飛べない鳥の僕達は

あきかん

月本薫の解答

 高校生が橋の手摺に登って飛んだ。

「ふら〜い とぅ〜 ざ む〜〜ん!!!」

 両手を天に掲げて川へと落ちていく。


 飛べない鳥に勇気は要るか?

 僕の解答は目の前で飛び降りた少年を見た通りだ。勇気なんて必要ない。それは愚か者と言うのだ。


 僕とこいつ桜木太陽、それとマムシと呼ばれていた真島の3人は幼なじみだった。腐れ縁とも言う。小学生の時に同じボクシングジムに入れられた。寺田ボクシングジム、喧嘩ボクシングを掲げるこのジムに小学生を任せる親の正気が知れないが。

 マムシにはよく絡まれた。小学生の時の事だ。帰り道の神社に呼び出された。

「お前、リングの外じゃ全然弱いな」

 と、言いながら殴られた。服を掴まれ逃げる事を封じられ、一方的に殴りかかってくる真島。しかし、それは直ぐに終わる。太陽が駆けつけてくれたからだ。

「マムシ、また月本に手出してんのかよ。懲りないな」

 と、言いながら止めに入る太陽。天性のバネから繰り出されるスマッシュ。フックとアッパーの中間の打ち上げ薙ぎ払うかのようなそのパンチは、僕を掴んでいたマムシの腕をふっ飛ばした。

「太陽、お前はこいつがムカつかないのかよ。リングの上じゃ澄まし顔で避けまくる癖に、リングから降りたら何もせやしない。舐められてんだよ、俺達は」

 マムシはそう言った。舐めてるつもりはない。興味がないのだ。喧嘩なんかに。

「マムシは知らないんだな。こいつは良い顔で笑うんだよ。たまにな。だから、俺達を舐めてるなんてあり得ない。少なくとも俺は舐められてねえよ」

「こいつが笑うのかよ。信じられねえ」

 マムシと太陽は睨み合いながら会話を重ねる。

「ほら、ジムに行く時間だよ。また、会長に怒鳴られる」

 僕は荷物を背負って先にジムへと向かった。

「待てよ、抜け駆けすんな」

「そういうとこだぞ、月本」

 後ろで2人は何かを叫んで駆けてきた。これが僕等の日常だった。


 マムシは高校で別れたが、太陽とは今も一緒だ。相変わらず寺田ジムに通っている。ボクシング部に入って毎日とは行かないまでも、休みの日は決まって顔を出していた。

「月本、タオルある?」

 川から上がってきた太陽が僕に手を差し出す。

「はい。でも着替えた方が良くないか」

「まあ、体操着にでも着替えるよ。橋の上に置いてきたし」

 太陽は恥ずかしげもなく、橋の上で体操着へと着替えてジムに向かって歩き出した。僕もその後に付いていく。


 飛べない鳥に勇気は要らない。リングというカゴの中に入れられた僕達は、そもそも飛ぶ必要がないのだ。

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