第9話 すれ違い始める平安恋物語

「返事が、こない。」

和歌を武蔵式部さんに送ってから、全く返事が来なくなった。

嫌われた…かなぁ。

返事が来るまで、ちょっと行きづらいな。

「柊真クン、憂鬱そうではないか。」

「和さん、口調どうしたんですか。」

「私の尊敬する、ドラマの脇役の妻の口調の真似だ。」

「マニアックな人尊敬しますね。」

妻はどうしてそんな口調なんだ。

「返事、こないんですよね。嫌われたんでしょうか。」

「そう言う気持ちを恋というのだよ、柊真クン。」

「俺には明がいます。」

「……。」

なんなんだこの沈黙。

「柊真クン、君は明ちゃんが好きなのかね…。私はさんざん明ちゃんとキミの関係をいじり倒してきたが、ガチだったんだな、すまない。」

頭の中で、さっきの会話をプレイバック。


「返事、こないんですよね。嫌われたんでしょうか。」

「そう言う気持ちを恋というのだよ、柊真クン。」

「俺には明がいます。」


「ぬぬっ?」

俺、大事なことを言ってしまったような。


「俺には明がいます。」


「…忘れてください。」

「君は彼女のことが…」

「忘れてくださいいいいっ!」

「分かった。僕も君に弱みを握られている身だ、」

握ってませんよ、あの写真は見なかったことにしています。

「我々の関係は、どんぐりの背比べだ。」

使い方が違うと思う。


「こないわ、あの人。」

私–明−はぼやく。

「きてくれないと、困るのにね〜。」

美沙さんがいう。

「寂しいです。それに、来てくれないと、柊真と和さんの情報聞き出せないじゃないですか。」

「なんて言って、本当は、あの人に会いたいんじゃないの?」

「うぐっ…、まあ、それもありますけど…。」

「どこがいいの?」

「イケボですし…、なんか、懐かしい感じがするんですよね。」

「もしかして、前世で一緒になった人なんじゃないの?」

「う、運命の恋ってやつですか?」

「「きゃ−!」」

女子の妄想は止まらない。

「彼が私の死ぬ間際に言ったんですよ、『いつか、また会いましょう。』」

「そして、前世の明ちゃんが息も絶え絶えに言ったんだね、『は…い…。』。そしてにっこり微笑む明ちゃん。あぁ、好きになっちゃう。」

「「きゃー!」」


そんな女子トークをしていた時、後ろでコトッと何かが置かれた音がした。

振り向くと、綺麗な和菓子が二つと、貴族の女性の後ろ姿。

「食べてもよろしいのですか?」

すると、その女性は頷いた。

「ありがとうございます!」

そう言いながら私は和菓子を口元に運ぶ…ん?

「明ちゃん、どうしたの?」 

「なんか、やな予感がして…、勘ですけど。」

すると、美沙さん用のお菓子を、どこからかやってきたねずみが食べてしまった。

「こら、このねずみめ!」

そう美沙さんが怒鳴った時、ねずみが、倒れた。

「「え?」」

慌ててねずみに駆け寄ると、もうその体は動いていなかった。

「きゃー!」

思わず叫ぶ私。

「これは、毒…?」

美沙さんが、そう呟いた。




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