平安貴族

「菅原道真……ですか?」

「そう、あの男は菅原道真の再臨だよ。くだらん政治家だ。天野あまの義昭よしあきは。」

「えっと……すみません。話が見えないんですけど……」

「あぁ、つまりね。学者が政治家の真似をしようとしているってことさ。君も見ただろう? 奴の演説を。あれで市民が本気で動くと思っているんだからな。」

「……菅原道真とはどういう意味なんでしょうか?」

「道真公は優れた学者、詩人ではあったが、優れた政治家ではなかったということだ。」

「なるほど……」

「君は小野篁という政治家を知っているか?」

「いえ、知らないです。」

「まぁ、あまり有名ではないからな。教科書に載っている場合も少ない。篁公は一度流罪になったものの、後に赦免され、再び政治の舞台に舞い戻った男なんだ。はっきり言って異質だよ。現代で言えば、元大臣が外国まで左辺されながら再び大臣として帰ってきたようなものだ……おっと、話がそれたな。つまり、あの男は小野篁ような異質な政治家ではなく、あくまで学者に過ぎんのだ。」

「じゃあ、なぜ今になって議員に立候補したんでしょうかね?」

「それは解からん。だが、いずれにしろ奴の野望は潰えることになるだろうよ。」

「そうなると良いですね。」

「ああ、そうだな……そろそろ時間か。」


そう言って、元内閣総理大臣狭間は立ち上がった。そして、去り際に一言だけ残して行った。


「君も気をつけろよ。この国は荒れるかもしれんぞ。」


その言葉の意味はよく分からなかった。しかし、僕は直感的に思った。これは良くないことが起ころうとしていると。

僕の父、霧島幸汰は狭間内閣にて六年に渡り法務大臣を務め上げた後、政界引退を宣言した。それから一ヶ月もしないうちに、父はこの世を去った。享年七十二歳。

死因は不明だった。心筋梗塞や脳溢血などの一般的な病名はもちろんのこと、癌、心疾患、肺炎、あらゆる病気の原因になりうる可能性を秘めているとされるウイルス性疾患など、考えられるありとあらゆる検査を行った結果、原因不明とされた。

父は警察庁長官とも大きな繋がりを持っていたため、何らかの事件に巻き込まれたのではないかとも言われたが、結局真相は明らかにならなかった。

父の死後、僕は父の死の謎を追うべく様々なことを調べた。その過程で多くのコネを辿り、父の生前の友人や知人にも会ったりしたのだが、有力な情報は得られなかった。

そして先程、父の上司であり戦友であった狭間元内閣と会話した訳なのだが、結局父に関する情報は何も得ることできなかった。ただ一つ分かったことは、日本はこれから大変な時代を迎えるのではないかという漠然としたものだけだった。

それにしても『君も気をつけろよ。この国は荒れるかもしれんぞ。』という狭間元内閣の言葉……何処かで聞いたことのある台詞のような気がするんだけど……何だっけかな? 思い出せない……秋の風に吹かれながら僕はしばらく考え込んでいた。

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