五時間目:「有刺鉄線、伏線、赤外線」
日はとっくに沈み、今の日付が5月27日なのか28日なのか分からなくなった頃、俺は原付バイクに先導されながら大通りを走っていた。
明日、というか今日はせっかくの土曜日なのに、どうしてこんなことをしなければいけないのか。決して24時間マラソンに挑戦しているわけではない。
「……すまん静音、……少し休憩、させて、くれないか」
「甘いわね、彗斗くん。そんなんじゃあ、全国の奴らには到底歯が立たないわよ」
「……何の、……競技だ、これは」
走りながらだと、喋るのにも一苦労だ。
「分かったわ、5分休憩よ。それ以上は待てない」
「はぁ、はぁ、助かる……」
休憩時間が短い事への不満はあるが、今の状況を鑑みれば仕方がない。
静音の乗っている原付はロープで台車と結び付けられていて、その台車の上には軽量化を施すために中身の装置を全て取り外した自動販売機が乗っている。つまりは、ただの箱を運んでいるという事だ。
そして、その自動販売機風の箱が倒れないように、俺が後ろから押さえながら走っている。
深夜1時にこんなことをしている高校生が警察に見つかったら、まず間違いなく補導されるだろう。
そのリスクを少しでも抑えるために、時間はかけてられない。
俺が少し呼吸を取り戻したのを見計ったかのように、静音が話を切り出す。
「今のペースだと学校まで体力が持ちそうにないわね。彗斗くんが免許……、じゃなくて舞空術を使えたら、交代しながらで走れるけれど……」
「その呼び方まだ続いてたんだな……。まぁ、こればっかりはしょうがない」
「少し遠回りになるけど、人通りのすくない道にいきましょう。その方がゆっくり走っても警察には見つかりにくいでしょうし」
「いや、静音、その逆だ。警察は深夜だと、人通りの少ない道を中心にパトロールしている。」
「なるほど、詳しいわね。やはり彗斗くんはあっち側の人間だったのね」
「どっち側だよ。いや、まぁ何となくそうかなって思って」
まぁ、中学校の頃に少しだけ悪さをしていた経験から学んだことだが、それは黙っておこう。
休憩を終えた後。更に30分走り続け、ようやく学校に到着する。
体力は限界を超え、喉は一刻も早く水分を欲している。
まさか、目の前にある空っぽの自動販売機のことを憎む日が来るとは思わなかった。
「お疲れ様です彗斗先輩。よかったら、これどうぞ」
後ろから聞こえる年下系の癒しボイス。
そして差し出されるタオルとスポーツドリンク。
こんな気の利いたことをしてくれる子は、きっと可愛くて、ポニーテールで、ジャージがよく似合う、努力家だけど時々ドジなマネージャーなのだろう。
「残念。私だ」
「……知ってた」
揚げた視線の先にいるのは当然静音。なぜか律儀に制服姿の静音。
まぁ、学校指定の体操着を着ている俺が言えたことではない。
家を出発する前は、高校名がバレる服は着ない方がいいと思っていたが、冷静にかんがえてみれば、そもそも他の人に見つかった時点でほぼアウトなので一番楽な服装でいいと言う判断だ。
「ここにいたら誰かに見つかるし、いつまでも休憩してられないな……」
「そうね。俺たちの冒険はまだまだこれからだ!」
「何はともあれ、まずは校門の鍵を開けなきゃな」
うちの高校は校舎全体がフェンスに囲まれており、上には防犯用の有刺鉄線がついている。
そう、あれ。なんかトゲトゲしてるやつ。
刺さったら痛いじゃすまないだろう。全く、不法侵入する方の身にもなって欲しいってもんだ。
これじゃあ、正々堂々正面から入るしかないじゃないか。
「今まで意識した事なかったけど、校門って結構高さあるな」
俺の身長がギリギリ170ないくらいだから、三メートル弱くらいか?
「彗斗くん、私アレやりたいわ。手を踏み台にしてフワって飛ぶやつ」
そう言いながら、静音はバレーのレシーブのような体勢をとっている。
「いや、確かにバトル漫画でたまにみるけども」
ただ、1時間走った後の俺にそんな事はさせないでくれ。
もちろん普段の俺にも無理だが。
「ならしょうがないわね。ここは、『い、一応アンタのことは信用してるけど、絶対に上向いちゃダメなんだからね!』『べっ、別にお前のパンツなんか興味ねえよっ』〜天窓から脱出しようとする体育倉庫に閉じ込められた二人(お約束5秒前)〜をやるしかないわ」
「うわー、なんだっけそれ。絶対見たことある展開なのに、何の漫画か思い出せない奴」
要は肩の上に立って校門を乗り越えようということだ。
しかし静音、いくら漫画好きとは言え、その羞恥心を1つ下の次元に忘れてきたような発言は関心しないぞ。
「それじゃあ彗斗くん、靴脱いでここに立って」
静音はいつの間にか校門に寄りかかった体勢でしゃがみ込んでいる。
ああ、なるほど。静音が下になるのか。
確かにこれなら問題はない。
「でもなんか思ってたのと違う……」
いや、こっちの方が平和でいいけども。
とりあえず、靴を脱いで校門の向こう側へと投げ、肩の上に足を乗せる。すると、静音は何のあぶなげもなくスッと立ち上がった。
そのあまりのスムーズさに、思わずよろけそうになってしまう。
「ごめん静音。もう少しだけ門に近づいてもらってもいいか」
「彗斗くん。そこはスカートを押さえながら、『いい? 少しでも上向いたらゼッコーだからね!?』っていうものよ」
「いや、言わねーよ! 好きなだけみろよ! 見られて困るものなんて出してないよ!」
いつものように余裕そうな発言をしながらも、きっちり要望通りに校門に体を寄せてくれる静音。
こいつ……、見た目に反してかなり力持ちだぞ。
俺は残り少ない体力を振り絞りながら、校門をよじ登り、向こう側へ飛び降りる。靴下剥き出しのまま着地したから、余分にダメージを負う事になったのは言うまでも無いだろう。
数秒悶絶したのち、無造作に転がっている靴を履いてから校門の鍵を開ける。……と言っても、地面に刺さっている大きいピンを引き抜くだけだけども。
そして、校門から入場してくるのは自動販売機を引っ張っている原付。なかなかシュールな光景だ。
静音の原付は一旦駐輪場に置いておくことにして、自動販売機の乗った台車を職員用の玄関まで持ち運ぶ。やはり、中身の機材を取り外してあるだけあって、2人で何とか持ち運べる重さだ。教師陣も、まさかバリアフリーのために作ったスロープがこんな風に生徒に悪用されるとは思わなかっただろう。
そして入口の扉は、当然鍵がかけられている。しかし問題はない。
この日のために、1週間用意してきた。
まず取り出したのは現代最強の文明の利器スマートフォン。こいつに今まで何度助けられたか分からない。
スマホの写真フォルダを開きながら、入口扉の側面の方へと回り込む。そこには4桁の南京錠がついている小さな箱が壁に埋め込まれていた。
箱の中身はおそらく鍵。そして南京錠の数字の組み合わせには限界がある。
つまりは時間をかければ誰でも学校に侵入できるということだ。
近辺の治安の良さが伺える。
しかし今回に限っては、この後の作業のことを考えると、とてもじゃないがそんなことをしている時間はない。
そのために俺は、月曜日から金曜日まで毎日この南京錠の写真を撮り続けた。
1日目:2467
2日目:2482
3日目:1485
4日目:6373
5日目:2483
人間は基本みんな面倒臭がりだ。
写真からも、鍵を管理している人が数字を毎回バラバラに変えるのを面倒さがった跡が見える。
俺は南京錠の4桁の数字に何となく当たりをつけ、数字を入れ替えてみる。案の定、鍵は5分もしないうちに、2485で開いた。
「なかなかの手際の良さね、彗斗くん。お手柄だわ」
「いやなに、こう言うのは相手の立場に立って考えれば、意外と簡単に解けるもんだよ」
思わす顔が緩んでしまう。
きっと今の俺は綺麗なドヤ顔をしてしまっているのだろう。
箱の中から取り出した鍵のキーホルダーを指にかけ、クルクルと回す。
「それでね、彗斗くん。面白そうだから黙っていたのだけど、実は私、生活委員としての仕事で、『早朝挨拶運動』を毎月やっているから、そこの番号は元々知っているわ」
「えっ」
「ついでに鍵を開けてから5分以内にセキュリティを解除しないと、警備会社に通知が行っちゃうから、気をつけてね。と言っても職員室にあるレバーを下ろすだけだけれど」
「えっ、あっ、ええっ?」
「さあ、こんな無駄話している暇はないわ。とっとと学校に忍び込みましょう」
「……そう言うのは作戦会議の段階で話してくれ」
あまりの衝撃発言に、動揺した俺は鍵を地面に落とした事にも気づく事もできず、なにもない虚無の空間を指でくるくるし続けた。
色々とドタバタとしてしまったが、とりあえずは静音の非常にありがたくない助言のおかげで自動販売機(を乗せた台車)を校舎内に運び入れる事には成功した。
あとはどこか適当に設置して……、と言うわけにもいかない。今まで何もなかったところに自動販売機が突然現れたら、誰だって怪しむだろう。
ならばどこに設置すればいいのか?
木を隠すなら森、つまりは既存の自動販売機の隣に置けばいいだけのこと。
幸いうちの学校にはもともと2台設置してあり、その間には、もう1台設置しろと言わんばかりのスペースが空いている。
これなら万事解決問題無しっ。
と思っていたのだが……、
「そういやここにも扉があったな」
普段学校にいる間はずっと解放されていたので、自動販売機の設置場所が扉に挟まれていることをすっかりと忘れていた。
構造としては、外の空間と校舎内を2つの扉が遮っており、その間のスペースに自動販売機が設置してある。
聞くところによると、この学校の創設時、ここの近所一体は何の建物もなく、山からの吹き下ろし風の対策としてこの二重構造を作ったらしい。しかし近年では使い道がなくなったため、道路から近くて業者が納品しやすいことから自動販売機の設置場所になったとかなんとか。化学の先生が気圧の授業をしているときに言っていた気がする。
しかしこの謎の空間、実に都合の悪い事に、自動販売機があるスペースが内側判定になっており、当然サムターンもそちら側にある。
つまり、外側からも内側からも鍵がないと入れない仕組みになっている。
これも確か初代校長先生が、例えば学生の悪戯で片方の鍵が壊された状態で誰かが中に閉じ込められないようにこんな感じの設計にしたらしい。なんてありがたくない発想力なんだ。
「ダメ元で聞くが静音、ここの鍵の開け方知ってたりしない?」
「そうね……、彗斗くん、うちの学校に代々伝わる七不思議って聞いたことある?」
「え、知らない。そう言うのって小中学校だけのもんかと思ってた」
学校の七不思議
其の壱:校庭の片隅にある木の下で告白をするとその二人は生涯結ばれる。
其の弐:女子生徒がプールサイドに長時間いると化学室からの視線を感じる。
其の参:卒業生が時々音信不通になる。
其の肆:数年に一度、生徒の財布が盗まれる事件が起きる。
其の伍:校長室には学校内全てのマスターキーがある。
其の陸:近くのコンビニのバイトリーダーの西田さんはいつ店に行ってもレジに立っている。
其の漆:この七不思議を知った者は学校に大きな影響を及ぼす悪事に働く。
「オーケー分かった。できるだけ端的にツッコむわ。
まずその1は学園ものに良くあるやつじゃん。
その2に関しいてはうちの部長がいつもご迷惑をおかけしています。
その3・その4は悲しいけど割とどこでも起こりうる話だし、
その5はまさに欲しかった情報だけど不思議というよりただの豆知識。
その6はもう学校に関係ないし、その話題には触れてやるな」
噛まずに言えたことを褒めて欲しい。
「さすが彗斗くん。初めて会ったときに比べて、ツッコミが様になっているわ」
「……いったい誰のせいなんだか」
「それにしても興味深い七不思議よね。特に其の漆、これによると私たちはそのうち悪事に走ってしまうらしいけど」
「いや、今まさに絶賛『悪事働いてるなう』だろ」
深夜の学校に忍び込んで、大型の什器を勝手に設置するなんて悪事以外の何者でもない。
にしてもなんて胡散臭い七不思議。
その2なんて明らかに助平の事だろうから、出来たのかなり最近だろコレ。
代々伝わるって、ここ2週間くらいのことを言ってるのだろうか。
色々と釈然としないまま、校長室へと向かった。
第2校舎へと続く長い渡り廊下を抜けて、右手に職員室が見える廊下の突き当たり。
よっぽど悪いことをしてバレない限りは卒業まで関わることはない部屋。
「……ようやく着いたわね。まさにラスボスって感じの配置」
「ようやくって、30秒くらい歩いただけなんだけどね」
口ではそういったものの、俺は自分地震が緊張している事に気がついていた。
そりゃそうだ。だって校長室ってなんか厳かな感じするし。
いくら呼吸を整えようとしても、鳴り止まない心音は、さっきの長文ツッコミのせいなのか。はたまたマラソンの疲れがまだ残っているのか。
隣の静音にも聞こえてしまっているのではないか疑ってしまうほど、バクバクと鳴る心音がやたらと耳に残った。
「……静音、お前何か流してない?」
「ええ、『心音ASMR【作業用2時間】』をYouTubeで」
「いつもに増して謎すぎる! 余計にドキドキさせやがって!」
「気分出るかと思って」
「それ聞いて不安になるの俺だけじゃん!」
思わず声をあげてしまった事を後悔する。近隣住民に聞こえてないといいが。
流石の静音も『それもそうね』と言いながらスマホから流れている謎の音源を切る。 そして、『さぁ、気を取り直して校長室に入りましょう』なんて言いながら、扉の方へ向かっている。なんて勝手なやつだ。
急に静かになったからか、今まで意識していなかった音が気になってしまう。
外に吹く風の音、揺れる葉の音、等間隔に鳴く虫の声。
……いや違う。この音は虫の鳴き声じゃない!
「下がれ! 静音」
その言葉に反応した静音は、どういう物理法則なのか、片手を地面につけた決めポーズのまま後退りする。
「彗斗くん、敵の方角と人数は?」
「いやごめん、そういう死角からの攻撃的なアレじゃない」
そう、さっきから聞こえる、『ジジジ……』という不気味な音。
明らかにコレは電子音だ。
音の発信源をスマホのライトで照らすと、そこには不自然にガラス張りになっている空間があり、中には楕円形の黒い機械が埋め込まれていた。
「何だこの、小さいコールドスリープ装置みたいなものは……」
「どうやら反対側の壁にも埋め込まれているみたいね。2つセットのものなのかしら?」
物はあるけど名前はわからない。
そんなときに便利な画像検索機能。自動で判別して商品ページまで案内してくれる。
そう、スマホならね。
「えっと、なになに? アマゾンで税込3880円、赤外線ビームセンサー、『貴樣を危險から守ゑ、防犯ツー儿』、何で日本語がちょっと怪しいんだよ」
「彗斗くん、ひょっとして私たちに何か伝えるための暗号なのかもしれないわ」
「いや、多分外国人が作った商品ページなだけだと思う」
しかし笑い事ではない。
他の場所に設置してある物なら潜るなり跨ぐなりすれば問題ないのだが、校長室の扉は手前に引くタイプの片開きだ。開けただけでセンサーに引っかかってしまうだろう。
「なるほどこれは困ったわね。ガラスの開け方もわからないし、下手に触ってもどんな反応するか分からないし」
「類似商品と比べると、かなりの安物っぽいし、動作不良起こしているかもしれない。一応見てみよう」
「なるほど、そこまで見透かすとは……。彗斗くん、なかなかいい目を持っているわね」
「そんなバトル漫画見たいな特殊能力はない」
俺は近くの教室にあった手頃な黒板消しを2つ拝借して、校長室の前でその2つを叩き合わせる。
その行為だけを見ると、大掃除でよく見る風景の一つだが、大きく違うのは室内で窓を閉め切っての行為だということ。
そして当たり一面にはチョークの粉が舞い、期待も虚しく、そこには赤い線が1つ。
あたり一面を舞う粉塵の中、床から30センチの位置にはっきりと投影されていた。
「ごっほ、残念ながら、げふ、動作不良は起こしてないみたいだな。」
あまりの煙たさに、口を押さえていても思わず咳が出てしまう。
「ルパン三世を彷彿とさせるわね。どちらかというと、原作漫画より劇場版だけれど」
この状況下でもなぜか余裕そうに語る静音は、どこに隠し持っていたのか、ガスマスクをつけていた。なぜかアルファベットでTORIと書いてある。
「しかし困ったな。ガラスは外せそうにないし、勝手に割るわけにもいかないし」
「そうね。センサーの仕組みとしては、赤外線が何かに遮られたら反応するようになっているから、うまくドアの可動域から外せば何とかなるかもしれないわね……」
「赤外線の軌道だけを変えるってこと? そんなことできんの?」
「鏡を何枚か使えば、理論上は可能よ。仕組みとしては望遠鏡に似てるわね」
「鏡を何枚も、か。うーん、流石に今は持ってないし、学校のトイレの鏡を割って使うのも後々面倒くさそうだし……。ん、望遠鏡?」
少し前にその単語を耳にしたような気がするけど、何だったっけ。
確か1週間くらい前に化学部の活動で。
「静音、その鏡云々は実物の望遠鏡を使っても再現できるか?」
「残念ながら彗斗くん、それは少し難しいわね。ドアを避けるようにするには、よっぽど特殊な形状でないと」
特殊な形状……、確か孔明が、『望遠鏡の4つのジョイント部分は人の関節のように自由に折り曲げることができる』と言っていた。その望遠鏡は今、俺のロッカーにある。
静音には少し待っていて欲しいと伝え、生徒用の入り口までダッシュする。帰り道に、例の望遠鏡を手にしながら。
「あのさ静音、例えばなんだけど、こういう風に好きな角度で曲げられる望遠鏡があったら、赤外線センサーは何とかなりそうか?」
「そうね、とりあえず高さを合わせるために下には適当な辞書でも置いて、転がらないように固定できれば何とかなりそう、ってまさかそれ望遠鏡なの? そんな形、見た事ないわ」
「うちの部長が覗きのために作ったらしい」
「なんて都合の良い展開……。それこそまるで漫画みたいね」
静音がこんなに困惑しているところを見るのは初めてだ。
そしてまさにご都合展開がごとく、さっきまで悩んでいたのが嘘みたいに、校長室にはあっさりと侵入することができた。
その後はトントン拍子に事は進み、マスターキーは校長先生の机の中から発見、自動 販売機を二人がかりで設置、部長からもらった大量の保冷剤も自動販売機内に配置。
一通りの作業を終え、向かったのはプールサイド。
水泳の授業はまだ始まってないが、すでに水は張られている。そしてその中には、1週間かけて運び入れた250本のドリンクが冷やしてある。
本来なら水泳部にすぐ見つかって、怒られるなり没収されるなりしそうなもんだが、 誰かさんの覗きによって、水泳部の女子部員が市内プールへと練習場所を移すようになり、それに男子部員もついて行ったため、今現在がら空きになっている。
つまり、しばらくは水泳部の備品を勝手に使ってもバレないと言う事だ。
俺は、さっきまで自動販売機が乗っていた台車に水泳部の備品であるカゴを乗せ、同じく備品のタオルでドリンクは丁寧に拭き取り、プールサイドと何往復もしながら自動販売機の中にドリンクを種類ごとに並べていく。
まさに人手が必要な作業だが、静音はいつの間にか帰ってしまっているので、仕方なく一人でやる事にする。
「本当に肝心なときにはいないよな、静音は。……まぁ、それでも手伝ってくれた事には感謝しないとな。あ、あと孔明もか」
ここまで大掛かりな悪事を働いてしまったことの罪悪感を少しでも和らげるために、 俺は二人を共犯者だと思い込む事にした。
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