第191話 避けてる後輩と自分からで(3)

後輩ちゃんの不安は、きっといつまでも振り切れるようなものではない。

だけど、だからこそ傍にいたいとそう思って、大切だって想いを大事にしたくなるんだろう。


私にできることはただ、彼女の不安が少しでもなくなるように、それともいつでも不安を解消してあげられるように、そんな風に彼女の傍にいてあげることだけだ。


私の求める解決が、そうあれるといいんだけど。


「センパイならきっとダイジョブッスよ」

「みうちゃんがそう言ってくれると、大丈夫かもって思えるね」


にこにことふたりで笑みを交わす。

彼女はすっかりとリラックスしたようすで、私を座椅子にのびのびとしている。

例によって例のごとく今は授業中なんだけど、なんかもうお構いなしだ。

それもこれもリルカを使った私が悪いな。

後輩をサボりに誘うとか、まったく私もイケない先輩になったものだ。


「みうちゃんはさ、どう、かな」

「どうとはッス?」

「みんなを選ぶとか言っちゃってるわけなんだけど、それについてはどう思うのかなって」


否定的だったり協力的だったりと、今のところ反応は様々だ。

そんなことを口にした時点で反射的にぶん殴られてもおかしくはないと思うんだけど、案外みんなまともに取り合ってくれてうれしい限り。


今回も後輩ちゃんはむむっと真面目に考えるそぶりを見せて、それから言った。


「とりま抱いとけばいーんじゃないッス?」

「よくないんじゃないかな……?」


抱くって。

しかも『とりま』って。

ヤる気あるのかないのか。

いやないけども。


「でもジッサイ、そこまでやっといてなんもシないのもイミわかんなくないッスか? こーこーせーッスよセンパイ」

「本来はまだ早いと判断されるべきだと思うんだけどね」


状況的には『もう遅い』を日々更新中といったところだけど。

なんならそういう行為に関しても未遂というか過失というか、そんな事例があることだし……


だけどダメだ。

そりゃあ、下心がないってわけじゃないんだけど。

でも、複数人と関係を持つだなんてあまりにも不誠実だ。

あくまでも清く正しく―――


「それって、よーはホンキにしないってことじゃないッスか」

「え」


無邪気なまでにバッサリと告げられる言葉。

それに対して疑問を抱くのではなく、動揺してしまったという事実に愕然とする。


そんなの、まるで痛いところを突かれたみたいだ。


「私は、本気だよ」

「そーッスね。でも、だったらなんでダメなんッスか?」

「なんでって」


普通に考えてマズいだろう。

正気の沙汰じゃない。

カケル発案のハーレムでさえ、みんなを恋人にするみたいな意味合いだったわけだし、それとも比較にならない。


みんなと、そういうことをする、とか……ちょっと、自分が最低のクズにしか思えなくなりそうだ。


「ダメでしょ、だって」

「シたいんッスよね?」

「し、たいはしたいけど……」


メイちゃんや双子ちゃんなんかは、まあさておき。

同年代とか年上のみんなに対して、そういう情を催さないといえばウソだ。

性的な意味だけではなくて、ただなんか、たくさん触れていたいなって……もっと深く、熱く、触れてみたいなって、そう思う。


「じゃあセンパイはそれをもっと伝えてくるべきじゃないんッス? ホンキなんッスよね? ホンキでセンパイのゼンブ、みうたちみんなにくれるんッスよね? みうたちにも、そういうの含めてゼンブもとめてるってことッスよね?」

「……」


彼女の言うことは、正しい。

私はみんなに求めてほしい。

親愛、友愛、恋愛、性愛―――そんなもろもろを、もろともに、全部全部、私に向けてほしい。


……という、私の欲望。


どこまでも自己中心的に、みんなが私に熱狂することを渇望する。

みんなを選ぶというのも要は、みんなが心置きなく私を求められるようにするということで。

そのために当然、私はみんながそうであるようにみんなを求める。

親愛、友愛、恋愛、性愛―――愛とつくものならば、情と湧くものならば、全部全部、差し出して。


だったら当然、私は、みんなとそういうことがしたいという劣情を隠してはいけない……のかもしれない。

少なくとも後輩ちゃんはそう思っている。

本気で、全身で求めるのなら、ほんとのほんとにすべてをさらけ出すべきだと。


「セックスはコイビトじゃないとダメッスか? そんなのに負けるカンケイで、みうたちをナットクさせるつもりなんッスか」

「それは……」


そういうことは、恋人とかじゃないといけない。

そんな気持ちがあるのは間違いない。

だけど、私にとって彼女たちはそれと比べてなお特別だ。

肩書なんて関係なく、そこに差別はない。


だけど、肩書が関係ないっていうなら、確かにそれを言い訳にするのは……


……言い訳、か。

私は、じゃあ、みんなとすることを、避けているのか……?

ダメだと思う以前に、避けようとしているから、ダメだと思いたい……?


「みうは、センパイとシたいッスよ」


まっすぐに告げながら、彼女の手が私の胸を征服の上から包む。

わずかに目元をこわばらせる緊張が、彼女の本気を伝えているようだった。


「―――先輩がいいなら、いつでもみうは準備できてます」


その言葉はきっと言葉通りの意味だ。

もしも今から誘ったって、彼女はためらいもなく受け入れるだろう。


彼女は、私を求めてくれている。


私の望むように。


だとしたら、私は当然それを受けとめるべきなんじゃないだろうか……


「……ちょ、っと。考えさせて」

「りょーかいッス。じゃ、まってるッス」

「うっ、……ん」


待ってる、のか。

私の返答を。


そっか……そっかぁ……


「…………うぐぅ」

「センパイって一回ヤったらめっちゃタガはずれそうッスよねー」

「あながち冗談じゃないかもしれないんだからやめてくれない!?」


というか、また悩みが増えたし。

や、まあある意味彼女なりの回答ではあったわけなんだけど。

本気ということを考え直させるような言葉だった。


だからといって、よしじゃあ抱くか! とは、まあ、さすがに……ねぇ。


どうしたものか。

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