最終話 敵襲

毒…?

「毒って…、誰かが私たちを…。」

声が震えて、思うように先が言えない。

「大丈夫だよ明ちゃん。話さなくていいから、一旦落ち着こう。」

美沙さんに背中をさすられて、いくらか気持ちが落ち着いた。

「この和菓子、誰が持ってきたかわかった?」

「…そういえば、わからなかったです。後ろを向いていたし、話しかけても喋らなかったんで。」

「その人は、自分の正体がバレたくなかった…、犯人の可能性が高いね。」

「きちんと顔を見るべきだった…。」

「今さら後悔しても仕方がない。とりあえず、しばらくは自分の安全を考えよう。」

もし、ここにあの恋文の彼がいたら、私たちのこと、守ってくれただろうか。

でも、私は–––––


その一週間後、事件は起きた。

その日、私はいつも通りの目覚め…ではなく、物音で起こされた。

「敵襲だぁ–––––!」

大きな声が、あたりに響き渡る。

隣で寝ていた美沙さんは…、起きてない⁉︎

「美沙さん、起きてください、敵襲ですっ!」

私が揺り起こすと、美沙さんはがばっと立ち上がり、どこかへ行ったかと思うと、竹刀を持って帰ってきた。

「状況は?」

「わからないです。でも、西の門の方が騒がしいです!」

この際、竹刀がどこから出てきたのかは突っ込まない。

「りょーかい。私は、西の門に行って加勢する。明ちゃんは、定子様のところに行って、お守りして。」

「でも、美沙さんの方が強いですし、定子様のほうに行った方がいいのではっ」

「私はなるべく定子様に不逞の輩を近づけたくないっ。それに、」

美沙さんは私にニコッと微笑みかける。

「明ちゃんは、いざっていう時のミラクルな力を持っているから!」

そう言って、美沙さんは走って行ってしまった。


「柊真君、大変だっ!」

蹴鞠の練習をしていた俺のところに、和さんが慌ててやってきた。

「どうしたんですか?」

「東のお屋敷…、武蔵式部のお屋敷が、敵に襲われているらしい!」

「えっ⁉︎」

「状況は今の所不明。誰がどうなっているかも…、わからない。」

「和さん。」

「わかってる。木刀、借りてきた。」

「…行きましょう。」

俺たちは、東のお屋敷……武蔵式部の元へ、走り出した。


「ふぅ。」

定子様の元(正確には定子様の部屋の前)についたけれど、まだそこには敵が来ていなかった。

美沙さん…大丈夫かな…。

神様、どうか、みんな無事でいられますように。

「武蔵式部殿!」

播磨さんもやってきた。

「播磨様、今、どのようになっているのですか?」

「西の門に大群が押し寄せているみたいじゃが、弱いそうだ。」

「よかった…。」

きっと、あの強い美沙さんなら、無事だ。

「武蔵式部殿。」

「はい?」

「今は、自分の心配をした方がいいんじゃないかしら?」


俺たちは、東のお屋敷についた。

相手を木刀で気絶させながら、前へと進む。

すると。

「くぅ…。」

竹刀で真剣を受け止めている女性がいるのを見つけた。

「とりゃっ!」

和さんが、真剣の男を後ろから殴る。

男は、足から崩れ落ちた。

すると、

「あっ!」

和さんが叫んだ。

「え?」

「この人、美沙じゃん!」

「えぇっ!」

それは確かに美沙さんだった、そして…、

「小鳥の時の人だ!」

「え、あの、小鳥追っかけてきたのって、柊真君だったの⁉︎」

「ってことはもしかして、武蔵式部さんって、」

「明ちゃんのことだよ!」

「えぇっ!」

平安でラブレター送ったのって、明だったのか!

「って、そんな話は今してられなくって、明は今どこに?」

「定子様のところ。そこの廊下突き当たり右!」

「わかりました。二人は、先戻っていてください。ここ、危ないんで。」

「「わかった。」」

二人が光って消えたのを見届けて、俺は走った。


「明っ!」

俺は部屋を覗き込んで…、息が止まりそうになる。

平安貴族の女性に、明は抱き抱えられるようにされている。明は、口元を抑えられていた。

そして、明の首元には…ナイフ。

「木刀を捨ててくれるかしら?」

彼女は、静かに、邪悪な微笑みをたたえ言った。

俺は木刀を落とし、遠くへ蹴ると、ゆっくり手を挙げる。

「何が、したいんだ?」

「言えないわね。」

「じゃあ質問を変える。お前は…、何者なんだ?」

「あたし?あたしはね、」

彼女は、一呼吸入れ、言う。

。」


タイムトラベラー。

聴き慣れた響きに、耳を疑う。

「あら、びっくりしちゃった?あなたも、タイムトラベラーなのに?」

「……俺たちのことを知っているのか?」

「知らなかったら、こんなことしないわよ。」

「何を…してほしいんだ?」

「そりゃもちろん。」

そう言うと、彼女は明の腕輪を外し、こっちに投げてきた。

「これで、元の時代に、戻ってほしいわね。」

「理由は?」

「言えないって言ってるでしょう?でも、強いて言うならねぇ…。」

そして、彼女は消え入りそうな声で言った。


。」


一族の無念を晴らすため…、どういうことだ。

「さあ、早くしなさい。早くしないと、」

彼女は明の首すれすれまでナイフを近づける。

明の身体が、竦む。

「愛しの彼女がどうなっても、知らないわよ!」

「…わかった。」

これをつけても、前のように明は帰って行くことができない。

でも、今は、明の安全が最優先だ。


明、絶対助ける。助かる。だから。


待ってろ。


明を見つめると、俺は、腕輪同士を触れさせた。


柊真は、帰って行ってしまった。

でも、あの目には、柊真の決意がこもっている。


だから、柊真。


待ってる。


絶対に助けに来て。


播磨が、口に当てていた手をどけた。

「私を、どうするつもり?」

「あなた?あなたは、」


「人質よ。」


新たな物語が、始まろうとしていた。




(『タイムスリップ型脱出ゲームへようこそ〜戦国〜』は続く)

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タイムスリップ型脱出ゲームへようこそ 〜平安〜 きなこもち @kinakokusamoti

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