第18話
教室内は浮き足立った雰囲気のまま、放課後になっていた。
今日あたしは穂香と2人で掃除当番になっている。
教室からみんなが出た後、あたしたち2人はホウキを手にした。
廊下から貴久が「終わるまで待とうか?」と声をかけてくれたけれど、申し訳ないから先に帰ってもらった。
「理香先生、本当にどこに行ったんだろう……」
他の生徒たちと一緒に教室掃除をしながらも、穂香の思考回路は理香先生へと向かって行ってしまっている。
「大丈夫だよ穂香。理香先生はしっかり者だもん。きっと、理由があっていなくなったんだよ」
あたしは手を止めずに言う。
「そう思いたいけどさ、理香先生が無責任に授業を投げ出すなんて思えないもん」
それはあたしも同感だった。
しっかり者だからこそ、ちゃんと後処理をしてからいなくなりそうなものだった。
「そんな事ばかり考えて勉強がおろそかになったら、理香先生が戻ってきた時に怒られるよ?」
教室後方までゴミをはき終えて、チリトリでゴミ箱へと移動して行く。
「そうだね……」
穂香は呟くような返事をして、一杯になったゴミ箱を持ち上げたのだった。
ゴミ捨て場所は校舎裏にあった。
あたしと穂香は2人でゴミ箱を持ち、そこまで向かう。
このゴミを捨てたら今日の掃除は終わりだ。
「あれ。今日は先生がいないね」
ゴミ捨て場までやって来て、穂香がそう言った。
いつも先生が1人いて、大きなコンテナにゴミをうつすのを手伝ってくれるのだ。
でも、今日は誰もいなかった。
「ま、いっか」
そう言ってコンテナの前まで移動し、ゴミ箱を逆さまにする。
ザラザラとゴミが落下していく時、不意に穂香が「ちょっと待って!」と、声を上げた。
「なに?」
半分ほどゴミを捨てたところで止めて、あたしは聞いた。
「ごめん。ゴミ箱の中を見せて」
なにか、捨てちゃダメなものが一緒に入っていたのだろうか?
そう思っていたのだけれど……。
穂香が腕を突っ込んで引っ張り出したソレは、誰かのスマホだったのだ。
「スマホ!?」
あたしは驚いて声を上げた。
学校のゴミ箱にスマホを捨てるなんてありえない。
それとも、誰かがイジメられていて捨てられてしまったんだろうか?
色々な考えがめぐる中、穂香の青ざめた顔が見えた。
「これ……あたしのスマホ」
そう言い、自分の手の中にあるスマホを見つめる。
「え? 穂香のスマホって白色じゃなかった?」
穂香の手に持たれているスマホはピンク色だ。
「違うよ、1年前まで使ってたやつだよ」
その言葉にあたしは目を見開いた。
「どういうこと? 昔使ってたスマホがゴミ箱から出て来たの?」
あたしはそう質問しながらゴミ箱の中を確認した。
中にはまだ紙くずなどが残されている。
「ちょっと、コンテナにうつす前に確認していい?」
穂香にそう言われ、あたしはゴミ箱を地面に向けてひっくり返した。
後で片付ければいい。
「ちょっと待ってよ、どういうこと!?」
ゴミを確認する穂香が更に青い顔になる。
同時にあたしも唖然としてその光景を見つめていた。
ゴミ箱の中からは他に2台のスマホが出て来たのだ。
「これ、全部あたしが使ってたやつだよ!」
そう言い、計3台のスマホを地面に置いた。
穂香がスマホを持ち始めたのは中学に入学してからだったから、あたしもうっすらと記憶にあった。
「本当に? 見間違いじゃなくて?」
そう聞くあたしに、穂香がスマホの裏側を突き付けて来た。
そこには中学時代に一緒に撮ったプリクラが貼ってあったのだ。
すでに剥げているけれど、間違いなくあたしと穂香が並んで写っている。
さすがにこれにはあたしも青ざめた。
「ゴミ箱に捨てたの?」
そんなことするワケないと思いながらも、聞かずにはいられなかった。
穂香は青白い顔のまま左右に首をふる。
「古くなったスマホは家に置いてあったはずなのに」
それが、なぜだかわからないが今日、学校のゴミ箱から出て来たのだ。
「それは……勘違いなんかじゃないよね?」
「どうやったらそんな勘違いをするの? あたしが家からスマホを持って来て、捨てたって思ってる?」
声を荒げる穂香にあたしは絶句してしまった。
もしもこっそり家庭ゴミを捨てるつもりなら、さっさとコンテナにうつしてしまっていただろう。
それより先に、穂香は1人でゴミ捨てに行ったかもしれない。
それをしなかったということは、家庭ゴミを捨てるつもりではなかったということだ。
穂香は気味悪がりながらも、3台のスマホをスカートのポケットに入れた。
自分の私物を放置して帰るわけにはいかないのだろう。
「あ、そういえば……」
散乱したゴミをゴミ箱へ戻しながら、あたしはふと思い出して呟いた。
「なに?」
「理香先生のスマホも突然出て来たんだった」
「どういうこと?」
穂香に聞かれて、あたしは車の中で見つけたスマホについて説明した。
まぁ、なんの関係もないと思うけれど。
「へぇ……なんなんだろうね、気持ち悪い」
ゴミ箱にゴミを入れ終えて、穂香が立ち上がる。
コンテナにゴミを写す様子を見ていたその時だった。
突然全身にザワッと鳥肌が立った。
言い知れぬ不快感と寒気に周囲を見回す。
見慣れた学校の裏庭。
その端っこに、白いワンピースを着た女の姿が見えた。
「ヒッ!」
思わず悲鳴を上げて後ずさりをする。
「どうしたのナナカ?」
首を傾げて聞いてくる穂香へ向けて「あそこ!」と声を上げたが、その時にはすでに女の姿は消えてなくなっていたのだった……。
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