第2章 拠点づくり(技術研究一部カンスト済み)

第11話 開拓スタート、道具が必要

 騎士ウィルとその一行は湖に戻ってきた。第一陽はもう暮れており、第二陽が森の端にかかって今にも沈みそうである。


 そして赤く照らし出された巨大な四角い箱が湖に沈んでいる。


 「うおぉおおお?!」

 「これ……なに?」

 

 燻製屋の夫婦、ゴルジとフィリノはアメノの船を見て改めて驚いていた。


 「さすがは、偉大な錬金魔導士様だなぁ」

 「だねぇ?」と改めて感心している。


 ……いや、俺もよく考えたらコレは相当貴重な魔道船なのだから、俺ももっと驚くべきだったんだろう。これだけのものは魔道学院である“遠見の塔”か、旧“帝都”にしかない。

 

 しかし出会いからこちら余りにもいろいろありすぎて、主にアメノとかアメノとかアメノとかのせいで驚くタイミングを逃してしまっていたのだ。



 そしてその船の持ち主は夕飯として銀色のトレイに入った、灰色の謎スープをまたもや持ち出してきた。


 「アメノ様! そんな食事など私どもが運びますよ?!」

 「そうです、魔導士様は座っていていただければ!」


 アメノは短く「ダメ」とだけ答えて、食事を配りだした。うわぁ、いつ帰ってもご飯がある。嬉しいなぁ。


 謎スープはいつも通り、七色に光りながらこぽこぽと小さく泡立っていた。


 「うっ……」

 「くっ……」

 予想した通り、謎スープを食べたゴルジとフィリノが目を白黒させている。


 「不味かったら吐き出していいぞ」

 ウィルが助け舟を出すと、二人は血相を変えて否定した。


 「そ、そ、そんな滅相もない?! いやぁ美味しいなぁ!」

 「こんな美味しい食事をいただけるなんて本当にありがたいです!! ねぇ!」


 「気に入ってくれたらうれしい」

 アメノが何か得意げに返事している。


 おーい、社交辞令だ。魔法を使えてこんな魔道船もってる超お貴族様から食事貰って不味いなんて言える農民が居るわけない。

 もちろん、俺は言えるけどね。騎士だし……


 「いつもお食事ありがとうございますアメノさん!」

 ……お礼をな!


 とても自慢げな顔になるアメノ。


 ただ、本人も謎スープを食べながら元からの無表情がさらにお面のような顔になっていく。


 アメノもまずいと思ってるよな!? これ!!



 - - -



 食事が終わって、今後の相談をすることになった。


 「……ウィル殿。実は食料合成プラントのエネルギー供給が不足していて、給食ペーストの在庫が切れそう」

 「それは良かった!!!」

 つい、本音が出てしまう。


 「よくない、食料供給が止まる……なので肉を」

 「わかった、明日は狩りをするよ」

 

 それを聞くとアメノは表情をぱっと明るくして、

 「燻製を作らないのか」

 とゴルジに聞いた。


 「それはもう肉があれば作らせていただきますよ!」

 「でも、燻製小屋も漬け汁もなにもないよねぇ……」

 ゴルジとフィリノがさっそく燻製小屋の仕様について相談しはじめた。


 「いや、ゴルジさん。その前に寝床じゃないか? 雨が降り始める前に屋根は必要だぞ」

 「そうですな、家も作りますか」

 

 「二人は寝るところが必要? では私のフネで寝る?」

 「いえいえとんでもない!」

 「お構いなく!?」


 慌てる二人。


 身分が違うし、夫婦で独り暮らしの家に転がり込んでも落ち着かないだろう……というか「ベッドが一つしかないんだから誘っちゃいけません!」


 「解せぬ」


 アメノは無表情なまま首をかしげていた。



 ◆ ◇ ◆


 

 翌朝、ウィルたちは各自で毛布にくるまって一晩を過ごしたようだった。


 

 コーン! コーン!!

 変な音がする。


 フネから出てくると、男たちが立木を剣で斬りつけていた。


 ……?? どうみても効率が悪そうである。

 

 さっそくインタビューしてみよう。


 木を伐っているウィルの隣に進む。


 「お、お早うアメノさん」

 早い、何に対して早いのか。

 

 個人端末に「これは挨拶の言葉」と表示された。そういえばそうだった。では友好的な挨拶で返そう。



 手を胸に当てて軽く頭を下げる。

 「お早うウィル殿。あなたの研究しごとの障害がすべて突破できますように」

 「あ、ありがとうございます」


 む、なんか戸惑っている。少し違和感があったか。次回から普通に相手の挨拶を真似ることにしよう。


 

 本題に移る。


 「ウィル殿。先ほどからそこに生えている植物生命体を戦闘用の武器で攻撃しているが、木は敵という価値観なのか。興味深い文化」

 「文化じゃねーーよ?! 斧が無いんだよ!」

 ウィルに怒られた。


 解せぬ。


 「いやぁ、斧があればいいんですけどなぁ。この錆び剣一つではどうも」


 ゴルジが肩を半脱ぎにして、汗が噴き出した筋肉からもうもうと水蒸気を上げながら手に持った戦闘用武器を愚痴る。

 それに対してウィルは上半身にシャツを1枚羽織っただけの姿だが、あまり汗をかいていない。


 どうも騎士と農民で体の使い方が根本的に違うようだ。興味深い。


 

 「で、オノがあればいいのか? どういうモノ?」

 「斧ってのは斧ですが?」

 「オノとはどういうモノ??」

 なぜちゃんと質問に答えないのだ。

 

 ゴルジが戸惑ったように説明を開始する。

 「こういう形で金属でできており、こっちが薄く、こちらが厚く、持ち手がついていて、使い方としては……」

 「……原始的」


 仕組みはわかった、金属があればいい。ではこの錆び剣を貰っていこう。


 「アメノ様?! それを持っていかれると仕事ができませんが、アメノ様ーーー?!」

 

 - - -



 調査船のエネルギー供給を汎用精製機に回す。錆び剣の元素を抽出して、三次元原子加工機レプリケーターに転送。用途に最適化すべく、部分部分の原子構造を調整する。


 まずは切っ先部分は強度を確保するために主材料の鉄の結晶構造を調整し、他の金属元素を適宜挟んでいく。あまりきれいな結晶だとずれやすくなるが、違う金属元素を挟んでおけばズレが生じにくくなり硬くなるのだ。これで薄くても強度が出る。


 逆に根本部分は粘り強さを高めるため、鉄の純度を上げていく。結晶構造を均一にすることで変形しやすくし、打撃時のエネルギーを吸収させるのだ。強度が下がるが、その分厚みを増しておく。



 そしてゴルジが持っていた道具類の中から、木製の握り棒を三次元原子加工機レプリケーターにセットして、金属を巻き付けてオノに成形していく……


 できた。



 - - -



 ざくっ!!!


 ゴルジが一回斧を振り下ろすと、木の幹にすっと入り込んで深く切れ込みが入った。


 「すごい斬れ味だ?!」

 「なに、パパって達人だっけ??!」


 なんかゴルジとフィリノが異常に驚いている。用途に最適な「オノ」を作って持ってきただけなのだが。

 

 

 「アメノさんの錬金術すげぇ?! 俺にも作って?」


 ウィルが目をキラキラさせながら、予備の剣を私に差し出してきた。

 

 ふふ。馬にはこんなことはできない。

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