第211話 双子ロリと(1)

人妻担任教師に告白した。

もうなんか私も来るとこまで来たな……堕ちるところまで堕ちたというか……

それでも選んだ。私がだ。

たとえ最終的に私が当然に振られるとして(その可能性がきっと一番高いんだろうけど)、それでも諦める理由にはなってくれなかったらしい。

そこに後悔はなく、そしてきっと待ち受けるだろう艱難辛苦はちょっぴり憂鬱。


とはいえ先生は言ってくれた。

先生が考えをまとめる時間ももちろんあるだろうけど、それはそれとして私がひとまずの決着をつけてからにすべきだと。


きっと長い人生の中、縄のように繰り返し起伏する彼女たちとの関係―――どこをどこからどこまでを一件にするかはまだ未明だけど、少なくとも現状はとても落着してないっていうのは明らかだ。


いずれかの形で落着させるためにも、私はみんなにまず思いを伝えないといけない。


だから私は放課後に、近くの公園で幼女ふたりから下着を渡されていた。


……それっぽい言葉で飾ったら正当性を持たせられるかと思ったら全然そんなことなかった。

もちろん脱ぎたてとかそういう代物ではない。

それがいったい何の救いになるのかはちょっと分からないけど。


というかまあ、渡されたからって受け取らない。


「あの、なんで?」

「ゆみかちゃんすきですよね?」

「みくちゃんがそうゆうから」


でたよいもうとちゃんのやつ。

今度はいったいなにに影響されたんだこの子……


「いもうとちゃんはほんともうなんか……私を何だと思ってるの?」

「へんたいろりこんせいはんざいしゃです♪」

「ゆみはゆみだよ」

「どっちもそれとなく受け入れがたさあるね……」


変態だのロリコンだの性犯罪者だのそんなおどろおどろしい呼び名をしてほしくないけど部分的に否定できない。

そしてそんな私が自分は自分だと納得するのはなんかこう……しんどい。


自然と溢れたため息とともに下着を押し返して、私はふたりの目を順々に見まわした。


「あのね。人に下着をあげる機会は金輪際あり得ないから。騙されちゃだめだよ」

「ゆみにも?」

「人類代表として言わせてもらってるね」

「じゃあゆみかちゃんはおねえちゃんのらんじぇりぃがほしくないっていうんですか?」


なんでキレ気味なんだいもうとちゃんは。

相変わらずどういう生活送ってるのか理解できない語彙力だし。


「欲しいか欲しくないなら普通に欲しくないよ。私はべつに欲求不満でふたりを大好きなわけじゃないからね」

「……からだめあてってことですか?」

「違うね?」


怪訝な表情をしているいもうとちゃんの一方、おねえちゃんのほうは目をキラキラさせている。

どうやらちゃんと受け取ってもらえた―――


「カラダだけのカンケーって、オトナっぽいね!」

「違う。違いすぎて逆に間違ってるの私なのかもとか思うくらい違う」


無垢にそんなこと言うんだもの。

これもいもうとちゃんの悪影響か……いや同い年の双子がそんな極端になることある??


―――とりあえず。


ふたりには私が下着を必要としていないということをこんこんと説いておいた。

それでなんとか納得してくれたらしくふたりはそれを斜めがけのポーチにしまってくれる。

これご両親に見つかったらどうするんだろ……とか、考えるのはよそう。


というか、なんだろう。

どうして私はこの状況下で少女たちの下着と格闘しているんだろう。

いや、なんていうか、そもそも本当は今日ここに来るつもりじゃなかったんだ。だけど、物思いにふけって公園のベンチに座ってることあるよねっていう。あるいは無意識が休息を求めていたのかもしれない……少なくとも、なにかがゆるんだ感じはあるし。


それにしたって下着ってねぇ。


どうしてほしいんだそれを。

理解できない……


「そんなことしなくても、ちゃんとふたりのこと好きだよ?」

「だったらコイビトになってくれればかいけつです♪」

「……それは、ふたりが大人になったらね」


私が言うと、いもうとちゃんは不満げに唇を尖らせる。

それもそうだろう。なにせそんなの彼女たちがどうこうできることじゃない。

だとしてもそこは譲るべきじゃない部分だ。

みんなに告白するとかいう我ながら狂気じみた状況が現在進行形なんだけど、だとしても彼女たちに対してはしちゃいけない。

それくらいの自重はある。


……ある、けど。


「でも、さ。本当にいいの?」

「なにがですか?」

「いいにきまってるよ」

「むむっ」


問い返すいもうとちゃんと即答するおねえちゃん、その少し意外な反応の違いにいもうとちゃんが唸る。

私の制服の裾をくいっと引っ張りながらそっぽを向いて、そうして彼女は言った。


「まあゆみかちゃんがどんなごみくずでもうけいれてあげますけどっ」


いもうとちゃんはなにかどこか悔し気で、ついつい苦笑してしまう。

ふたりの頭をなでながら空を見上げた。


「私、あなたたち以外とも恋人になりたいんだよ。そんなズルくてわがままなやつなんだよ」

「……ぐもんです」

「ゆみ、まえもおんなじみたいなこといってたよ?」


見下ろせば、二対の視線が挟み撃ち。

そっと伸びた小さな手が頬に触れて、咎めるようにぷにっとつまんだ。


「いいにきまってる。ゆみがわたしたちのことだいすきっていってくれるから」

「どうでもいいです。ゆみかちゃんはわたしたちをぜったいみすてないですから」


ふたりはこんなにも、盲目的なまでに私を信じてくれる。

ほかの人へと向かう想いを、どうでもいいと言い切って。


……だから多分、そうである限りは少なくとも、告白なんてしちゃいけない。


「ありがとうね、ふたりとも」

「えへへ」

「しょうもないゆみかちゃんですね」

「『が』と『も』だと結構意味合い違ってくるよ……?」


左右の腕にギュッと抱きしめれば、ふたつの笑みがくすぐったがる。

ふたりでひとつの双子ちゃんたちはとても愛らしくて愛おしい。それは間違いないことだから、今はそれでもいいかなと思っておくことにした。

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