第2話 川原沿いの太陽光発電所

 小学校時代の同級生であるツヨシくんは、ボートからたまたま俺を見つけたらしい。備え付けのオールを使ってこちらに寄ってきた。

 2人乗りの小型ボートに2馬力モーターを積んだ簡易船。

 これが水没したこの村で自動車に変わる足となっている。


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「いやぁ。昔は橋のところで渋滞が起こっていたけど、こんな状態だからね。移動は楽になったよ」

 大分市は大分川を渡るために橋が所々掛かっている。

 いや、掛かっていた。

 賀来橋、明碩橋、府内大橋、広瀬橋、宗麟大橋、滝尾橋、舞鶴橋、弁天橋

 この8本の橋で40万人都市の交通を賄っていたのだ。

 橋は基本的に一車線片側通行。

 とてもではないが数が足りない。


 昔は朝や夕方のラッシュ時は一時間位の渋滞に巻き込まれるのを覚悟しなければならなかったと父が言っていた。

 それが、今は一面どこも海。

 船で行ける道だらけである。

 川を越え、丘の入り口へU字に3km迂回しないと行くことができなかった医大ヶ丘(団地名)が今では一直線に、たった1km進むだけで到着することが出来る。

 不思議な感覚だ。

 どうせなら、この状態で通勤したかった。

 まあ通勤できる市街地は海の底なのだが…

「ボートで医大ヶ丘に行くのって初めてだよ」

 と学校の校区外に行ったことがないケンタがはしゃいでいる。

「あ、乗り出したらダメだよ。危ないからね」

「大丈夫だよ。落ちたりしないよ」

「いや、そうじゃなくてね。ここ」

 何でだい?浸水地域の送電は止まっているだろう?

「うーん。そうなんだけどね」

 説明に困ったようにツヨシ君は頭を掻いて、水面下に沈む国道を指さし


「ここの下にはソーラーパネルがあるんだよ」

 

 と言った。


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 大分川の河原付近に発電用のソーラーパネルが設置されるようになったのは2010年代だったという。

 他の地域だとずさんな工事で流された所も多かったのだが、ここはかなり頑丈に取り付けられてたという。

 そのためパネルは水底に沈んだままとなり、普段は海草に隠れて発電はできないのだが時折海流が変わるとパネルに太陽光が当たり電気が流れるのだという。

「あれって、遠隔操作でブレーカーを落とせるんじゃなかったの?」

「時期やメーカーによるらしいよ」

 新しく設置されたパネルは機能を停止したそうだが、初期の分は絶賛稼働中。

 たまに海中の魚が感電して浮いているのだという。


「そういえば中国とかで、電柱の漏電でバタバタ人が倒れる動画とかあったな」


 電気は怖い。

 海面上昇が起こる前の2020年の大雨が降ったとき、電柱にさわった人間が急に倒れ、助け起こそうとした人も同様に倒れ込む動画があった。

「管理会社の人も他のパネルの撤去で手が回らなくてさ、夜中に作業しようとしても海流があるから上手くいかないみたいなんだよ」

「見えない地雷敷き設されてるようなもんだなぁ…」

「村にある太陽光発電はすごく便利でみんなから感謝されてるのに、皮肉な話だね」

 とケンタが言う。

 送電施設に発電施設が脆弱になった現在では、独自に発電できるというのは大変便利である。

「スマホの充電や電気バイクの充電とかに使っているからねー。こっちのパネルも引き上げる事ができたら良いのに…」

 うん。それは危ないからやめような。

「それに2015年位から臼杵の黒島とか2021年には田の浦ビーチ(高崎山やうみたまごの東にある海水浴場)にも サメ が出たらしいからね。下手に手を突っ込むと喰われるかもしれないよ」

 トンデモない世界になったもんだなぁ…。

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