魂受取人、死の天使ナキル

くろみそ

プロローグ

「なぁ、冬弥。こんな話を知ってるか?」


「何?」


「人生には一度だけ生死に関わる出来事が起こる。その時、悪い人には死の悪魔がやってきてそのまましんでしまうんだ。だがな、良い人には生の天使がやってきて助けてくれるんだ。」


「うっそだー!天使とか悪魔とかいるわけないじゃん!」


「本当だぞ!実はな、お父さんも冬弥くらいの時に一度車に跳ねられて入院してた時があるんだ。その時にな、天使様がやってきて怪我を治してくれたんだぞ!」


「本当に?」


「ああ。だから冬弥も早く死にたくなかったら、良い子にしてるんだぞ!」


「わかった!」


____________________________


そう言っていた親父は3年前に病気で死んだ。どうやら天使様とやらは親父の言っていた通り一度しか助けてはくれないらしい。


この話は確か10年くらい前に聞かされた筈だ。


なんでこんな昔の話を思い出した理由は、おそらく今の状況だろう。


目の前には青く輝く歩行者用の信号が写っている。


問題は横だ。


あろうことか、赤信号を無視して車が突っ込んできているのだ。


あれから俺は悪い人になった覚えはない。


もう車を避けられるような状況ではない。


話の真偽はわからないが、親父の話が本当ならこの後女神様とやらが俺を助けてくれるはずだ。


俺はそのわずかな可能性に賭けて、少しでも痛みを感じない事を祈りつつ、そのまま車とぶつかる事を決意した。





………あれからどれだけの時間が経ったのだろうか。



今、目には見慣れない白い天井が写っている。


これが天使様の加護なのか、それともたまたま打ちどころがよく、命に関わるような事故ではなかったのかはわからないが、どうやら俺は生きているらしい。


体に痛みはあるが、ゆっくりと体を起こそうとした時だった。


「あ、まだ起きない方がいいですよ?かなり激しく飛ばされたみたいですから。」


聞き慣れない声が耳に入った。


「あなたは?」


「はじめまして。私はナキルと言います。」


ナキルと名乗る女は、その名とは裏腹にごく普通な日本人の見た目をしていた。


ハーフ、あるいはクォーターなのか。それともキラキラネームなのかと思索してると、彼女はこう続けた。


「私は、死の天使です。」


……親父。確か話だと死の悪魔か生の天使って話だったよな。


死の天使って………なんだ?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魂受取人、死の天使ナキル くろみそ @kuromiso

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る