第2話

☆☆☆


翌日もよく晴れた日になった。



登校準備が終った頃に家のチャイムが鳴り、あたしは「行ってきます」と家族に声をかけて外へ出た。



玄関先には彼氏の里中貴久(サトナカ タカヒサ)が待っていてくれた。



学校がある時、貴久はいつも家まで迎えに来てくれるのだ。



「おはようナナカ」



「おはよう貴久」



このなんでもないようなやり取りで1日が始まるのが、心の底から嬉しいと感じる。



「昨日の理香先生の授業聞いた? めっちゃ面白かったぁ」



「あぁ~聞いた聞いた」



赤谷理香(アカタニ リカ)先生は担任の先生で30代半ばだけれどまだまだ若々しくて、童顔だった。



授業の間の雑談がとても面白くて生徒たちからの人気者。



休憩時間も気さくに話かけられる存在なので、友達感覚だった。



学校生活の他愛のない会話をしながら歩いていると、あっという間に学校に到着してしまう。



学校までの道のりがもう少し長ければいいのにと、あたしは毎朝考えていた。



といっても、貴久とあたしは同じ1年B組の生徒だから行先は同じだけど。



「ナナカおはよぉ! 今日も仲良く夫婦で登校ですかぁ?」



B組に入って一番に声をかけてきたのは森野穂香(モリノ ホノカ)だった。



穂香とあたしは中学時代からの仲よしだ。



貴久は友人の河名光弘(カワナ ミツヒロ)を見つけて、そっちへ行ってしまった。



名残惜しさを感じながらあたしは穂香に近づいて行く。



「夫婦なんかじゃないってば」



「でも毎朝ラブラブだよねぇ。いいなぁあたしも彼氏ほしい」



穂香はチークでピンク色に染まった頬を膨らませている。



「焦って彼氏作ったって続かないよ?」



「だけどあと一か月で夏休みじゃん! 高校最初の夏休みが彼氏なしとか悲しい~!」



穂香は上半身を机にべったりとくっつけて、オーバーに悲しがって見せている。



「じゃあ、光弘とかどう?」



あたしがそう言うと、穂香は目を丸くして窓際の席の光弘へ視線を向けた。



ネガネをかけた光弘は貴久と楽しそうに会話をしているところだった。



「光弘はないかなぁ……」



穂香はすぐに光弘から視線を逸らせてしまった。



「どうして? 光弘って優しいじゃん」



「優しいけど、楽しくはなさそうだよ?」



眉を寄せて言う穂香にあたしは思わず笑ってしまった。



確かに、光弘はとても勉強熱心な生徒でこの高校にも主席で入学している。



休憩時間中も教科書と睨めっこをしていることが多かった。



「光弘と付き合えば勉強を教えてもらえるかもしれないのに」



「そういうのは大学受験を考えてからでいいの! 今は高校生活を満喫しないと損だよ!」



なにがどう損なのかわからなかったけれど、穂香の言いたいことの意味は理解できた。



とにかく今は遊びたいんだろう。



そんな話をしていると理香先生が教室へ入って来た。



同時にホームルーム開始のチャイムが鳴り始める。



理香先生はいつも時間ピッタリに教室へ入ってくるのだ。



「はいみんな、席についてー!」



その声を合図に、あたしは自分の席へと移動したのだった。

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