れると、もうこれだけで満足してしまいそうだ。
「なあ」
「んー? どうしたよ」
「……帰らね?」
「なんでだよっ!! 酷くね!?」
朝から元気だな。
組み合わせた両手を上に伸ばし体を起こさせる。
丸石で出来た整備されている道を歩いていくとそこにあったのは、
かつての自分が何度も願っていたものだった。
点よりも魅せた方が勝つ無法地帯。
ストリートバスケのコートだった。
「エイジ、本気でバスケしようぜ」
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