第40話

「お父さん、今の電話の相手は誰?」



「知らん。イタズラ電話だろ」



「嘘だ! 由美子さんって誰だよ、お父さんは知ってるんだろ!?」



問い詰める光弘を睨み付ける。



「知らんと言ってるだろう! こんなイタズラがかかってくるなら、もうスマホは没収だ!」



光弘のお父さんは強引にそう言い切ったのだった。


☆☆☆


あの人は絶対に何か知っている。



そう感じたあたしだけれど、光弘の家を追い出されてしまっていた。



もう少しで由美子さんに関するなにかを得ることができそうだったのに……!



自宅へ戻っても落ち着かず、部屋の中をグルグルと歩き回る。



光弘のスマホはすべて没収されてしまった。



古いスマホも、今使用しているスマホも全部だ。



そこまでするなんてどう考えても異常だった。



でも、これで光弘は助かるかもしれない。



スマホはお父さんの手に取って、厳重に管理されているのだから。



不安をぬぐえないまま、夜が来ていたのだった……。



食欲がないまま夕飯を食べ、お風呂に入ったあたしは家族の団欒もそこそこに自室へ引きこもっていた。



スマホを駆使して由美子さんの情報を集める。



27年前行方不明になった由美子さんは当時18歳だったようだ。



若くて綺麗な盛りに行方不明になったようだ。



当時は若い女性を狙った誘拐だとも言われていたらしい。



しかし、それから何年経っても事件は進展せず、結局由美子さんの事件は風化して行ってしまったらしい。



「やっと見つけたって行ってたよね」



記事を見ながらあたしは呟いた。



光弘のお父さんが電話に出た時、由美子さんは確かにそう言った。



それは探し物が見つかったという意味かもしれない。



でも、あたしはまだなにも動いていないのに……。



「もしかして、探していたのは人……?」



ふとそんな考えが過った。



由美子さんが探していたのは物ではなくて、人。



そしてそれは、光弘のお父さんだったとしたら?



由美子さんは当初の目的の1つを果たしたことになる。



すぐに光弘に連絡を入れようと思ったが、光弘はスマホが使えない状態にあることを思い出した。



あたしは大きく息を吐きだし、そして舌打ちをした。



どんな状況でも、スマホが使えないのは不便すぎる。



確かクラスで配られた連絡票があるはずだと思い出し、あたしは机の引き出しを開けた。



互いに家の電話に連絡を入れることなんて滅多にないから、どこにしまったのかわからない。



教科書やノート、参考書をどんどん机の上に出していくが、1枚のプリント用紙はどうしても見つけられない。



もしかして両親が保管しているのだろうか?



学校の連絡網は両親が回してくれる時もあるから、その可能性も高かった。



「ナナカ、河名君から電話よ!」



お母さんのそんな声が聞こえてきてあたしは弾かれたように部屋を出た。



転げるように階段を下りてリビングのドアを開けると、電話の受話器を持ったままの状態でお母さんが待ってくれていた。



「ありがとう」



早口でそう言い、すぐに受話器を受け取った。



「もしもし光弘!?」



『もしもし』



「あたしも光弘に伝えたいことがあったの」



『その話、後でもいいか?』



昼間よりもずっと焦った様子の声にあたしは唾を飲み込んだ。



自分の心臓が早鐘を打ち始めているのを感じる。



「どうしたの?」



『今、お父さんが1人で家を出て行ったんだ。青い顔して、なにか思い詰めてる感じだった』



「どこへ行ったの?」



『わからない。でも、嫌な予感がするんだ。今日書斎で会った時からずっと落ち着かない様子だったし、俺のスマホを持って出たみたいなんだ』



「スマホって古い方?」



『うん。これから追いかけてみようと思う』



「追いつけるの?」



『わからないけど、タクシーを呼んだところなんだ』



「そっか……それならあたしも今から出る。行先がわかったら連絡が欲しいんだけど……」



今から外へ出られるかどうかわからない。



でも、両親の反対を押し切ってでも光弘に合流するべきだと、あたしの本能が伝えていた。



『わかった。それならお母さんのスマホを借りて出るよ』



「うん」



あたしはそう言い電話を切った。



今の会話を聞いていたお母さんとお父さんがこちらを不審そうな目で見ている。



「ごめん、ちょっと出なきゃいけないことになった」



「今から? もう外は真っ暗よ?」



やはり、お母さんたちは渋い顔をしている。



「どうしても行かないといけないの」



あたしはそう言いながらリビングを出た。



すぐに自室へ戻り、スマホと財布を握りしめる。



「貴久君のこと?」



部屋まで追いかけて来たお母さんにそう聞かれ、あたしは大きく頷いた。



「たぶん、そうなると思う」



由美子さんとの決着がつけば、きっと貴久の行方もわかる。



あたしはそう信じていた。

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