第45話
~ナナカside~
光弘のお父さんからすべてを聞いたあたしは唖然として白骨死体を見つめていた。
由美子さんが探していたのはやはり光弘のお父さんだった。
そして、ここから助けて欲しいと願っていたのだ。
「ご飯も食べられないのに、どうして携帯電話は持っていたんですか?」
ふと気になり、あたしはそう聞いた。
由美子さんの携帯電話が土の中から出て来たと言う事は、当時持っていたということだろう。
「仕事に必要だったからだ」
光弘のお父さんはなんの躊躇もなくそう言った。
「仕事を頑張っていればいつか、好きなだけ好きな物を食べられるようになる」
確かにその通りかもしれない。
そしてその言葉通り、光弘のお父さんは起業して成功した。
今や大きな家の主である。
携帯と共に床下に置き去りにされた由美子さんにとっては、電話で誰かに助けを求めることが最後の手段になったのだろう。
古いスマホばかりに着信があったのは、由美子さんが亡くなった事態に少しでも近い機械だったからなのかもしれない。
とにかく、由美子さんは死んでからもなお、助けを求め続けていたのだ。
「由美子のことは悪かったと思ってる。だけど、あの時はこうするしかなかったんだ。金もない、両親にも頼れない。由美子の親にバレたら、それこそ俺の人生は終わりだった」
「自分の人生のために由美子さんをここに放置したのか!?」
光弘が震える声で叫んだ。
泣いているのか、時々しゃくり上げる音も聞こえて来る。
「俺の人生が破たんしていたら、お前は生まれていなかったんだぞ!」
父親の叫び声に光弘が苦痛のうめき声を上げた。
とにかく、由美子さんは見つかった。
由美子さんの探していた人も見つかった。
あとは供養してあげるだけだ。
「警察に通報しないと」
あたしはそう呟いてスマホを操作した。
その時だった。
突然隣からスマホを奪われたのだ。
「ちょっと、なにするの!?」
光弘のお父さんだと思った。
でも、あたしのスマホを奪い取ったのは光弘本人だったのだ。
月明かりに照らされて、光弘の頬を伝う涙がキラキラと光っている。
「光弘……?」
「ごめん……!」
光弘がギュッと目をつむったと思った次の瞬間だった。
あたしが光弘の手に突き飛ばされ、床下へと落下していたのだ。
あたしの下になった由美子さんの骨がバキバキと音を立てて破壊される。
お尻を強く打ちつけて痛みに顔をしかめた。
そして見上げてみると……あたしを見下ろす光弘と光弘のお父さんがいた。
「なんでこんなことするの!?」
「俺は……これからまだまだ勉強して、いい大学に入って、お父さんの会社を継がなきゃいけない」
光弘の声は涙でぬれ、そして震えていた。
本当はこんなことしたくないのだと、全身が訴えていた。
「ごめんナナカ!」
光弘の言葉を合図にしたように、瓦礫が落とされた。
「やめて!」
必死で叫び、出口を探す。
川が近いためか床下は高くとってあり、どこからか月明かりも入り込んでくる。
とにかく光が差し込む方へ逃げようと思った時、足の上に大きな瓦礫が落下してきた。
「キャア!」
悲鳴を上げ、その場でうずくまる。
足から全身にかけて痛みが駆け巡って行く。
ほふく前進でその場から移動しようと試みても、足に乗った瓦礫が重たくて動く事もできなかった。
見上げると光弘と光弘のお父さんは2人がかりで瓦礫を運んでくるのがわかった。
このままじゃ殺される!
あたしの体なんてスッポリと包み込んでしまいそうなほど大きな瓦礫が、あたしの頭上に現れた。
「ごめん……」
光弘が泣きながらもう1度謝罪をした、その時だった。
ボコボコボコボコボコボコッ!!
落下してきた瓦礫を弾き飛ばすように土が盛り上がって来たのだ。
あたしは唖然としてその光景を見つめる。
さっきまで骨だった由美子さんの体が、細い腕となり伸びる。
「おい……冗談だろ……」
それを見た光弘のお父さんが後ずさった。
その瞬間、持っていた瓦礫が音を立てて落下した。
幸い、床の上に落ちたみたいだ。
腕はあちこちから血が出て、泥だらけで痛々しい。
しかし、目標はただ1つだった。
腕はしっかりと光弘のお父さんの足を掴んだのだ。
「離せ! 離せ!!」
穂香もそう言っていた。
貴久もそう言っていた。
そしてきっと理香先生も、同じように言ったはずだ。
「うわあああ!」
光弘が悲鳴のような声を張り上げて、瓦礫で由美子さんの腕を強打する。
ゴキッと骨の折れる音が聞こえてきたけれど、由美子さんの腕の力は緩まなかった。
奇妙に曲がったままの腕で、ズルズルと光弘のお父さんを引きずり込もうとしている。
「やめろ! やめろよ!」
光弘は叫びながら何度も何度も腕に向かって瓦礫を振り下ろした。
骨が砕け、肉が裂けて、あたしのいる床下まで血が降り注いでいた。
それでも腕は力強く光弘のお父さんの体を引きずり、ついに床下へと落下してきた。
「あああああ!!」
光弘のお父さんの見開かれた目。
叫ぶ口からまき散らされるだ液。
それらは一瞬にして土の中へと消えて行ったのだった……。
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