第3話 みんな期待の展開です!
「くそう。めっちゃ悔しいな。しかもこうトボトボと歩いて帰っているのが一層敗北感を演出するな。」
公彦は声を出して言った。エーベルは特に聞いている様子もないので独り言になっている。ちなみに歩いて帰っているのは相手を刺激しないように飛行することを配慮したからである。
さらに公彦の独り言は続いた。
「しかし、転生前の仕事のときでさえ、こんなひどい仕打ちを受けたことは無かったよ。もしかしたら、人生において一番で最大の汚点かもしれないな。ほんと屈辱だよ。
はっ!? そういや、エーベルもかなり中傷を受けていたよな? エーベル大丈夫?」
自分のことで精いっぱいだった公彦だったが、ようやく他のことにも意識を向けられるようになった。
「別に気にしてない。人間族はだいたいこんなもの。
お母さんが言うから来てみただけ。
本当はどうでも良かった。」
「そ、そうなの?」
そっけないエーベルの言葉に、一言返す公彦であった。
表情とか見ても特に変化もなく、本当に物事に興味が無いんだなと思った。その反面、興味が無いと言う割にはこういうことも良く理解しているようであり、いろいろと経験をしていることも理解した。
その後、ふたりは元々いた場所に戻ってきた。ここなら文化的な生活というのはほど遠いが、しかし、生きていくには十分に食料を調達できると判断したからだ。
「あっ、ちょっと待って!」
エーベルはそう言って、ぶつぶつと独り言のようなものを言い始めた。そしたらどうだろう。エーベルの身体がどんどんと小さくなっていった。
『これはもしかしてテンプレ展開の人型になるというやつか? 確かに甥と見たアニメでは鉄板だったかもしれない!
というか、このタイミングなの?』
そして大まかには公彦の期待通りの展開となる。
身体の外見は小学生の高学年くらいのサイズである。腕とスネのところは若干うろこが残っている感じで、さらに身体に合わせて小さくはなったが、立派なしっぽは隠れていないようだ。残ったうろこや尻尾はレッドドラゴンの名残からか真っ赤である。あと、残念ながら胸は無いようである。
髪は前髪もサラサラで、後ろも背中までサラサラと伸びている。目は少しつり目キリッとしており鼻も高く顔立ちの良さを感じる。身体は小さいがすごくお姉さんのように感じる。正統派美少女とはこのことをいうのだと思うばかりだ。目や髪が真っ赤なのも綺麗に整っている顔によく映えるようである。
しかし、着ている服装ときたら、大きな布を一枚頭と腕を通して着ているだけだ。下着類も着ていないようである。これは大問題だと思ったが、今はどうすることもできない。
「お待たせ。」
エーベルは何事も無かったかのようにキョトンとしている。反面、公彦は開いた口がふさがらない状況であるが、なんとか一言ひねりだした。
「えっと、人型にもなれるんだ?」
「え? うん。
きみぃが人間族だし、私もこっちのほうが便利。
まあ、能力は格段に下がる。
でも、これで十分だし。」
エーベルは淡々と説明した。そして、
「じゃあ、私、食べ物採ってくる。」
そう言ってエーベルは人の姿のままで森の中に入っていった。
確かに王道のテンプレ展開とはいえ、公彦は本来そこまでオタクというわけではない。ドラゴンがいきなり美少女に変身するんだから状況についていけないのはもちろんであろう。
数分してようやく我に返った公彦は河原に落ちている木々を拾い集めることにした。また、石も組み立てて上手くたき火ができるようにセッティングしていた。
しばらくしてエーベルが帰ってきた。しかし、この子は本当にすごい。わずかな時間で果物や野兎や鳥なんかを採ってくるのである。今の状態、養われているのは間違いなく公彦のほうである。
「エーベル。多分だけど、肉は焼いたほうがおいしいと思うよ? 試しにやってみる?」
そう言ってエーベルにあらかじめ集めていた牧に火を点けて貰って野兎を焼いた。
「ん!? これ美味しいね!」
一応、喜んでくれたエーベル。今の公彦にできるのはこれくらいであった。
そして大きめの石に並んで座って食事を取っていた。
「エーベル。ありがとうね。ミーナさんには大きなことを言っておいて、文化的な生活はおろか、オレ、エーベルがいないと生きていけない状態だよ………。」
「別に気にするな。
お母さんにも言われたし、それに困ったときはお互い様だ。
良いことをしたら、良いことが返ってくるってお母さん言ってた。」
エーベルは肉をほおばりながら不愛想に答えた。
『不愛想だけど、それって別に嫌いとかめんどくさいとか思ってなくて、本当に地の性格なんだろうな。確かにあの母親に育てられただけある。とても良い子である。公彦はこの小さな女の子(と言ってもドラゴンだが)に尊敬と感謝を感じていた。』
バチッ!
たき火から火の粉が飛んできた。
「アツッ!!
あれ? しまっ………。」
そう言って、公彦は後ろに倒れこむ。
「ひゃん!?」
エーベルは今まで発したことがないような可愛らしい声で叫んだ。
実は、公彦が倒れるときにうっかりエーベルのしっぽを思いっきり掴んでしまったのである。
「ああっ! ごめん。エーベル!」
公彦はそう言ってすぐにその場からどいた。
「きみぃ! 今回はしょうがない。
でも、次にやったらぶっとばすから。」
エーベルは顔を赤らめて自分のしっぽを抱きながら公彦を睨み付けていた。
『うっ、怒った顔初めて見たかも。エーベルには悪いけど、これはめっちゃ可愛い!
これがギャップ萌えというやつなのね。』
「いや、ほんとごめんね。」
公彦はもう一度謝っておいた。
ちょっと気まずくなった公彦。なんか別の話題にしようと思い、エーベルにしゃべりかけた。
「あ、そういや、その布の服だけど、他に何かないの?」
「無いよ。」
「いやいや、下着も吐いてないでしょう? 女の子なんだからこれはかなりまずいと思うんだよね。」
「ええ? 別にいいよ。
これのほうが楽。」
「オレもちょっと目のやり場に困ることがあるんだよね………。」
「え? なに?
この姿って人間の子供だけど?
きみぃって、子供にも興奮するの?
へぇ。ふーん。
だったら、別にいいよ?」
「良いって、何が? 嫌な予感しかしないけど………?」
「夜伽!
初めてだから良くわかんないけど。
きみぃがしたいならいいよ?」
「うわぁぁぁぁ! この子はなんてこと言うの!? そんなことは言ってないでしょう!!!
っていうか、なんの話をしてたんだっけ?」
ほぼ真顔で言うエーベル。
逆に公彦が慌てふためき顔を赤らめて否定する事態になった。
『あああ、しっぽを掴んだ話題を変えようと思ったけど、墓穴を掘るってこういうことかよ!』
食事も終わり、後片付けをしている公彦。エーベルはそのまま寝てしまったようである。確かに今日は人間族の国に行ったり、美少女に変身したり、かなり濃い一日だったから仕方がない。
公彦もエーベルの傍で横になった。
『っていうか、オレ、この世界に来てからまだ二日しか経ってないだ? もう1か月くらいいる気分だよ。
ああ、空がとても綺麗だ。それに月らしきものもあるんだ。どおりで夜なのに結構明るいはずだ。
可愛い女の子もいる。大変だけどこの世界も悪くないな。』
そう思いながら公彦も眠りについた。
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カクヨムさん的には約1年ぶり、自分的には約半年ぶりくらいに復活しました!
今回はより見やすくわかりやすい、それでいて面白いをコンセプトに小説を書いてみました。
もし、面白いと思って下さったら「フォロー」「★」「ハート(応援)」をお願いします!
現在はプロローグ合わせて8話分を書き溜めて順次公開していきます。
評判が良かったら続きを書いていこうかと思います!
それでは引き続き、小説の世界をお楽しみください!
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