第11話 運命の人

 

 新学期早々、カナエは寝坊し、朝食の食パンを加えながら学校へと急いでいた。

「寝坊なんて、初めてだわ。春休みにだらけ過ぎたのかしら。」

カナエは全力疾走で、学校前の曲がり角を曲がった。

 その時だった。カナエは向こうから曲がってくる人と、思いっきりぶつかった。

「痛いっ!」

その衝撃で、口から食パンは落ちていた。

「ごめんなさい。大丈夫ですか?」

転がるカナエにぶつかった男が声をかけてきた。優しい声をした、容姿端麗の男だ。

「急いでたもので。お怪我はございませんか?」

「い、いえ。こちらこそごめんなさい。」

「では、僕はこれで。」

優しくカナエに微笑み、男はその場を去っていった。

「まるで、少女漫画みたいだわ。もしかして運命の人?…なんてね。」

カナエは少し得をした気分になった。学校には遅刻した。


 翌日、またもカナエは寝坊した。朝食のフランスパンを食べながら学校へと急いでいた。

「昨日は、早めに寝たのに…。それにしてもフランスパンって硬いわね。」

カナエは全力疾走で、学校前の曲がり角を曲がった。

 その時だった。また、向こうから曲がってくる人とぶつかった。

「痛いっ!」

またも衝撃で、食パンを落とした。

「Excuse-moi(ごめんなさい)」

転がるカナエにぶつかった男は声をかけてきた。長身の容姿端麗な外国人だった。

「Es-tu blesse?(怪我はないですか?)」

「え、えっと。ごめんなさい。」

「Bonjour. Madoemoiselle(ボンジュール、マドマゼル)」

最後の言葉で、フランス人らしきことは分かった。男はその場を去っていった。

「二日連続で、こんなことって。しかもタイプの違うイケメンとなんて。」

カナエはまた得した気分になった。学校には遅刻した。


 翌日、3日連続でカナエは寝坊した。今日はおにぎりを食べながら学校へと急いでいた。

「お母さんも起こしてくれたのに、寝坊するなんて。どうかしちゃったのかしら。」

カナエは全力疾走で、学校前の曲がり角を曲がった。

 その時だった。カナエはまた、向こう側から曲がってくる人と、ぶつかった。

「またなのっ!?痛いっ!」

衝撃でおにぎりはどっかに飛んでいった。

「も、申し訳ないのだな。」

転がるカナエに男は声をかけてきた。白いタンクトップを着た、坊主の男だった。

「け、怪我はないんだな。」

「あ、あのこちらこそ。まるで山下きよ…。」

「そ、それにしても、飛んでいったおにぎり、お、美味しそうだったんだな。」

そう言い、タンクトップの男は去っていった。

 

 この時点でカナエは気づいた。

「すごい発見だわ。偶然じゃない。私が食べている朝食に応じて、曲がり角で男の人とぶつかるんだわ。これなら、私の好みの男性に出会えること間違いなし。早速明日からまた、試してみなくちゃ。」

カナエは明日からも朝食を食べながら、この曲がり角に走ってくることを決めた。今日も当然、カナエは、学校にも遅刻した。


 翌日カナエはわざと寝坊した。今日から朝食は、カナエ自身で用意した。普通は朝食べないメニューでも、様々な朝食で、現れる男性を知らなければいけないからだ。今日のメニューは、『きのこパスタ』だった。カナエはそれを食べながら、曲がり角へと急いだ。

カナエの予想通り、曲がり角で人とぶつかった。

「ヤッフー!ヒウィゴー!!」

赤い帽子をかぶった男はそう言い、ジャンプしながら走っていった。

「なるほど…。あれは、まるでスーパーマリ…。」


 翌日もわざと寝坊した。今日のメニューは『納豆巻き』だった。またそれを食べながら曲がり角へと走った。

 カナエはまた曲がり角でぶつかった。ぶつかった相手は、普通の中年男性だった。

「なんで。まさか今までは偶然?」

カナエが落ち込んだそのときだった。意外な声で男は話しかけてきた。

「大丈夫ねばか~?」

そう言って、男は去っていった。

「まさかっ!中身?ねば~るく…。いや、それにしてもぶつかる男性の系統がつかめてきたわ。その食べ物に関する有名な人とぶつかる可能性もあるんだわ。」


 翌日からも、カナエの実験は続いた。『リンゴ』を食べながらだと、アメリカの実業家、『のり』を食べたときは眼鏡がずれた日本のおじさん、『ほうれん草』のときはマッチョな船乗りが現れた。『どら焼き』のときは、青いネコ型ロボット、を未来で発明しそうな科学者とぶつかった。


「本当にすごいわ。もっともっと実験して私の運命の人を見つけるのよ!」

気合いの入るカナエに、母親から連絡が入った。

「今、家に高校から連絡が来たの。あなた遅刻のし過ぎで、留年が決まったそうよ。」

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知らない親父〜没ネタ〜 すもく @smoke0321

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