第44話

どうやら、由美子は妊娠していたらしい。



由美子自身もそのことを気が付かず、河原へ向かった。



そして、足を滑られて転倒したのだ。



転倒した際川の中の岩に運悪く腹部を打ちつけ、そして……。



2人の愛の結晶は真っ赤な血となって川に流れた。



「こんな……嘘だろ」



友則はグッタリと横たわる由美子を見て叫んだ。



一刻も早く救急車を呼ばなければならなかったが、友則はそれができないでいた。



自分と由美子の未来はまだまだこれからだ。



俺は起業して成功し、大きな顔をして両親に顔を合わせるはずだった。



そして、愛する由美子と共に正式に夫婦になるのだ。



それが、それだけが友則の夢だった。



自分の夢がこんなところで終わるはずがない。



目の前の光景を、見て見ぬふりをした。



流れ出した血をぬぐい、青白い由美子の顔にファンデーションを塗って、自分の都合のいいように、いつもと変わらぬ日常をでっちあげた。



18歳で飛び出してきた友則には、現実を受け入れる余裕がなかったのだ。



やがて……由美子はそのまま息を引き取った。



普段から十分に食べることもできなかった由美子の体に、流産という大きな試練は耐えられなかったのだ。



ピクリとも動かなくなった由美子を見ても、友則はその場に座り込んだまま動けなかった。



こうして寝かせておけば由美子はまた動き出すんじゃないか?



そんなあり得ない期待を何度も抱いた。



しかし、由美子は動かない。



死んでしまったのだ。



やがて由美子の体にハエがたかりはじめた頃、ようやく友則は立ち上がったのだった……。

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