第169話 手ごろな親友と強引で(2)

アイにはマゾヒズムがある。

痛み、束縛、不満―――そんな負荷を好むささやかな倒錯。

かといってやりすぎると普通にイヤだろうから、彼女を満たすためにはその線引きをきちんと見極めていく必要がある。


なかなかやりごたえのある仕事だ。

30分じゃとても終わらなかった。


ので。


私は30分の終わりを感じた瞬間、すでにリルカを叩きつけていた。

ふるふると首を振って拒もうとするのをキスで黙らせて彼女を買い取ると、余計なことを言わないようにとふさいでいた口を解放してあげる。


「ごめんねアイ。苦しくなかった?」

「苦しかったわよっ」

「ふぅん。そっか」


笑いかけると彼女はたじろぐ。

ひゅると泳ぐ目がすべてを物語っているような気がしたけど気にせず、私は彼女に言った。


「じゃあこれから20分、アイは私の言うことを絶対拒否しないでね」

「なっ、なにさせるつもりよ!?」

「それはシてからのお楽しみだよ」


まずは、とそう耳元でささやいて、それから目を閉じさせた。

ごくりと唾を飲み込む音が私の胸を高鳴らせる。

私はささやきを触れさせて、そうしてそっと彼女の腕をさすった。


「っ、」


それだけでも反応してしまうほどに、彼女は今高まっている。

30分の成果だ。

たっぷりと虐げてあげたから、この後になにをされるのかという妄想が彼女の身を熱している。


「私は、どこを触ってるかな」

「……う、うで」

「うん、そうだよ。ちゃんと集中して感じて? この手が、これからどこに触るのかな」


するすると腕を上がる。

こわばる体をからかうようにまた下る。

手の甲に触れ、指を重ね、くすぐり、手首をなでる。

浅く早い彼女の呼吸は、緊張と期待と興奮を私に伝えてくる。


たっぷりと指先の心地を教え込んでから、私はもうひとつささやく。


「―――隙だらけだよ」

「っ!?」


途端に身体を守るように縮こまるアイ。

いったいどこをどうされると思ったのやら。

くすくすとからかい笑ってあげると、耳まで羞恥で燃え上がる。


私は笑いながら、腕をさする手でそのまま肩に触れた。


「なにされると思ったのかな」


するりとわきの下にくぐって、そのままボディラインに沿って横腹を包む。


「くすぐられると思った?」

「ぁっ、」


ふにふにと触れればそれだけで彼女は小さく声を上げた。

すっかりと刺激に素直になった身体はなんともからかいがいがある。


そのままおなかの前に手をまわして、ゆっくりと持ち上げて、ブラごとカップを包む。


「それとも、こういうことかな」

「はっ、ぅ、」


声をこらえようとして下唇を噛むアイ。

そこそこ存在感のある熱を包みながら、彼女の興奮を指先でイジめる。

やりすぎると逆効果なので、ほんの一瞬だけ。

それだけでも彼女はたくさんのことを妄想して、脳はもうまともに機能しない。


胸の合間をなぞるようにして心臓に手のひらを当てて、それからもう一度、降りていく。


「もしかして……下のほう、だったりして」

「ぅうっぅ」


彼女のお腹をきゅっと押す。

激しく反応して身体を縮めるのを優しく撫でてほぐしながら、腰からお尻にかけて手を動かして、そのまま太ももをさすり下ろす。


スカートのふちに触れたら、そして、そっと、素肌に触れて、撫で上げていく。


「だめっ、だめっ、」

「ダメ、は、ダメだよ」

「ぅうう……ッ!」


やけどしそうなほどに熱くなった肌。

張り付くくらい汗ばんで、手がゆっくりと持ち上がるのに合わせてふるふると痙攣する。

上に行けば行くほどに、もっともっと、熱い。

その奥に熱源があるのだと、そう分かる。


「満足、したいんだもんね」

「はっ、ふっ、」

「身体の奥まで、いっぱい、満足したいんだもんね」

「はっ、はっ、はっ、」


満足とはなんだろう。

デートをしたり、ただ話すだけ、キスをしたり、手をつないだり……そういう精神的な充足だけが、満足なのだろうか。

もちろんそれでもいい。

相手がそれを最大のものと思うのなら尊いことと思う。


だけど、アイはどうだろう。


それだけで、彼女は満足するだろうか。

彼女のこの熱は、もっと肉体的な充足もまた求めているんじゃないだろうか。


「させてあげるね―――満足」

「あっ、うッ……~~~~!」


びくびくびくッ!

と。

腕の中で、彼女が身体を弾ませる。

そしてくたりと力が抜けて、慌てて体を支えた。


「……え」


あれ。

えっと。

まだ触ったりとか、してない……よ?

や、もちろんこんな学校でそんな本当にするわけもない。鼠径部くらいまでは届こうかなぁと思っていたけど、でもそれでさえあと数センチはある……っていうか、え、あの、もしかして私すごいヤバいことした……?


いやいやいやそんなばかな。

そんな、だって、本当に至ってしまうとか―――


ぉう……


「い、まの……な、に……?」


ひどく疲弊したような虚ろな目で私を見るアイ。

困惑しているのに、なぜか緩んだ頬が妙に生々しくて。


どう答えればいいのか、これこそ相談したいくらいなんだけど……

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