一流である理由

シヨゥ

第1話

 周りはすごい人ばかりだ。

 判断が早い。動きが早い。行動の始まりから終わりまでの時間が僕の半分ぐらいですんでいる。

 知識が深い。顔が広い。ボクでは思いつかないようなことをすぐ思いついて実行する。

 なんだかすごい所へ来てしまったようだ。


 ここにたどり着いたのはたまたまだ。

 せっかくなのだからすごい所へ。そんな思いだけで一流といわれる企業に履歴書を送りまくっていた。

 箸にも棒にもかからずそろそろまじめに就職活動しないとな。そんな思いをもちはじめた頃に電話をもらったのだ。

 そしてのこのこと面接にでかけてみるといきなりの社長面接。あれにはおどろいた。

 いろいろ話をさせてもらって手ごたえがまったくない。どこにでもいるおじいちゃんのような社長はにこにこしているばかり。これは落ちたなと確信さえした。そこでなにか持ち帰ってやろうと、

「御社が一流である理由は?」

 と質問した。会社を見定めるポイントになるかなと思ってのことだった。

 僕の質問に対して社長は、

「隠し事ができないまじめな子が揃っているからかな」

 と答えてくれた。そして、

「失敗も成功もみんなが報告しあって、お互いを高めあう。手の内をさらけ出すことに誰もとまどいがない。そこが一流といわれる理由だと思っているよ。そこにきみも加わってくれたらうれしいな」

 そんな言葉をいただいてぼくは面接を終えたのだった。


 社長が加わってくれたらうれしいと本当に思っていたとは気づかなかった。

 採用決定の電話をもらった時には電話をする相手を間違ったのではと疑ってかかってしまったほどだ。

 こうしてここはぼくの職場となった。たしかに社長が話していた通り一切の隠し事がない。

 入社したてのボクがやっているのは諸先輩方の経験をまとめた資料を読み込むことだ。書類に書かれたエピソードはどれもこれもタダで公開するには惜しいものばかりだ。

 早くこの資料にエピソードを刻みたい。きっとそんな思いがこのすごい人たちを作っているのだとなんとなく分かってしまった。

 まずはボクもこの人たちみたいになろう。それが当面の目標だ。その目標をクリアしたころには一流になっているといいな。そう思いつつ今日も頑張っていこうと思う。

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一流である理由 シヨゥ @Shiyoxu

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