第8話 平安恋物語
「和歌…、を送るんですか?」
「そうそう。」
俺−柊真−と武蔵式部さんを仲良くさせる気満々の和さんが言う。
「いい和歌を送れば、向こうもきっと振り向いてくれるはず。」
そういうもんなのかなぁ。
「よし、和歌を詠もう。」
「え、でも…。」
「じゃあ、僕が作ってあげよう。」
「いや、いいです。」
「青空に 鶯の音が 響くとき ふと思い出す…」
あぁ、きっとこれは。
「『うぐいすもちを』、ですよね。」
「くぅ、なんでわかったの?」
「それは、いつも和さんの句には、食べ物が出てくるんですもん。」
「え、そう?」
まさかの無意識。
「しかも、それじゃ、ちょっと平安っぽくないです。現代っぽい。」
「うーん、じゃあ、ここは柊真君の腕の見せ所だね。」
「え、俺、和歌得意じゃないですけど。」
「君は百人一首パクリの天才。」
不名誉な称号だ。
「というわけで、藤原定家の歌にしましたけど。」
「『来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに 焼くや藻塩の 身もこがれつつ』、いいね。」
パクっちゃってごめんなさい、定家さん。
「こういうのって、植物に結ぶと雰囲気でるよね。」
そう言いながら、和さんは後ろを向き、何やら結んでいる。
「できたぁ。」
和さんが和歌の紙を結んだのは。
「藻、結んでみた、どう?」
藻。
まぁ、ギャグはさておき(和さんは本気だったみたいだけど)、とりあえず、藻は桜の枝にして、武蔵式部さんの屋敷の廊下みたいなところに置いておきました。
返事、来るかな。
「明ちゃん明ちゃん明ちゃん明ちゃ明ちゃ明ちゃ!」
“ん” はどこに行った。
アイドルグループ『明ちゃん』から突然プロデューサー美沙さんに外された“ん”。
かわいそうに、前触れもなく脱退宣告されて…。
って、なに“ん”で妄想してるんだ。
「どうしてんですか、美沙プロデューサー。」
「プロデューサーという単語はどっから出てきた。」
私の妄想からです。
「明ちゃんの大爆発発言で、本題忘れるところだった。」
プロデューサーは、大爆発案件らしい。
「恋文、きたよ。」
「これって、
「平安では立派な恋文なのでふっ!」
美沙さん、鼻息荒い。
桜の枝に、和歌が書いてある紙が結ばれている。
まあ、そこまではいいんだけど。
私には、不思議な点が二つある。
一つ目。
なんか…、紙に緑の粉っぽいのがついてる。
なぜに?
この緑の粉の真意とは。
二つ目。和歌の内容。
『来ぬ人を まつほの浦の 夕なぎに 焼くや藻塩の 身もこがれつつ』
どっかでみたことあるんよ。
考えられる理由は二つ。
①これを送ってきた人が、後世に句が残るほどの著名人。
②これを送ってきた人が、パクった。
②…じゃないといいなぁ。なんか。
①…だと嬉しいけど、恐れ多いなぁ。
うーん、どっちもやだなぁ。
しかも、初恋文が平安って…虚しい。
好きな人から、もらいたかったなぁ。
例えば…、っておい。妄想モードに入るな私。
「明ちゃんもお返事書いちゃいなよっ!」
「あの、美沙さん、」
私は美沙さんの夢を壊すようなことを言う。
「私、この人の居場所、知りません。」
「あっ…。」
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