第12話

~理香先生side~


今日も変わりない1日が終った。



生徒たちは相変わらず元気そうだったし、橘さんの妹さんに会うこともできた。



とても可愛くて賢そうな妹さんだ。



「そういえば、ちょっと変なこともあったわね……」



私は日記帳を前にして小さく呟く。



橘さんたちを車で送って言った時に、昔使用していたスマホが見つかったのだ。



それは間違いなく自分のスマホだったけれど、どうして車の中にあったのか見当がつかなかった。



私は使わなくなったスマホはちいさな段ボールにまとめて入れて、クローゼットで保管しているのだ。



カードを入れ替えれば使えるようになるし、なにか役立つかもしれないと思ってなかなか捨てられずにいる。



そう思い、私はクローゼットに手をかけた。



左右に大きく開くと中段の服が見える。



屈んで下段を確認すると、見慣れた白い箱があった。



それを取り出し、中身を確認する。



そこには自分の記憶通り、古いスマホが詰め込まれていた。



でも、今日来るまで見つかったスマホだけは入っていない。



車から持って下りて、今はテーブルの上に置いてあるのだから当然だった。



「おかしいわね……」



箱の中をひと通り確認して呟く。



どれだけ記憶を辿ってみても、車で見つかったスマホもこの箱に入れておいたハズなのだ。



その証拠に、スマホを購入した時にオマケでついて来た透明カバーがこの箱の中にあった。



本体とバラバラに保管したりなど、しない。



ほんの少しの気味の悪さを感じながら、あたしはテーブルに置いておいたスマホを箱の中に入れて蓋を閉めた。



そして箱をクローゼットに入れて、クローゼットの扉もしっかりと閉めたのだった。


☆☆☆


夢を見ていた。



それは知らない河原の夢だった。



川は透明度が高くとても穏やかに流れている。



暑い今の季節なら、思わず足を入れてみたくなるような光景だった。



そんな光景に似つかわしくない、崩れかけのアパートが見えた。



壁が一部倒壊していて、近づくのも危なそうだ。



そんなアパートの中に人影が見えた気がして私は眉を寄せた。



気のせいだろうか?



そう思いながらアパートへ近づいて行く。



その時、割られた窓の向こうに白いワンピースを着た女性が見えた。



「あっ」



と、思わず声を上げる。



勘違いじゃなかった!



いつ倒壊するかわからない建物にいるなんて、危ない。



咄嗟にそう考えて前へ足を進めていた。



「ちょっとあなた。危ないわよ?」



そう声をかけた瞬間……。



現実世界で電話が鳴り響く音が聞こえてきて、私は飛び起きていた。



外はまだ暗く、電気をともしていない部屋の中でスマホの光だけが眩しかった。



「こんな時間に誰……?」



ブツブツと文句を言いながらスマホ画面を確認してみると知らない名前が表示されていた。



「誰だろう……?」



その名前を頭の中で反復して記憶を呼び起こしてみるけれど、やっぱり思い当たる人物はいなかった。



寝ぼけ半分だったこともあり、私は着信を無視するとそのまま布団にもぐりこんだのだった。



再び眠りにつくかつかないか、ウツラウツラしていた時だった。



不意に……プルルルルップルルルルッと、着信音が部屋に鳴り響いていた。



強制的に覚醒していく頭に私は苛立ちを感じた。



明日も仕事があって朝早い。



それに、こんな時間に電話をかけてくるなんて非常識すぎる。



私は着信を無視して頭から布団を被った。



それでも鳴り響く着信音。



「もう!」



覚醒してしまった脳は簡単に眠りにつく事ができず、あたしは右手だけ伸ばしてスマホを握りしめた。



そして電源を落とす。



スマホはそれで静かになった。



ホッと息をついて目を閉じる。



それから15分後……プルルルルップルルルルッ。



再び私の脳は叩き起こされてしまった。



さっきから何度も何度も一体なんの用事だと言うんだろう。



私は枕元の電気を付けて乱暴に布団をはぎ取った。



そしてスマホを見つめる。



確か、さっき電源の落としたんじゃなかったか?



しかし、寝ぼけ半分の私はその疑問を感じなかった。



何も感じず、見知らぬ名前で呼び出しを繰り返している電話に……出てしまった。



「もしもし?」



ぶっきら棒な声が出る。



すると向こうから聞こえて来たのは得体の知れない音だった。



人の声じゃない、チョロチョロと、水が流れるような音。



私はぼんやりと音を聞きながらベッドの上に座っていた。



「あなた、誰?」



人を叩き起こしておいてなにも言わないなんて非常識だ。

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