第7話

「でもいいなぁ妹。可愛いでしょ?」



「まぁね」



いつでも、あたしや両親の後ろをついて歩き回るエマは確かに可愛い。



だからこそ、その口から汚い言葉が出て来たことは衝撃的だった。



「今日も行くのか?」



その声に振り向くと、貴久が立っていた。



「うん。行くつもり」



頷いて答えると、貴久は複雑そうな表情になった。



昨日のエマを見ているからだろう。



「そっか。なにもなければいいな」



貴久は深刻そうな表情でそう言ったのだった。


☆☆☆


学校が終わるとあたしは早足で幼稚園へと向かった。



幼稚園に到着すると園の中から子供たちの歌声が聞こえてきて、心なしかホッとした。



その歌が、この前エマが歌っていたものだったからだ。



少なくともみんなと同じように歌を歌い、覚えていたのだ。



あたしは額に滲んだ汗を手の甲で拭い、そっと中の様子を伺った。



何も問題がなければわざわざ先生を呼ぶ必要もない。



帰る時間になってからお迎えに来ればいいだけだ。



そう思っていたのだけれど……。



突然園内から子供の泣き声が聞こえて、あたしはハッと息を飲んだ。



歌声はピタリと止まり先生の焦った声が聞こえて来る。



なにかったんだろうか……。



そう思ってその場で棒立ちになっていたとき、エマが教室から飛び出してくるのが見えた。



「エマ!」



あたしは思わずそう声をかけていた。



しかし、エマには届かない。



エマは1人で園庭を走り回りながら、あの笑い声を上げているのだ。



その様子にスッと背中が寒くなるのを感じた。



担任の先生がエマを追いかけて教室から出て来る。



「エマちゃん! 教室に戻りなさい!」



しかし、エマには声が届かない。



「アハハハハハハハハハハハ!!!」



大人のような笑い声を響かせて園庭を貼りし回る。



同じクラスの子たちが教室から顔をだして、怯えた表情でエマを見ているのがわかった。



「先生!」



あたしは咄嗟に声をかけていた。



エマを追いかけていた先生があたしに気が付いて足を止め、そしてすがるような表情を浮かべたのだった。



☆☆☆


園内にある応接間に通されたあたしは、エマの今日1日の様子について聞かされていた。



「最初は普通だったんですよ? 元気に挨拶をして、自由時間には友達と遊んで……でも、その遊びがちょっと不思議というか……」



そこまで言って口ごもってしまった。



あたしはすぐに昨日の出来事を思い出した。



「死体ごっこ……」



そう呟くと、先生は目を丸くして何度も頷いた。



「そうなんです! その、死体ごっこをクラスみんなに広めてしまって」



困った様子の先生にあたしは「えっ?」と眉を寄せた。



「死体ごっこは別の子がしていた遊びじゃないんですか?」



「いいえ。どの子に聞いても昨日からエマちゃんがやり始めたって答えるんです」



「そんな……」



エマがそんな遊びを考えるなんて思えなかった。



死体とか、死に方とか、そんなこと家で教えるはずもない。



「エマはその……死ぬ方法とかも言っていましたか?」



そう聞くと、先生は頷いた。



「でも、そんなこと家じゃ教えません! きっと、他の子から聞いた言葉を覚えたんです!」



そうだとした思えなかった。



エマの行動範囲は家の中と幼稚園だけなのだ。



家で教えていないとなれば、幼稚園で覚えたとしか考えられなかった。



「私たちもそうかもしれないと思っていました。でも今日……」



「なにかあったんですか?」



途中で口ごもる先生に、あたしは先を急かした。



「ついさっきなんですが、友達の首を絞めたんです」



え――…?



先生の言葉にあたしは返事ができなかった。



ただ目を見開いて先生を見つめる。



「エマちゃんは友達の首をしめて『これが絞殺だよ』って……」



目の前が真っ白になった。



エマが友達の首を絞めた……?



「それで、私が慌てて止めに入るとエマちゃん、突然園庭に逃げて行っちゃったんです」

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