第3話 フロッケは報告へ 二人は街の散策へ
『う、うーーーん。ああ、なんだろう。ぐっすり寝てたはずなのに腕がとても重い………。
お腹もポカポカ暖かいし、背中にも何か柔らかいものが?』
「なっ、なんじゃこりゃ???」
公彦は寝ぼけからだんだんと意識を取り戻して目が覚める。そして思わず叫んでしまった。
エーベルが自分のベットに入っており、公彦を腕枕にしてさらに抱き枕のようにして抱きついたまま寝ていた。
さらにエーベルだけでなくフロッケまで自分のベットに入っていて、背中から抱きしめていた。どうりで何やら柔らかいものを感じると思っていたようである。
「うーん。きみぃおはよう!
あれ? なんで私のベットにいるの?
もしかして、夜伽しちゃった?」
「エーベルさん! 夜伽は関係ないから! ちなみにここはオレのベット! そしておはよう!」
「ななっ!? 馬鹿者! とうとう儂にまで手を出そうというのか? いくら儂が可愛いからといってもそれはいかん、許さんからな!」
「エーベルはともかく、フロッケも寝ぼけているのか? しっかりしてくれよ!」
「うわぁぁぁ! わ、儂ともあろうものがとんだ間違いを犯してしまったのか? ベル様のベッドに間違うのならともかく、こんな不埒な人間族の男と間違ってしまうとは。こ、こんなはずでは!?」
とまあ、このようなお約束の朝を迎えつつ、3人は朝食を取っていた。
エーベルは寝起きのことは特に気にすることもなく黙々とご飯を食べていた。
一方、フロッケはちょっと顔を赤らめつつも気まずそうにしていて、そしてふたりに話しかける。
「ふぅ。まあ、先ほどの件は事故ということにして、今日の予定についてじゃが、総合ギルドがある中央地区に行って、その後はギルド長と魔王様に報告に行く。
その間はふたりで街の雰囲気でも楽しんでくるがよい。まあ、ふたりにさせるのは癪なのじゃがな。」
「了解! あ、でも街に出てもお金が無いんじゃなんもできないんだけど?」
「ああ、わかっておる。銀貨1枚くれてやるので、それで遊んでおれ!」
「えええ、1枚? そんなケチってないでもっと欲しいな! どうせ経費で落ちるんでしょ?」
「なっ、お主は図々しにもほどがあるのじゃ!」
「でも、そんなんだと美味しいもの満足に食べられないじゃん。ねえ、エーベルもそう思うでしょ?」
ここに来て公彦はエーベルの名前を持ち出す。エーベルもフロッケを黙って見つめる。
「くぅ、相変わらず卑怯な奴じゃのう。わかったわ! もう2枚銀貨を追加してやろう! これ以上は無理じゃからな!」
「わーい! フロッケさんありがとう! ホントに優しいよなぁ!」
公彦はわざとらしくフロッケを持ち上げる。エーベルも満足そうであった。
そしてエルフの自治区から2時間ほど馬車に乗り総合ギルドの前に来た。かなり大きな建物である。フロッケはそのまま総合ギルドの中に入っていった。
暗くなったら再びここで待ち合わせになっている。
「さて、エーベル。どこに行く?」
「ごはん!」
「まあ、確かにお昼も近いもんね。」
そしてふたりはまず、レストランのような飲食店を探して入り、ほどほどに食事を取った。
「さて、次はどこに行く?」
公彦はエーベルに尋ねてみる。
エーベルとのデート、ということになるのだが、エーベルが小さいので恋人同士というよりも親子か、せいぜい兄妹のようにしか見えなかった。
「きみぃ!
私、あれが食べたい!」
「え? 今食べたばっかりなのにまだ食べるの?」
店を出たところに、クレープのようなものを売っている出店があった。明らかにこの店を出た客を狙っているのがわかる。
「ねえねえ、次はあっち!
なんかおいしそうな匂いする!」
エーベルはまさに子供のように公彦の腕を引っ張る。これでは確実に親子である。
と食べてばかりのふたりだが、公彦は街の様子を伺っていた。
以前にエーベルと王国に行ったときに空から見えた街並みよりは若干見劣りするが、それでも国の中心地である。総合ギルドの建物はかなり高い。ほかの建物も4,5階の建物が多く、とても活気があり街の人(といっても人間族ではないが)は忙しそうに往来している。
総合ギルドの入口近辺は大きな公園になっていて大きな噴水もあった。電気も無く仕組みはわからないがちゃんと水が噴射していた。
そしてお店のトイレでは水道があり、蛇口を捻れば水が出てきて、さらに用を足したものも水洗で流れていく。技術力の高さも感じ取れた。
たぶん、魔法でやっていることだと思うのだが、仕組みがわからずとてもワクワクする公彦である。
また、お店も飲食店から素材にまつわる衣食住すべての店があり、また宝飾店などの贅沢品の店もたくさんあり、国の豊かさと安定さを感じ取ることができた。
そして歩き回っているうちに暗くなってきた。公彦は昨日も驚いていたのだが、街灯があり明かりが点灯するのである。
日本にいるときの街灯ほどは明るくは無いのだが、それでも周りを見渡すには十分過ぎる明かりは確保されている。何か、石のようなものが光っている。これも何かの魔法だと思っていた。
街灯も点灯し、周りは暗くなってきたこともあり、公彦とエーベルは総合ギルドの入口に戻ることにした。
そこにはすでにフロッケの姿があった。
「なっ! お主! ベル様と仲良く手なんか繋ぎよってからに! このうらやまけしからんぞ!
ちきしょう。せいぜい楽しんで来たんであろうな? ベル様の満足そうな顔が素敵じゃが、お主はやっぱり許せんのじゃ。
儂も報告作業が無ければベル様とイチャ………、ではなく、ご一緒出来たというものを!」
「ちょっ! 何に怒っているのかさっぱりわからんけど、まあ、晩御飯はみんなで食べようよ。あっ、これは余ったお金ね!」
「そんなことは言われんでもそうするわい! 今回はベル様の隣に座らせてもらうからな!」
「え? やだ!
私、きみぃの隣に座るから。」
速攻で拒否されるフロッケであったが、それは置いとき、フロッケお勧めのレストランに向かうのであった。
そしてお酒や食事を楽しみながらフロッケは公彦に報告を始める。
「で、お主に言っておかねばならんことがあるのじゃが。」
「うんうん。その報告楽しみにしてたよ! まあ、どうせ、オレにも総合ギルドに来いってことでしょ?」
「なんと!? まあ、察しが良くて助かるのじゃが、まさにその通りで総合ギルドに来てもらうことになった。」
「了解! まあ、そんなことだろうとは思っていたけどね。で、会談には誰がくるの?」
「総合ギルド長と、魔族自治区のトップである魔王様じゃ。あ、総合ギルドの副長もされておるがな。あ、それと儂もな。」
「響きからしてかなり偉い人のように思えるけど?」
「そんなもん当り前じゃ! この国のトップ3のうちのふたりじゃからな。」
「ひょえええぇぇ! マジかよ?
まあ、それだけ自分への興味が高いということだよね? まあ、自分から敵対することは無いけど、舐められないようにもしないとな。
それと、フロッケも出るの? こんなそうそうたるメンバーの中で?」
「なっ? 急に失礼なことをぶっ込んでくるんじゃ! 思わず聞き漏らすところじゃったわい。じゃから儂もかなり偉いんじゃって言っておろうが!」
「へぇ。ほう。ふーーーん。(棒)」
公彦は全くもって一ミリも信用していない様子である。
『まあ、わざわざフロッケを調査に向かわせて、そしてその本人が来てるんだし、誰かしら会わないっていう選択肢は無いと思ってたけど、いきなり大物が現れるなんてすごい注目されてるじゃん!
さっきも言ったけど、敵対するつもりは無いけど、舐められる筋合いもない。エーベルと楽しくスローライフするためにもしっかりと調整しておかなきゃね!
いやはやこういう交渉事は久しぶりだなあ。楽しみでワクワクが込み上げてくるぞ!』
「あ、そういやフロッケさん? エーベルも同席しても良いんだよね?」
「ああ、それは大丈夫じゃ。ベル様をひとりにするわけにもいかんからな。」
そしてみんなは宿屋に戻りお風呂やら身支度を済ませて寝ることにした。
公彦はワクワクで眠れないと思っていたらしいが、エーベルと歩き回ったせいか意外とすぐに寝てしまったのであった。
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