第24話

しかし穂香は硬直してしまったかのように、動けなくなっていた。



やがて赤ん坊の泣き声の後ろから低いうめき声が聞こえて来た。



それは日本語にはなっていなくて、ひたすら苦しむ声だった。



その声は遠くから徐々にこちらへ近づいて来て……「嫌!」穂香が叫び声を上げてスマホを放り投げていた。



その途端、プツリと通話が途切れた。



「今のなに? 誰かの声だった?」



あたしが聞いても穂香は左右に首をふるばかり。



一体今の電話はどういうことだろう?



寒気がして穂香の手を握りしめた時、なんの前触れもなく部屋のドアが開かれた。



大きな悲鳴を上げそうになり、慌てて自分の口を押えた。



ドアの向こうにはエマが立っていて、ジッと穂香を見つめている。



「電話、切っちゃったの?」



エマの言葉に穂香がビクリと体を震わせる。



「ちょっとエマ、寝たんじゃなかったの?」



エマの目はしっかりと見開かれていて、少しも眠っている感じじゃなかった。



「電話を切っちゃダメだったのに」



「エマ。変な事言ってないで早く寝なさい」



あたしはエマに近づいてそう言った。



エマと目の高さを合わせてみたけれど、エマはあたしを見ていなかった。



あたしのずっと後ろ。



穂香すら通り過ぎて、穂香が投げてしまったスマホをジッと見つめている。



その様子がなんだか恐ろしくて、あたしはエマの体を抱き上げて立ち上がった。



「ごめんね穂香。たぶん寝ぼけてるんだと思うから気にしないで」



穂香にそう言い、あたしはエマを抱っこしたまま両親の寝室へと向かったのだった。

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