初恋
「やぁ、足下にお気をつけ下さ〜い」
コソコソと旧校舎へ向かう雪斗を見届けた志乃は、彼がまさに高校生活という薔薇色を満喫していることに大きく息を吐いた。
旧校舎は立ち入り禁止にされているが、それを生徒が守るか守らないかよりも、教師側も関わることを拒んでいるため、侵入を見つかったところで大きく咎められることはない。最悪な場合は、全校集会とありがたい長話が増えるくらいだ。
「探し物……見つかるといいですね」
雪斗が旧校舎で何をするのか理解しているわけではないが、とにかく何かを探していることは知っていた。その理由は、雪斗が使っているキャンバスに描いてある。
そこに描かれているのは、満開の花に囲まれた空間でこちらに振り返っている幼い少女だ。年齢は深紅の和服を着こなす顔立ちや体躯から想定し、十二歳ほどの少女だと志乃は見ていた。一度だけ尋ねたことがあり、その時に雪斗は幼い頃の思い出だと照れ臭そうにしていた。
その時の表情から、その少女が雪斗の初恋相手なんだと志乃は見ていた。
ふふ……〝今の初恋〟だったら大変ですよ、ジュリーさん?
危険な想像に一人ニヤリとした志乃は、初恋を美化しているとも受け取れるロマンチックな雪斗を一笑しつつ、椅子に腰を下ろした。机上に置いていた本を再開させようと持ち上げた時、木の葉のように一枚の紙切れが床に落ちた。
「おや? これはまた……」
拾い上げようとした時、紙切れの裏に小さな文字で何かが書いてあることに気付いた志乃は、擦り切れている文字を必死に説得し、辛うじて読めたのは『氷……社……海家』だけだ。表を見るとその紙切れは写真だったようで、三人の人物が写っていた。
神主姿の男の両側には巫女姿の少女が立っている。白黒の風化ものに加え、顔の部分が絶妙に擦り切れている所為で顔立ちはわからない。ところが、右側に写る少女だけは何故か鮮明に写っており、優しそうな顔付きだが、志乃にはその表情に寂しげな翳りがあるように見えた。
「氷海神社の巫女か……? 写真が日本に来たのは確か……」
その時、志乃はその少女に見覚えがあることに気付いた。
「この巫女の顔……まさか――」
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