第14話

~ナナカside~


嫌な夢を見た翌日、あたしはいつも通り学校へ来ていた。



昨日のエマのことを貴久に相談しようかどうしようか悩んでいる間に、教室に到着してしまった。



「おはよう2人とも!」



B組の教室へ入ると同時に穂香が近づいて来た。



「おはよう穂香。今日も元気だねぇ」



穂香を見ていると大抵の悩みは吹き飛んでしまいそうになる。



しかし、今日はそんな穂香が深刻そうな表情をしていた。



「それよりさ、理香先生がいなくなったって話聞いた?」



「え?」



あたしは穂香の言葉に目を丸くして聞き返した。



「理香先生って実家で両親と暮らしていたみたいなんだけど、朝起きたら理香先生がいなくなっていたんだって」



「なんだよそれ。誰からの情報だ?」



貴久は眉をひそめている。



「人づてに聞いただけ。でも、登校して来てるB組の生徒たちはもうみんな知ってるよ?」



教室内を覗いてみると、すでに半分以上の生徒たちが投稿して来ている様子だった。



「そんな根も葉もない噂流していいの? 理香先生に怒られちゃうよ?」



あたしは自分の席へ向かいながら言う。



「根も葉もないってこともないみたいだよ? 先生たちが緊急会議をしているのを、外から偶然聞いた子がいるんだって」



「それ本当に? 聞き間違いじゃなくて?」



あたしは自分の席に鞄を置いてけげんな表情を見せた。



「それはわかんない」



穂香はヒョイッと肩をすくめている。



ただの聞き間違いだとしたら、理香先生に失礼だ。



「あたし昨日理香先生に家まで送ってもらったよ? その時は元気そうだったし、変わった様子もなかったし」



あたしは昨日の様子を思い出して答える。



「そうなんだ? じゃあ、噂が勘違いなのかなぁ?」



「きっとそうだよ」



そう言った瞬間、なにかが胸の奥に引っかかった。



昨日、理香先生の車に乗った時の光景がありありと蘇って来て、教科書を取り出す手が止まる。



「どうしたのナナカ?」



「ううん……なんでもない」



そう返事をした時だった。



不意に昨日見つけた古いスマホを思い出していた。



理香先生の車から出て来たスマホだ。



どうしてこんなところにあるんだろうと思ったけれど、大して気にはかけなかった。



実際にあれは理香先生のものだったし、珍しいことじゃないと感じた。



だけどなぜだか、今になってそのことが気になり始めたのだった……。


☆☆☆


B組の教室に学年主任の先生が来たのは、朝のホームルームの時だった。



男性主任は教室に入ってきた時から深刻そうな顔をしていたので、生徒たちは誰も私語をしなかった。



なにより、理香先生が行方不明になったという噂を知っている生徒たちばかりだったから、余計に静かだったと思う。



「今日は諸事情により赤谷先生はお休みです」



学年主任はとても小さな声でそう言い、出席を取り始めた。



「あの……理香先生がいなくなったって本当ですか?」



全員の出席を撮り終えた後でクラスメートの1人がそう質問していた。



みんなの視線が一斉に学年主任へ向けられる。



学年主任は居心地が悪そうに眉をよせ「それは、まだなんとも言えません」とだけ伝えて、逃げるように教室を出て行ってしまったのだった。



「今の、どう思う?」



すぐに声をかけて来たのは穂香だった。



「なにか隠してる感じだったよね」



あたしは頷きながら返事をした。



理香先生についてまだ明確なことがわかっていないから、情報を出す事ができないのかもしれない。



それにしたって、もう少しなにか説明してくれればいいのにと感じた。



「理香先生のこと気になるよね。今日の放課後、家まで行ってみない?」



穂香からの提案にあたしは目を丸くした。



「理香先生の家を知ってるの?」



「うん。実は近所なんだよね」



そう言って笑う穂香。



「そんなの、全然知らなかったよ」



「一応内緒ってことにしておいたの。昔からよく知ってるお姉さんだけど、高校に入学しら生徒と教師だからって」



「そうだったんだ」



それなら穂香と一緒に理香先生の家に行っても怒られはしないだろう。



エマのことも気になったけれど、理香先生のことも気になる。



「お前ら、理香先生の家に行くのか?」



そんな声に振り向くと、貴久が立っていた。



「うん。貴久も行く?」



穂香は当然のように貴久も誘っている。



「邪魔にならないなら、一緒に行きたい」



「邪魔なになんてならないよ。あたしの前でイチャイチャしなければね?」



穂香は冗談っぽくあたしと貴久へ向けて言った。



「しねぇよ」



貴久は少しだけ頬を赤らめ、怒ったように穂香へ向けて言ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る