第12話 家づくりに畑づくり
斧を更新したウィルは無敵だった。
「~地玄き果てしなさ、我が腕に脚に力与えよ~」
また独特な文化的な祈りをささげると、斧をふるって次々に植物生命体を薙ぎ倒していく。
大急ぎでゴルジとフィリノが枝打ちをするが、全く追いつかない。
あっという間に数十本の丸太が積みあがった。
しかし、ウィルは仕事をする前にお祈りをするのに、ゴルジ達はしないな。後で聞いてみよう。
で、何故こんなに丸太を積むのだ。
「乾かして、一部は製材してちゃんとした家を建てるんだ。あと一番の用途は薪だな。油断するとすぐに冬がくる」
「燃料にして暖を取る……直接熱を起こせばいいのでは?」
「魔法でそんなことしたら疲れるだろ。回復するための家なのに消耗したら意味がない」
原始的な。ただ、冬……つまり気温が低下して、空調が必要なのか。作れなくもないが、エネルギーも惜しい。優先順位は下げておこう。
「よーいしょ、よーいしょ」
見るとゴルジが丸太に縄をつけて引き上げている。丸太はツタを使って三本が端部で結びあわされており、持ち上げると大きな三脚のように自立した。フィリノが急いで穴を掘り、三脚の脚を一本ずつ差し込んで埋めた。
それに支柱として、細めの木の棒を何本も立てかけている。長い葉をもつ草を刈った束を支柱に括り付けていく。
「これは何の儀式?」
「テントです、ちゃんとした家を建てるには時間も資材も足りませんで……」
「おお、ちゃんとできたなー」
テントとやらを眺めながら、植物生命体の大量虐殺を終えたウィルがやって来た。
「アメノさん! この斧いいよ、本当に助かったありがとう!」
「役に立つだろう」
「すごく役に立ったぜ!! さすがは錬金魔導士様!」
こんなローテク工具を作っただけでそんなに褒められても困る。もっと褒めて。
そこにゴルジが進み出た。
「あ、騎士様。テントをおつくりしましたのでまずはここで」
「いいよ?! 自分の家を優先してくれ、俺は……」
ウィルはちょうどいい間隔で生えている二つの木の間に進むと、綱を編んで網のようものを作った。なんか上に寝転んで跳ねて喜んでいる。
「よし、ハンモックができたな。あとは雨避けだけだ」
というと、ウィルは木に切り落とした枝を立てかけ、結び付けて壁のようなものを作り始めた。……ひょっとしてこれが家なのか。
あまりの原始的なつくりに眩暈がしそうである。
それを見てゴルジが語り掛けた。
「いいなぁ、うちもハンモック作るか? フィリノよ」
「あんたは重過ぎるから支柱折れちゃうわよ。あたしの分だけ作りましょう」
「お前も十分重いだろ」
「うっさい! 誰のせいよ!」
喧嘩をし始めた。
この二人は夫婦という特別な関係で、お互いに無くてはならないし、他の個体の介入も許さないらしい。なのに仲が良かったり悪かったりする。
そんなことをせずとも統合民主主義を採用すれば皆が自発的に協力し合って争いもないのに。たいへん原始的で非効率的な社会制度を採用しているようだ。
実に興味深い。これも後々調査する必要があるだろう。
◆ ◇ ◆
「よしよし……いい子だいい子だ」
家づくりがひと段落したので、ウィルは軍馬の馴らしを再開した。枯れ草を縛って即席のブラシを作り、マッサージする。
騎士だから、馬に乗るのは当然に思われるが、実際には各馬ごとに個性があるし、慣れぐあいも違う。
いきなり飛び乗って、ムチで言うことを聞かせても決していい馬にはならない。なので馬を撫で、声をかけながら、背中を洗ってやる。これが騎士のパートナーとしての馬の扱い方なのである。
「というわけなんですが」
隣で馬をじーーーっと見つめてくるアメノに説明する。
無表情なのはいつもの通りだが、なんか不機嫌そうだな?
「つまり、ウィルはその生物とパートナーで特別な関係になりたいということか」
「用語に違和感があるがそうだな」
アメノは少し考え込んでいたようだが、何かに思い当たったのか、口に出した。
「つまり夫婦?!」
「違えええええっ?! ……ってごめん! 大声出したね、悪かったねー?」
思わず大声を出してしまい、馬が身体を震わせた。いかんいかん、馬に大声は厳禁だ、ビビらせてしまう。
「馬と人間は夫婦になれないよ、大体こいつは牡馬だ」
「大丈夫、オス同士でもパートナーにはなれる」
「……わかってないよね?」
アメノは不思議そうな表情で少し頭をかしげると、「で、いつ肉を取りに行く?」と聞いた。
ああ、だから不機嫌だったのか。ちょっと待っててな。馬を洗い終わったら、一緒に行ってくるから。
「やはりパートナーか……」
なんかアメノによくわからない誤解をされたようだ……
- - -
ざっくざっく。
狩りに出るべく馬に乗って進んでいたら、ゴルジが土地の一角を耕しているのが見えた。その周りをフィリノがちょこちょこ回りながら、石やら枝を拾っている。燻製屋燻製屋と呼んでいたが、本業は農民であり、耕作も得意なようだ。
「コボルト麦とゴブリン豆を植えようと思います。収穫が早いですので」
「そうだな」
開墾が始まる。麦と豆が取れれば、冬の貯えもできるだろう。こうしてここに拠点を作って、生存者を集めていけばいつの日か国を再建できるかもしれないな……
「土を掘り返しているのは何故? 食料用植物の根が張りやすい……?」
またアメノが現れて、ゴルジの作業の邪魔をし始めた。
しかしゴルジにとってアメノは魔道貴族様である、かしこまって回答する。
「はい、このクワを使って土を掘り返し、固まりを突き崩します。そうすると水はけもよく、根がしっかりと張るのです」
「原始的……、古代技術辞典を照会。ふむ、耕起……土壌に有機物やミネラルを供給し、空気と水を入れて有用成分の分解を促進……」
手元の箱を見ながらブツブツ呟くと、「そのクワは効率が悪い」と、またゴルジの持っている古クワを取り上げ……しばらくして新しいクワを持って帰ってきた。
ザクサクサクサクサクッ!
「うわ、軽くてスカスカ土が掘れるぞーーー!」
「ひゃぁ……、まるでパパがクワを持ってないみたい!」
大喜びで以前の数倍の速さで耕し始めるゴルジをフィリノがあんぐりと口を開けて見つめている。
ウィルは思わずアメノに問いかけた。
「すごいな、何をどうしたんだ」
「掘削機の形状が地質に合ってなかった。土が重いのを細かく分けて掘り起こしやすいように複数の細い刃をつけた。またそれだけだと重心が合わないので、掘削部分の逆側を重く設定した。そしてそもそも金属の強度と靭性が不足していたので刃先の強度を……」
「うわ、すごいよくわかった。ものすごくありがとう」
これは長くなる、申し訳ないが切ろう。
アメノは説明したりないようで、じっとウィルの乗っている馬を見つめている。
こうやって、いろんな道具をどんどん作ってもらえるなら、ここでの生活も早期に安定するに違いない。ウィルはそれを見ながら希望に胸を膨らませて森に入っていった。
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