真島昌利の解答

 飛べない鳥に勇気は要るか?


 そんなのは要るに決まっている。飛べないからといって、空を舞って地をはう俺を見下す奴らを許すつもりは毛頭ない。

 あいつらのいる高さまで、木を登ろうが崖を駆け上がる事になろうとも必ず辿り着く。その為には勇気だろうが何だろうとも、使える物は全部使わなければ不可能だ。


 俺は久しぶりに寺田ジムへとやって来た。ボクシングの強豪校に入って死物狂いで練習してきた。そのお陰で一目置かれる位には強くなれたと自負している。

 まだ部長等には劣るけど、それもいつか越えてみせる。俺ならやれる。それは曖昧な目標ではない。決意だ。

 しかし、その前にどうしても決着をつけておきたい相手がいた。高校生にして、強化選手にも選ばれるだろうと噂されている月本と決着を付けたい。その為にここへやってきたのだ。


「お久しぶりです。寺田会長」

「元気にしてたか、真島」

 俺は寺田会長に挨拶した。昔と変わらず目がいっている。

「実はお願いがありまして」

「何だ?俺とお前の仲だ。言ってみろ」

「月本とスパーさせて下さい」

 俺は寺田会長の目を見据えてそう言った。昔からこの人の目は苦手だったのを思い出した。

「ちょうどいい。太陽も来るし遊んでいけ」

 ギラギラと鈍い光を宿した寺田会長の目は、そう告げると一層輝きをましたように思えた。

「それじゃ、サンドバッグ借りますね。アップします」

 俺は身体を温める。今日こそ奴に勝つ日だと決めていた。


「お疲れさーん」

「お疲れ様です」

 2人の声がジムに響いた。待ちに待った。

「太陽、ようやく来たか。真島がいるぞ」

 寺田会長がそう言う。

「マムシ!久しぶりだな」

 太陽は挨拶して来たが無視だ。

「月本!スパー付き合ってくれんか」

 もう気持ちを抑えられない。早く早くリングに上がってこいつを倒したい。

「まあ待てや、真島。まずは太陽とスパーしな」

 寺田会長は横から口を挟む。面倒くさい。

「来たばかりでスパーしろって言うのかよ。おっちゃん」

「いつも言ってんだろ。常在戦場。いいから黙ってリングに上がれ」

 太陽は着替えてヘッドギアを付けてしぶしぶリングへと上がってきた。俺もそれに続く。

「3分1ラウンドで良いか?まあ、肩慣らしだ。久々にお前の拳見せてみい」

 寺田会長は俺に語りかけた。こんな余興は直ぐに終わらしてやる、と拳を固めた。


カーーン


 とリングが鳴った。俺は太陽にすり寄る。左腕は目線よりやや上にこぶしが来るように構え、右腕は横腹にくっつける。膝は少し曲げて遊びを作る。ボクシングの基本的な構えだ。俺にはこれが一番性に合っていた。

 太陽は、若干両腕を開いて正面から俺を捕らえるように構えている。昔から変わらん、こいつのスタイル。

 ジャブを当てる。次は右ストレート。これは流石に防がれた。

「太陽、お前じゃもう俺には勝てねえよ」

「言ってろ」

 次はジャブジャブジャブ。気持ちよく当たる。右ボディ。とらえた!次は右フック。悶え苦しむ太陽は避けられない。マットに沈む。

「綺麗なジャブだ。だいぶ練習したな」

「普通ですよ」

 俺はロープにもたれ掛かりながら会長と語り合った。次が本番だ。

「太陽!はよ降りんかい!」

 会長がそう叫ぶと、太陽は這いずってリングから降りた。意識をふっ飛ばしたつもりだったが、まあ良いか。


 上で見下ろしていたあいつの高さまで、俺はやって来れたのだ。



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