第10話 石を拾ってなんか気になる
「大春季」のうららかな日和、双子の太陽の光が柔らかく降り注ぐ。今はまだ火は小さいが、これが「大夏季」になればギラギラと燃え盛り、到底歩いてはいられないだろう。
歩くのによい季節なことを四神に感謝しつつ、ウィルと一行は切り立った崖のふもとを進んでいた。
突然、アメノが立ち止まる。
「この石」
手元の箱で何かを確認しながら、アメノが一つの石を指し示した。
「これが鉱石か……」
赤茶色の石を取り上げる。俺にはどうもこういう知識はないのだが、なんとなく鉱石っぽくはある。
「鉄鉱石ですかね??」
燻製屋のゴルジにも知識はない。二人して手元の石をのぞき込む。
「鉱石って何鉱石が必要なんだ?」
「何でもいい、成分はこちらで調整するので、遷移元素……メタルが含まれてればそれでいい」
というと、アメノは軽やかに岩の上を歩き回りながら、拾うべき石を指示してまわる。
「これとこれとこれとこれと……」
「あわわ」
燻製屋の夫婦、ゴルジとフイリノが大慌てで指示された通りの石を拾い集め、カゴに鉱石を詰めていく。
「もう重くて持てませんぜ」
「十分……だと思う」
カゴ2つに鉱石らしき石を詰め込み、ゴルジとウィルが背負った。フィリノは小屋で見つけた古道具や毛布を詰め込んだカゴを背負っている。
なお、アメノはカゴを背負わせようとした瞬間にむぎゅるとか言って潰れたので、真っ先に荷物運びは免除されている。
「騎士様に荷物を運ばせるなんて恐縮します、そういうのはワシら農民の役目で」
「こんな状態で騎士も農民もないだろ」
とはいえ、いつ敵が現れるかわからないため、すぐに投げ捨てられるように……持ち方が変になったからやけに重い。
「よしいこう」
来た道を崖沿いに戻っていくことにした。
― ― ―
「ところで、ゴルジのおっさんと夫婦なんだよな……親子に見えるけど」
「はは、よく言われます、年甲斐もなく若い嫁を貰ってしまいまして」
「たまに孫とかねぇ、おじいさんとかねぇ、ねぇパパ?」
冗談めかしてフィリノがゴルジをつっつくが、髪の白髪の多さだけみると、孫でもおかしくないぞ。
ゴルジ自体は髪に白髪が混じっているが、肩に筋肉が盛り上がっており、鉱石が詰まった大籠を楽々と背負っている。体つきや動きの機敏さはまさしく雄々しい壮年と言っていいだろう。身分としては小さな牧場と畑を保有する農民だが、作るベーコンの評判が良く、守備隊などに納入して稼いでいる分だけ栄養もよく健康である。
フィリノもそんなゴルジに嫁いだだけあって、とても栄養の行き渡った身体つきをしている。って女性の身体をじろじろ見てはいけない。特に自己主張の強い盛り上がりがブラウスに包まれて歩くたびに軽く揺れているのなど見てはいけない!!!
「えっと、あたし?? 13大季節……違うか。15ぐらいだったはず??」
「オイオイ、自分の齢ぐらい覚えておけよ。俺も30からは数えてないが……40? 50は行ってないと思うが」
アメノが燻製屋夫婦にしつこく齢やら職業を聞いている。本当に知りたがりだな。
「ウィル殿、大季節とは何か」
よくそれで今まで生きてこれたな。まぁ、アメノさんが世間知らずなのは分かってるからいいけど……
「大季節とは大春から大冬までの一巡りだよ。大春にも春夏秋冬があるけど」
「すると、この星系の太陽年にあたる……いや、太陽が二つあるから、単純に年ではなく、やはり大季節なのか。非常に興味深い。つまり季節数で肉体の経過時間を計測しているのだな」
アメノは相変わらず難しいことをいろいろと呟いて、そしてゴルジに質問を再開した。
「でも細かい数字はあまりこだわりはない?」
「農民はそうだなぁ、身体ができてりゃ一人前だから」
「ウィルは?」
俺か、今18で今度の「大夏季」に19だな。
「なるほど、日は関係なく、生まれた季節にカウントすると……」
アメノはいくつだよ、と聞こうとしたが、さすがにレディに対しては失礼だろう。
と思ったらフィリノが踏み込んだ。
「で、アメノ様はおいくつですか?」
「大季節齢への換算は正確でないと思うが……無理やり換算すると中央標準時空上の経過時間は110~120大季節で、肉体経過時間は13から15大季節?」
ごめん、時空上って何?
「超光速航行をする場合、慣性系から加速系に移行するが、加速中と減速中に時間のズレが発生し、とくに亜光速ではこれが顕著に……」
何言ってるか理解できない。
「……そういう技術(わざ)」
「魔法(わざ)!! 偉大な魔法使い様なのですね! さすが長寿!!」
ゴルジとフィリノが素直に驚く。
「見た目で判断して悪かった」
やはり強大な魔法使いだけあって季節齢はすでに超越しているらしい。つまり大人のレディということだ。しかも齢上じゃないか。
「解せぬ」
急に扱いが丁寧になった3人に対してアメノが複雑な表情をしていた。
◆ ◇ ◆
アメノはウィルたちについてしばらく進んでいたが、ウィルが
荷物も多く、戦闘している場合ではないそうだ。残念。
ブルルルゥ……
「ひゃう?!」
いきなり暖かく生臭い息を吐き出す巨大な生物が現れた!
その生物は私を見ると歯をむき出して笑いかけてくる。
……食べる気だ?!レーザー砲で消去!!……
しようにも防衛モジュールは破損済みだ!
ウィルに助けを求める。
「ウィ、ウィル殿!! 巨大生物が!?」
「なにーー! ……って馬じゃん」
「た、食べようとしたぞ!」
「草食だよ」
ウィルが冷たい。なぜだ。
「おお、よしよし。こんなところでどうした。ご主人は?」
ブルル……
ウィルは私への態度とは打って変わって、ニコニコしながら巨大生物-馬-の鼻づらをなでる。そして、馬は首を曲げて何かを指し示した。
「……騎士様が亡くなられています……、おお御霊よ安かれ」
見ると茂みの中に、息絶えた騎士が転がっている。
ゴルジが両こぶしを握って額に当てた。ウィルとフィリノも続いたので、私も真似をする。
興味深い。これが死者に対する礼儀か。記録しなければ。
「戦士に敬意をこめて葬式を挙げるべきだが、余裕がない。しかし、このままにしておいては
ウィルの提案に一斉にうなづく燻製屋夫婦。私も真似をする。
ウィルは騎士の死体に枯れ枝や枯れ葉を集めてきて被せると火をつけた。
「馬よ、俺と一緒に来るか?……よし、いい子だ」
「ヒヒン」
むう。なぜウィルはこの馬という生物にだけこんなに優しいのだ。 納得がいかない。
ウィルが言う。
「火を見て周りの
馬に鉱石のカゴを二つ、両側に振り分けるように乗せると、足早に移動を始めた。手の空いたゴルジが、フィリノの荷物を持とうとして「いいよ、あたしが持つからー」などと言い合っている。
そして、ウィルが馬の口をひいてずっと馬に話かけている……そんなに馬が好きなのだろうか。
気になる。
なんで気になるのか知らないが気になる。
久しぶりに「精神安定剤」を飲むべきだろうか。
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