第246話 ウチへの期待
「次はどうしますか?」
どことなく満足げに、せやけど期待にきらきら目ぇ光らせてゆみちゃんは言いよる。
なんぞ小生意気な面や。ムショーにムカつく。
ホンマにバカなウチがそれでも一線をギリ超えずにぶじピアス穴をあけ終わって、それでもまだ30分も残っとる。
それとも穴ぁあけるだけで1時間も使うてまったと考えるべきか……いやおかしない?
黒いのっちゅうことはウチが優位であるべきやん?
やのになんでウチが防戦一方なんよ。
なんやろなぁ、なんぞ乗り切れへん。
「ねーぇおねえさん」
ほっぺすりすり甘えんぼ。ジンジン痛む耳にゆみちゃんの吐息が触れる。
まるで幼い子ぉが甘えるみたいな。やのにぐつぐつ腹ん奥が熱ぅなって、それをゆみちゃんは知っとるみたいに、お腹をぎゅうぎゅう当ててくる。
ファーストピアスを強引に抜き取って揃いのピアスを着けさせた……しかもそれで傷ついたんか流れた血を嬉しそうに舐めとった、そんときからゆみちゃんはますますイカれたような気ぃするわ。
「次は……なにさせたい、ですか?」
とろけるように媚びてくる。
自分の全部を喰えやと乞うてくる。
つまり、これが黒いのの本領っちゅうわけか。
全部が全部ウチのせいなんやから、ゆみちゃんはどこまでも甘えんぼを発揮してええ。
正直……エグい。
エグいってかエロい。身もふたもなく言えば。
やってそうやろどうせいっちゅうねんこちとら年単位で彼女おらんねんぞ一人寝の夜を幾度重ねてきた思ぉてんねんボケ。思春期越えた女子高生なんぞそんなもんもうカタチは女やん自覚せえ自衛せえ自重せえ!
……なんつったところで意味があらへんのはよう分かっとる。やってゆみちゃんは十分自覚しとる。
ただし自衛も自重もせぇへん。
なんせここにはウチしかおらん。
なんせここにはあん子らはおらん。
自衛するべき『危険』はあらへんし、
自重すべき『心残り』もないときた。
その環境にゆみちゃんはよう耐えとったはず。
せやけど黒いのんのせぇでソレが外れてもうた。逆になんやウチが冷静になっとるくらいや。
そして至極冷静に――今がチャンスなんやないかと、そう思うとるのも事実。
いまならこん子を本気でモノにできる。
完全な同意と合意と事実を作れる。
黒いのんはなにもゆみちゃんを洗脳しよるわけやない。ゆみちゃんはいつも目の前の人に全力投球しよるけど、そのリミッターみたいなもんを外してまうだけ。
いまならホンマにゆみちゃんを根こそぎ喰ってまえるワケや。それを拒む理由はこん場所にはあらへん。
そんなことを、冷静に考えとる。
冷静……って言えるんかコレ。
まともやない。
やけど思考はただ静かにそれを検討しとる。
過去も未来も現在もあらゆる余計なものを排したこの場所で――ウチとこん子のことだけを。
問題はいまや。
いま、ゆみちゃんを拒む理由がどこにもない。
考えれば考えるほどない。
あるわけがない。
あってたまるか。
社会的な理由さえなければとっくに手ぇ出しとる。そこまでウチはお上品なクチやない。精神的なつながりがホンマの愛だなんぞ思ぉたこともない。肉も骨も根こそぎ愛してなんぼやろと思ぉとる。上手いっちゅうて言われたんはウソでも冗談でもあらへん。それが重要やって思ぉとるし、間違っとると疑ったことなんぞない。
理由がない。
この場でゆみちゃんを抱かへん理由が。
せやからゆみちゃんも甘えて媚びて乞うてくる。
この旅行が終わったあとのことなんざ知ったこっちゃない。人生が続いていくことさえどうでもええ。
たった一泊がウチらにとっての全ての時間なんやという感覚。
ここはそういう場所なんやと――いまさらそのヤバさを実感しとる気分。
人生が明日終わると分かってて体面なんぞ気にしてられるかっちゅう話。
「おねぇさん……」
しびれを切らしたようにゆみちゃんの口元が迫る。
受け入れることこそが誠意。
そうとさえ思えてくる。
受け入れようっちゅうことに前のめりな自分が……いままでは隠せ取ったはずの自分が、抑えようもなくここにおる。
せやけど。
それでもなんや、動けんのは。
なんやひっかかっとる……気ぃする。
なんやとんでもない見落としがあるような……
それが、そのささやかななんかがキワキワんところでウチをとどめとる。拒む理由なんざないハズのゆみちゃんに、それでも触れんでおるんはそのせいや。
………………ん。
あ。
待て。
待てよ。
未来に目ぇ向けろ。
ウチがどうのこうのやなくてゆみちゃんの未来を考えろ。いやもちろんウチが手ぇ出したら他ん子ぉらの反感を買うんっちゅうんは当然として……これ、ようは始まりやんな?
ウチで終わりやないよな?
ウチのあとにゆみちゃんは他ん子ぉらともここ来るわけやん。ぜったいゆみちゃんはする。せんワケがあらへん。そないな子ぉやったら今頃もうちょっと平坦な人生歩んどったやろ。
で、そしたらやで。
ウチが手ぇ出したなんざ『事例』があったら。
あってもうたら。
ら。
……アカン。
ユミちゃんが終わる。
『たった一泊がウチらにとっての全ての時間なんやという感覚。』キリッ――とか言うとる場合やない。
ぜんぜん冷静やあらへん。
いや、まあ未だに『それがどうしたん』なんちゅうのが本音やねんけど……そうも言ってられんわなぁ。
やって、そんために選んでくれたんやろうし。
せやったらウチは、やっぱ手ぇ出せんのかぁ……
はぁーあ。
腹ぁ立つわけや。
ゆみちゃんあんた、そないな面ぁしといて残酷やなぁ。
「ユミカ」
呼ぶ。
期待に輝く瞳と、震える唇が近うよる。
「せいやっ!」
「にゅああ!?」
エロ面のゆみちゃんをテイクオフ!
ごろんごろん転がったゆみちゃんを仁王立ちで見下ろして、そんでウチは言うたった。
「ゆみちゃんセックス禁止な」
「はぇっ!?」
「ああ、まちごうた。せめて高校でるまでは禁止。とくにこないな場所では禁止。ええ? 禁止。禁止やで!」
黒いのんの最中にした約束は違えられん。
それはゆみちゃんから聞いたことがある。
それを応用したこの縛り。
それがないとゆみちゃんが終わる。
終わってまう。
たぶんそれはそれで後悔なんぞせえへんのやろうけどそれでも見過ごせん。
そんな決意の言葉に、ゆみちゃんは。
ががんと見開いた目ぇに、いっぱいの涙を浮かべて。
「なんでぇ……」
それはもう、めっちゃ思い切り泣き出したのやった。
セックス禁止で泣くなや花も恥じらう乙女やろおどれぁ……。
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