第2章

第1話 多種族連合国へ行ってみよう!

 出発は翌朝にすることにした。公彦たちは出発のために食料の備蓄などの準備を始めた。エーベルには最後の狩りに出かけて貰い、公彦は川で魚を捕っていた。


「ちなみにだけど空間魔法の空間って、時間が止まっていたりするとかじゃないんだ?」


「ああ、そういうものではないわな。」


「やっぱり生の魚とか入れたら腐っちゃうってこと? 温度も常温なんだ?」


「うむ。その通りじゃ。儂も昔似たようなことを試したが食物類は腐ってしまうのう。氷もまた解けて蒸発してしまうわい。


 儂も空間魔法でいろんな物質を格納することができることは理解しておるが、できた空間のことはそこまで詳しくはないんじゃ。


 あ、しかしのう、空間魔法を作成した場合はずっと魔力を消費し続けるので注意が必要じゃぞ! まあ、儂くらい超絶魔力量があれば微々たるものじゃが、お主だと結構きついかもしれんぞ。」


『うーん。確かに不明なところが多いよな。とりあえずはMP切れにならないように注意しながら運用することにしよう。


 しかし、両手を空けられて重さを感じないでモノを運べるっていうのはめちゃくちゃ便利だよな。利用しない手はないね!』



 そうこうしているうちにエーベルが返ってきた。

 公彦は果物類をドライフルーツにして魚類も干物にするようにした。すでに夕方であったが、火の魔法と風の魔法をうまく駆使して作製している。



「なっ? お主、魚を干物にできるのか? すごいではないか?」


「え? はらわた抜いて干せばいいだけじゃん? ほんとは塩があれば良いんだけどね。


 生の状態は保存効かないんでしょ? まあ、保存っていっても数日持たせれば良いだけだしなんとかなるでしょ?


 まあ、足りなくなったらエーベルにまた森に入ってもらうことになるけどね。」


 フロッケの言葉に公彦が当然のように答える。



「まあ、狩りは任せろ!

 この森は食べるもの多いから楽ちんだ。」


 エーベルも心強く返事してくれた。



 翌朝、公彦はあらかじめ干してあったドライフルーツと干物を回収し、覚えたての空間魔法の中へ閉まっていく。


「いやー、これマジで便利だな! フロッケありがとな! さて、出発しますか! フロッケさん。道案内よろしくね!」


「しょうがないのう………。ホントは気が乗らんのじゃが、ベル様がいらっしゃるからしょうがない。


 っていうか、ベル様は今日も可愛らしい!」



 そうして3人はとりあえず川をくだって行った。最初は黙々と歩いていたが、急に公彦がしゃべりだした。


「あ、そういやなんだけど、フロッケって魔族じゃん? めちゃエーベルのことを気に入っているみたいだけど、そもそもドラゴン族と魔族って抗争状態じゃないの? 仲良くしていて良いの?」


「ああ、そのことか? それなら儂らは魔族の中でも穏健派じゃからな。抗争には参加しておらんのじゃ。


 もちろん、ドラゴン族の中にも穏健派はおる。穏健派同士は仲良くはしておらんが、別に敵対もしていないというわけじゃ。


 そして双方の穏健派は多種族連合の国に住んでおる。ふむ。そうじゃのう。せっかくの機会じゃからな。その辺も少し教えてやるわい!」



 そう言ってフロッケはこれからいく国のこと、ドラゴン族と魔族の抗争のことを教えてくれた。概要はというと、


 ・王国、帝国、人間族中心の多種族連合、人間族以外の多種族連合の4つの国と海の向こうの島々に国とまではいかないが、人間族も含め多数の種族が住んでいること。


 ・大規模な魔石採掘場があり、そこを囲むように人間族中心の多種族連合、さらに各種族(ドラゴン・魔族・エルフ・ドワーフ・オーク・精霊)の大きい街があること。


 ・人間族中心の多種族連合は主に帝国で権力争いに敗れたものが集まって国を形成したということで、事実上、帝国の属国であること。


 ・ドラゴン族の街と魔族の街は主に過激派や強硬派が住んでおり、数年前から採掘場の場所について争っていたこと。


 ・全面衝突になり、お互いの街を破壊しつくし、住んでいる者も大半は戦闘で亡くなり抗争もほぼ終了していること。


 ・これから行くのは人間族以外の多種族連合で、その中での総合ギルドへ向かう。そこは各種族の中立地帯、まあ、首都のような機能をしておる。



 などなどを話してくれた。



「とまあ、こんなところかのう? だから、穏健派の儂がベル様を推してもなんも不思議はないのじゃ。


 それよりも、問題はお主じゃわ! 魔族は力が大きい分、他の種族にも警戒されやすくてのう。そんなところへお主をホイホイ連れ帰って良いのかどうか迷っておるのが本音じゃ。」


「へぇ。いろいろ教えてくれてありがとう。それにオレのこともそうやって考えてたんだね。ただの残念系の気持ち悪い子って訳じゃなかったんだね。っていうか、どっちかって言ったら有能じゃん!」


「そうそう、こんなナリでベル様のことになると取り乱したりもするんじゃが、ちゃんと考えてって、誰が気持ち悪いんじゃ!!!」


 相変わらずのひとり乗り突っ込みをかましているフロッケだったが、公彦はスルーして話を続けるのである。



「まあまあ、そんなことより人間族の国についてもうちょっと聞きたいんだけど? っていうか、話し始めちゃうんだけど、以前エーベルと人間族の国に行ったんだよね。とても立派なお城があったよ。」


「たぶん、王国だと思う。」


「あ、エーベルありがとう! そうかあそこは王国のほうだったというわけなのね。


 で、その王国に行ったら門前払いを食らったんだよね。なんというか全面拒否だったよ。オレ、一応人間なんだけど、とても傷ついたよね。怒りもこみあげて来たよ………。」



「あー、なるほどな。儂も王国や帝国のことは良く知らん。行ったこともないからな。そもそも人間族は他の種族を嫌っておるよな。


 まあ、個々では弱い存在じゃし、大きな力を恐れるのはわからんでもないわい。しかし、我々からみたら人間族のほうが奇妙じゃかな。


 確かに個々では弱いが、団結力があるし、知性や知能も高いのでとても高度な魔法なんかも生み出したりするからな。


 って、話が逸れてしまったな。王国は王国市民と一部の帝国市民しか入ることができんのじゃ。他の種族や人間族は帝国との国境にある辺境自治区か今からいく多種族連合の国境近くの辺境自治区、このふたつの辺境自治区のどちらかを足掛かりにする必要がある。


 今は多種族連合と王国は国交が無いが、その辺境自治区の辺境伯様とは細々と取引をしている状態じゃよ。」



「思いのほか、重たい話だったな………。

 確かに気軽に行って良い国では無いようだね。でも、いつかはリベンジで王国の土を踏みたいなあと思うわけなのですよ。」




 そうこうしているうちに夕方になった。


「じゃあ、今日はここで野宿するしかないかな? 歩くと6,7日掛かるんだよね?」


「ああ、そうじゃな。儂はいろいろと寄って来たからもっと掛かったが、あと4日も歩けば国の端に着けるじゃろうて。その後は定期便に乗れば1日くらいで目的地に到着じゃ。」


「そっかあ。結構かかるよなあ。ああ、早く人間らしい生活に戻りたいなあ。ミーナさんとの約束をようやく果たせそうだよ!


 って、オレたちなんでこんなちんたら歩いているんだよ?」


 公彦が急に声を荒げたので、ビクッとなって公彦のほうを見る二人であった。



「ねえ、エーベル! ふたりを乗せて空飛ぶことはできないの?」


「えー?

 できるけど、でも嫌だ!」


「なっ、なんで? やっぱりフロッケを乗っけるのは気持ち悪い?」


 何気にサラッと公彦のひどい言葉にフロッケが反論する!



「なっ、貴様! 失礼であろう! こんな可愛い儂に対して!

 まっ、まさか!? 本当に儂を乗せるのがそんなに嫌なのですか? ベル様??」


 フロッケは若干自覚があるような言い回しをする、エーベルはごみを見るような眼をしていた。


「その軽蔑のまなざしも素敵じゃわい! ああ、尊いのじゃ………。」


 フロッケはそのままサラサラと消えそうになっていたが、構わずエーベルが話し続けた。



「別におまえなんかはどうでもいい。

 そんなことより、今、きみぃ歩いているの楽しい!


 私、ドラゴンの街からあんまり出たことない。

 街じゃ、ほとんどおじいちゃんとおかあさんと訓練ばっかだった。」


 表情こそ普通だったが、しかし、声色がちょっと弾んでいるように聞こえた公彦である。

 そんな風に言われてしまったら何も返す言葉が見つからなかった。



「そっか。エーベルがこの旅を楽しんでいるんだったらそれはいいことだ。っていうか、エーベルも楽しんでくれてたんだね!

 だったら、このまま歩いていくことにしよう。オレも嬉しくなってきちゃったよ!!」


「儂が嫌われているわけじゃなかったのね! 嬉しいのじゃ! ベル様ぁぁ!!!」


「もう、叫ぶな!

 こっち見んな!

 キモイ!」


 どさくさに紛れてフロッケはエーベルに抱きつこうとしていたが、エーベルに文字通りの足蹴にされていた。


 そして、3日間はほぼ川をくだって行く作業。その後は森を抜けて、草原地帯になっていたが獣道を1日ほど歩いた後、ようやく平野部にたどり着いた。



「このあたりが国境付近じゃ。もうちょっと歩くと定期便の馬車駅が見えてくるぞ!」


 フロッケが言った。流石に顔に疲れが出ている。それは公彦も同じであった。エーベルだけが粛々と公彦の隣を歩いているようであった。

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