救済
ボロボロ衣類を来た少女が、ドス黒く汚れた川の前で佇んでいた。
「……どうか神様……」
その声は弱々しくもどこかに力強さがあった。
「どうか私の願いを聞いてください。」
それはただの自己満足でしかない行為だった。だがそれでも、誰かがやらなければならないことだった。
「私はどうなってもいいですから……」
少女の目には涙を浮かべていた。だがその瞳の奥にある光は消えていなかった。
「……この世界に現れた魔王を倒して下さい……」
鉛色の雲に包まれた空に一筋の光が差し込んだ。
───少女よ 汝の願い聞き届けたり───
突如、川の底から非常に巨大な蓮の茎が伸びてきた。天から差した光を浴びた部分の蕾が開いた。そして中からは八つの腕を持つ仏像と即身仏と成り果てた法師が姿を現した。
───武を持って平安を 覇を持って救済を───
即身仏の手には錫杖が握られていた。
───
言葉と同時に、大仏の背に魔法陣が現れる。魔法陣には龍と蓮がモチーフとなった曼荼羅模様が描かれていた。
「
即身仏の目が見開かれた。魔法陣から紫水晶で作られた蓮の花が無数に現れる。あまりに神々しい光景に少女は目を離すことができなかった。
───厄災に染まる街を焼き払った明王の矢にて外因を滅ぼさん───
即身仏は持っていた錫杖を高く掲げた。すると空に雷鳴と共に炎の矢が現れた。一点に集中されたその炎の矢はまるで太陽のように輝いていた。矢はこの辺りを支配する魔物の城に突き刺さり爆発を起こした。城は完全に消滅した。いや城だけでは無く、周辺の街ごと全てが灰となって消えたのだ。
「……すごい……」
あまりの力の大きさに少女は言葉を失った。
「ギィヤアアァァァ!!!!」
突然、悲鳴のような叫び声が響いた少女は何事かと思い、声の方を見た。そこには身体中に火傷を負ったドラゴンがいた。
すると大仏の乗っている黄金の蓮の葉が宙に浮くと、ドラゴンへと向かっていった。同時に宙に浮いた紫水晶の蓮の花も次々とドラゴンへ襲いかかる。もしこの世界が科学技術していた世界だとしたら紫水晶の蓮の花は「ファンネル」や「ビット」と呼ばれていただろう。花から放たれた高出力のレーザービームはドラゴンの鱗を貫き、肉を燃やしていった。
弁財風弥如来の大仏は最後まで八本の腕で祈り続けていた。
───己が心に祈りを霊魂に慈悲を───
やがて全ての攻撃が終わったのか、神聖な雰囲気と静寂だけが残った。
「……君に名を授けよう……聖霊院……」
即身仏から放たれた微かな声は、まだ幼き少女にも確かに聞こえていた。
「私の名前は……聖霊院……」
少女はそう呟いて意識を失ってしまった。辺りにはまだ明王の矢やレーザーによる熱が残っている。だがそれは少女にとっては大した事ではないだろう。
今はただ暖かな光が静かにそして優しく少女を包んでいたからだ。
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