第1-②話 転生完了。神様のうそつきぃ!
公彦の1分ほどの空の旅。
とも言えない川を飛び越えただけだったが、乗り心地は慣れないせいもあり良くなかったけど、しかし、来て早々、ドラゴンに乗るなんて異世界に来た実感なんかを噛みしめていた。
「じゃあ、降りて。」
子供ドラゴンにそっけなく言われて、公彦はさっさと降りることにした。母親ドラゴンも見ている中でこの後も何をされるかわからない。ちゃんと言うことを聞くようにしている。
そして母親ドラゴンは公彦のほうに顔を向けた。どうやらもう身体のほうが動かないようである。
「これは人間族の方。娘が乱暴な連れ方をして無礼を働きました。お詫びします。」
とても上品な美しい声でしゃべりかけてきた。公彦としてはとても気品にあふれ高貴さを受け取ったのである。
「いえいえ、お気になさらないでください。それにお身体に触りますので無理はされませんように。」
公彦も最上位の敬語で応えた。
「いえ、ご覧の通りで私はもう長くはありません。最後に人間族の方に出会えたのはとても幸運を感じております。
そう言えば、自己紹介がまだでしたね? ちなみに娘のほうは名乗っておりますか?」
母親の問いに対して子供ドラゴンはツンとしている。母親ドラゴンはしょうがないといった表情で自己紹介をしてくれた。
「この子はあまり周りに対して興味が無いだけなのです。根はとても良い子なのです。どうかくみ取って頂けると幸いです。
私の名前はミーナ。こちらは娘のエーベル。皆はベルと呼んでます。誠に厚かましいお願いではありますが、貴方のことをお聞かせ願えますか?」
母親ドラゴンとしては、とても苦しい状況に違いないはずなのに、懸命に状況を伝えようとしてくれていた。
公彦としては最上位の注意を払いこの緊迫した状況を見守っていた。
「もちろんです。
私の名前はサイトウ キミヒコ。実は異世界からやってきました………。」
そして公彦は、先ほどエーベルに話した内容や転生前の状況などを簡潔にミーナに伝えた。自己紹介を終えた公彦の話に対して、流石にミーナも驚いているようであった。
「まさか、異世界の方でしたか? 嘘を言っているようにも思えませんし、私は信じることにします。」
「え? そんなに簡単に信じて貰えて良いのですか?」
「ええ。あなたからは不思議な魔力の波動を感じます。
それと、この世界は数十年に一度、異世界から転生されるらしいことは知っています。私も十数年前ですが、異世界の方に会ったこともあります。まさか、ふたりも会えるなんて奇跡です。」
ミーナの言葉に逆に公彦のほうが驚いてしまった。確かに神様は1日100人程度さばいているって言っていたので、被ってしまうこともあるのだろうと思った。
「不思議な魔力というのはおそらく神様からのスキルだと思います。私はすべての魔力属性を保持してここに来ました。これが理由だと思います。
ただ申し訳ないのが、ここに来たばかりで魔法そのものは使えないんです。私に魔法が使えていたら、もしかしたらお救い出来たかもしれないのに………。」
そう言って公彦は歯を食いしばった。無念の気持ちがいっぱいである。
そんな公彦を見てミーナは言う。
「いえいえ、そんなことお気になさらないでください。怪我をしてしまったのは私に力が無かったからです。まったく責任を感じる必要はありません。
それよりも、もう少し私どもの状況をお伝えします。」
そう言ってミーナは苦しい状況を超えて公彦に伝えてくれた。公彦としては自身の有力な情報になることはもちろん、ミーナの遺言にもあたる言葉になると判断した。一言一句聞き漏らすことなく真剣に聞いたのであった。
内容を要約すると、
・ドラゴン族と魔族で抗争状態となっていること
・ドラゴン族も魔族もお互いの住処の土地は壊滅状態になっていること
・ミーナの夫であるドラゴンもすでに亡くなっていること。
・エーベルの兄に当たるドラゴンがいるが、消息は不明であること
引き続きミーナの言葉が続く。
「我々の故郷はもうありません。故郷では人間族ほどではないにしろ、少しは文化的な生活をしていました。
しかし、この子はあまりそういうところに興味がなく、このままだと野生動物のような生活をしてしまいそうでそれが心配でなりません。」
「わかりました。お任せください。
私もこの世界に来たばかりで最初は苦労掛けるかもしれません。しかし、これでも人間で転生前はとても高度な生活をしていました。大切な娘さんをその辺の野生動物のような生活をさせないよう約束します。」
「そのお言葉本当に頼もしいです。
ここに着く前に、空から人間族の国が見えました。立派な建物もあったのでまずはそちらに行ってみるのも良いかもしれません。人間族はとても排他的ではありますが、キミヒコ様と一緒ならもしかすると良くして頂けるかもしれません。
他にも人間族の国はいくつかありますし、また、人間族以外の種族の国や街もたくさんあります。」
ここで一度、ミーナの会話が途切れた。そして苦しそうに吐血する。
「お母さん!」
そう言ってエーベルはミーナに寄り添う。
公彦としてはこの光景にすでに顔面がぐしゃぐちゃになっていたが、目を逸らさずにしっかりとふたりを見守っていた。
「ベル。もっと顔を見せておくれ!」
「うん。お母さん!」
「本当に大きくなったわね。もう、故郷も無いわ。あなたは魔族との抗争なんかは気にせず自由に生きるのよ。
それと、これからはキミヒコ様の言うことをよく聞いて過ごすのよ。」
「うん。わかってる。」
最後にミーナは公彦に向かって言った。
「まさかのこの状況でキミヒコ様に出会えて本当に、本当に良かった。とても安心しました。これで思い残したことはありません。
どうぞ、エーベルを、娘をよろしくお願いします。」
「はい。」
公彦は一言だけいって、深々とお辞儀をした。
ふたりに見守られながらミーナは息を引き取った。その表情はとても穏やかであった。
エーベルは引き続きミーナに寄り添っていた。公彦は特に何も言わず、その状況を見守っていたのだった。
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カクヨムさん的には約1年ぶり、自分的には約半年ぶりくらいに復活しました!
今回はより見やすくわかりやすい、それでいて面白いをコンセプトに小説を書いてみました。
もし、面白いと思って下さったら「フォロー」「★」「ハート(応援)」をお願いします!
現在はプロローグ合わせて8話分を書き溜めて順次公開していきます。
評判が良かったら続きを書いていこうかと思います!
それでは引き続き、小説の世界をお楽しみください!
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