第221話 双子ロリと(2)

親友であるアイと、恋人にもなれたらしい。

なんということだろう。

あまりにも想定外だったからテンションがどうにかなっている。


そんな状態異常:『浮かれとんちき』のまま帰るのもなんだったので、にまにまと浮かれっぱなしの頬骨を鎮める時間つぶしのためにちょっと寄り道していた。


アイのところに長居していたわけでもないから、『門限』はまだちょっと先だ。


「ゆみ、なんかゴキゲンー?」

「きもちわるいかおですねゆみかちゃん♪」


見るからに分かる私の異変に、ロリっこちゃんたちがわいわいやってくる。


どうしてそうけんか腰なのやら。


「ちょっとイイコトがあってね」

「なになに?」

「わたしをひとめみたことですよね」

「もはやどういうキャラなんだいって感じだよ」


それはまあ、ふたりに会うのはそこそこテンション上がるイベントではあるけどさ。


なんておもいつつふたりを抱き寄せる。

うにゃうにゃとじゃれついてくる少女の甘い体温を香りながら、どうしようかなと舌を鳴らす。


……どうしてこう、私は悪いことばかり思いつくのやら。


「んとねー」

「うんうんっ」

「恋人ができたんだ」


ちょこっとドキドキしながら私が言うと。

ふたりはそろって目を見開いて、そうしてぱちくり見つめあって―――


「わぁー! おめでとぉー!」

「へんたいろりこんせーはんざいしゃでもコイビトができるなんておどろきですね♪」


驚きの受け入れ力なんだけど……?


「あのさ。前々から思ってたけどふたりって『恋人』のこと新手のグループか何かと思ってない……?」

「バカにしてるんですか?」

「おもってないよー」


ああまあ、だよね。

さすがにこれくらいの年齢だと色恋沙汰とかもう経験してる子もいるだろうし……


「ようはゆみかちゃんはちいさなおんなのこじゃなくてもコーフンできるんですもんね」

「ママたちみたいにおたがいをだいじにおもって、いっしょにいたいひとのことでしょ?」

「……どうしてこう、そこまで認識に差があるのかわかんないけど、どっちもまあ間違ってはないかも」


デフォルトで『ちいさなおんなのこ』に興奮する人にされてるんだ私。

さすがにそれは謂れのない誹謗中傷だと言わざるを得ない。……心の中くらいではせめて。


「えっとさ。それで、そんな恋人ができたわけなんだけど」

「なんにんですか?」

「じゅうにんくらい?」

「そこで上回ることある? えっと、正式に恋人になってくれたのはふたり目」


私が言うとふたりはほへーと納得した。

なんでそんな拍子抜けみたいな反応されないといけないんだ。ともだち百人の歌に価値観バグらされてるのかよ。


「じゃあわたしたちとどうてんですね♪」

「タッグマッチなの……?」

「さいていでもコイビト2バイだよゆみ!」

「ああうん……一応私に何事もなければ六倍強くらいの予定」

「わぁー! 20にんくらい!?」

「13にんですか……」

「そうだけども。多ければ多いほどいいわけじゃないからね?」


どの口が言ってるんだ……?


いやでも実際そうだろう。

恋人13人って。

異世界から帰ってきた人なの? っていう感じだ。


だっていうのにふたりはきゃいきゃいと楽しそうにしている。

少なくとも(比べるものでないとしても)ふたりに並ぶくらいに想っている相手が二桁人いるっていう事実を前にだ。


私はまだ、ふたりのことを侮っていたのかもしれない。


「―――ところでゆみかちゃん」


しゅるりと指が捕らわれる。


「えっとね、ゆみ」


右手はいもうとちゃん、左手はおねえちゃん。

小さな指が、にぎにぎと絡まって。


「そんなことで、」

「だからってね?」


「わたしが」

「わたしは」


「しっとするとおもったんですかぁ♡」

「ゆみのことイヤになんてなってあげないよ……?」


じぃぃ。

見つめる二対の瞳。

ひとつは半月みたいにいたずらめいて光っていて。

もうひとつは満月みたいにきれいな真ん丸だった。


月めいたふたりに気圧されて言葉に詰まる。


だけどそれもほんの一瞬のこと。

ぱっとベンチから飛び降りたふたりは、くるりと混ざり合うみたいに回って笑いかけてくる。


「そろそろおそくなっちゃうからかえるね?」

「きょうはゆみかちゃんがおそかったからふまんです」

「……うん。また今度、たくさん遊ぼうね」


私が笑い返せばふたりはとても嬉しそうに目を輝かせて。

そうしてまるで当然のようにお互いに口づけると、手を振って去っていく。


取り残された私は、ひとつ息を吐いた。


「うーむ」


とりあえず、にまにましてるのは収まったらしい。

頬をフニフニしてそれを確かめた手に、ほんの少しだけ力がこもった。


そうか。


私は―――あのふたりに、愛想つかされないようにしなくちゃいけないのか。


そんなことに、今更気が付く。


彼女たちが余裕なのも当然だろう。

私は彼女たちを求める側なのだから。


「これは……想定外だ」


ちょっと嫉妬をあおってみようかな、どころの騒ぎじゃない。

そんなものが意味をなさないほどの絶対の優位にふたりはいるのだ。


そしてそれをきわめて正確に自覚している。


「あーあ」


どうやら私は、彼女たちをもっと本気マジで狙っていかないといけないらしい。

あくまでも前言を翻さないで、年齢に沿う程度のやりかたで。


……もしかしたら、あのふたりと恋人になるのが一番難易度高いんじゃないだろうか。

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