魔界の何気ない日々
ここは魔界。朱色の空に、黒い太陽が浮かぶ世界だ。
「しっかしよォ……黒いのに太陽ってのはどうなんだァ?俺様には合わねぇと思うんだけどよォ。」
「確かに現世に行けばそう思うのも分かりますが、これがこの世界の常識ですからね……」
そんな会話をしながら2人は森の中を歩く。
「しかし皇帝様もよォ、俺らにこんなこと頼まなくてもいいじゃねえかよ。俺らはただの一般悪魔でしかないんだぜェ?」
「仕方ないですよ。僕達は皇帝直属の部下なのですし。」
彼等が言う皇帝とは、1000万年前以上前から魔界を支配する女傑である。その姿は竜種の羽を持ち、尻尾と角は無く代わりに兎の耳を生やしているという。また趣味は天使を堕天させることだそうだ。
「それにしてもよォ。皇帝様はどれだけェ強えェんだ?魔王共を殺せるくらい強いんだろォ?なら俺らが出張る必要あんのかァ?」
「うーん……それはなんとも言えないですね。魔王と言ってもピンキリですからね。」
「そりゃあなァ。でもよォ、それならもっと強えェ奴らを派遣するだけでいいんじゃないのかァ?」
「まぁ、それもそうなんですけどね……僕達の仕事はあくまでも監視であって、あちら側から手を出してこない限り何もしない事になっていますし。」
「チッ、面倒くせぇなァ。」
「まぁそういう仕事だから仕方がないですよ。」
魔王とは、魔界の各地域を支配する権利を認められた悪魔の王のことである。魔王よりも上位の存在を魔帝、即ち皇帝を指すのだ。
「ところでよォ。今回のターゲットはどんな奴なんだァ?」
「確か……魔王ラビリスとか言ってましたっけ。天使と繋がっているだとか、きな臭い噂が多いみたいですよ。」
「悪魔の癖に天使とつるむなんてよォ、馬鹿なのかァ?」
「“あくま”で噂ですよ。それに悪魔でも天使と仲が良い者だって沢山いるわけですし、そこまで気にすることでもないでしょう。」
「まァそれもそォだなァ!」
二人の会話の通り、悪魔の中にも天使と交流を持つ者は少なくはない。だが天使側の上層部は皇帝を目の敵にしており、度々戦争を仕掛けているようだ。
「……んァ?誰かお出ましみてェだぞォ?」
そして目の前には白いローブを着た女性が立っていた。その背中からは白く輝く翼が生えており、彼女が天使であることが分かる。
「皇帝直属の配下だとお見受けします。我が友人、ラ・ミリスを救う為に力を貸して頂けないでしょうか?」
彼女は真剣な眼差しでこちらを見つめてくる。
「ラ・ミリスだァ?俺達が用があるのは魔王ラビリスだけだぜェ?」
男は挑発するように彼女を睨みつける。
「失礼ミスエンジェル。ラ・ミリスとは魔王ラビリスが天使だった時の名でしょうか?」
女性は少しだけ驚いたような表情を浮かべたあと、すぐに真面目な顔に戻った。
「友人を天界に取り戻しに参りました。私では力が足りません。どうか貴方の力で友を取り戻して欲しいのです。」
そう言いながら彼女は深々と頭を下げてきた。
「おいおい……皇帝直属の部下の俺達が、皇帝陛下の趣味に文句なんて言える訳がないだろうがよォ!!」
彼はそう叫びながら女性に飛びかかる。しかし彼の攻撃が届く前に、女性の姿がかき消えてしまった。転移の魔法で消えたようだ。彼は地面に叩きつけられていた。
「落ち着きなさい。我々の目的は魔王ラビリスの行動を報告すること。戦闘することではありません。」
そう言われて男はすぐに起き上がり、舌打ちをした。二人はそのままその場を離れ、再び歩き出した。
「一つ疑問があります。ミスは我々を皇帝直属の部下と知りながら、何故協力を求めに来たのでしょう。」
「知るかァよ。どっちみち俺達は命令されたことをやるしかねぇんだからよォ。」
政治的、文化的、経済的、軍事的、どの側面から見ても皇帝の存在は絶対だ。もし権力だけの無能ならば1000万年以上前から現在までの長い間、支配し続けることなどできないだろう。つまり何を言いたいかというと、この世界において皇帝の命令は絶対的なものなのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます