第152話 後輩とデザートで
カードをつかっても自重すれば大丈夫。
……なんて、そんなことではないらしいということがよく分かった。
時間いっぱいまで私に『学習』を施してくれた先生も、最終的にはほぼ諦めてしまったようだったし。
「……せめて、人目につかんようにだけしろ」
と、額に手を当てながら先生は言った。
少しだけ乱れた息を整えながらブラウスのボタンを締めるその姿に、そこはかとなく不謹慎な感動がある。
「今みたいに、ですか……?」
私の問いかけに先生は視線を鋭くして、なにも応えずポンと頭をなでた。
―――そんなこんなもありつつ。
結局私の沙汰は来週月曜日までの自宅謹慎という形に落ち着いたようだった。
ちなみに今日は木曜日だから、実質ほぼ三連休みたいなものだ。
なんとなく気が引けるから、土日も家にこもり切りということになりそうだけど。
そんなことを思いながら家に帰る。
扉を開いて「ただいまー」
と声をかけたところで、そういえば今日姉さんは大学に行っているはずじゃなかったっけ、と思い出す。
それなのにどうして鍵が開いているんだろう。
「おかえりなさいませッスー」
「うんただいま……あれ?」
出迎えてくれたのは後輩ちゃん。
ミニスカートに袖の膨らんだブラウスを着て、その上からエプロンなんて着ている。
そしてその手にはお玉とフライ返し……その二つ同時に使うことある?
「ゴハンにするッスー? オフロにするッスー? それともワタシッスかー!?」
なんて言いながら抱き着いてくる彼女を抱きとめると、なんだか甘いお菓子の香り。
くんくんと嗅ぎながら耳たぶを食むと、後輩ちゃんは「にゅあ!?」と面白い声を上げて逃げ出した。
「なにゃななんッス!?」
「ごめんごめん。なんかおいしそうだったから」
「みうは食べてもおいしくないッスよー!」
「……あはは。ごめんって」
―――そんなことないと思うよ?
とか危うく口にしそうになるのをこらえて笑う。
カードを使ってすぐっていうのは、なんだかタガが緩んでいるような気がしてだめだ。
それともこれくらいなら軽口で済むんだろうか……もうなんか色んなことが危うく思えてくる。
「みう センパイのためにホットケーキ焼いたっす!」
そんな私の胸中はつゆ知らず、なんとも愛らしい笑顔でそんなことを言ってくれる後輩ちゃん。
手を洗っている間にいろいろと準備してくれたようで、ダイニングに行くと湯気の立つホットケーキとココア、そして後輩ちゃんが私を待っていた。
「センパイどぞッスー!」
「わぁ。至れり尽くせりだ」
「みうちゃん流おもてなしッス~♪」
ニコニコ笑いながら当たり前のように私の膝の上に収まる彼女。
なでりなでりとなでると子猫みたいにきゅるるとのどを鳴らして、それから私の手にナイフとフォークを持たせてくれる。
「ささ、どーぞ召し上がれッスー!」
「うん。じゃあ、いただきまーす」
お言葉に甘えてふかふかのホットケーキを切り分ける。
彼女から漂っていたのと同じ甘い香りだ。
たっぷりのバターとはちみつが塗りたくられたそれは見て香るだけで暴力的なまでにスイーツだ。一口食べれば嫌なことなんてすっかりと忘れて無条件に頬がゆるんでしまう。
「んーっ。おいひぃ」
「センパイよくばりすぎッスよぉー」
「んふふ」
もぐゅもぐゅと口いっぱいの幸福感を堪能する。
私の食べっぷりに彼女も嬉しそうで、もうこうしているだけで幸せが止まらない。
「はい、あーん」
「あーん、ッス♡」
二口めは後輩ちゃんに。
差し出せば当たり前に受け入れられて、もぐもぐと口いっぱいに頬張った彼女も同じくにこにこ。
甘さ控えめのココアでまた別種の幸福を共有して、次々とフォークは進んでいく。
そんなこんなでホットケーキもすぐにぺろりと平らげてしまって、ふくふくになった私たちはしばしまったり。
「……ところで、どうやって入ったの?」
「おねぇさんに入れてもらったッス」
「へぇ……え。じゃあ結構待ってくれてた?」
姉さんは私とそう変わらない時間に家を出たはずだ。たぶん。
なにやらユキノさんと電話をしていたようだから、リップ音を高らかにキスして出てきてやったわけだし。
その後と考えると、短く見積もっても一時間以上は経っていることになる。
そう思って問いかけたけど、後輩ちゃんはにこりと笑って私を見上げた。
「ゼンゼンッスよ~♪ センパイのためにお料理してたらスグだったッス!」
「そっか」
なんとも可愛いことを言ってくれるものだ。
うれしくなってちゅっと触れると、頬をすり合わせるようにじゃれついてくれる。
「えへへ……センパイ……♡」
とろりと、はちみつみたいにとろける瞳。
彼女は、おかしみたいに、甘い香りをさせていて。
駄目だよ、と拒もうとして、だけどここが自宅であることに気が付く。
「センパイ、ミンナに見られるのもおスキなんッスね」
彼女の手が私の手をそっとおなかに運ぶ。
細くて、柔らかな彼女のおなか。
いつまで触っていられる心地よさは、布地の上からもよく分かる。
「でもみう、センパイはひとりじめしたいタイプなんッス」
ちゅ、と、蜜に濡れたあまいくちびるが触れる。
ぺろりと唇を舐めた舌が、言葉を甘く私を誘う。
「センパイは……どうッス、か?」
返答は、黒いカードで。
笑う彼女が私を買って、そっと身をゆだねられる。
「まえはみうにさせてくれたッスから、きょーはセンパイのしたいみたいにしてほしいッス」
「私、の?」
「めーれーッス。みうをめいっぱいたんのうすることー! ……なんちゃって、ッス」
はにかむように笑って、だけど言葉を取り消したりするそぶりはない。
自分のすべてを差し出した私に、逆にすべてを差し出すということ。
彼女の『めーれー』に、全霊で応える以上の選択肢はなかった。
リルカを使っているときはあくまでも私の任意によって振るわれる、相手に気持ちよくなってほしいという欲求―――それを、すべて目の前の女の子にぶつける。
それを思うだけで、頬がゆるんでしかたがない。
「食後のデザートみたい」
「いまデザート食べたばっかじゃないッスかー」
「そうかな」
くい、と顔を向けさせて、そっといちど、口づける。
唇を食むように吸って、笑う。
「みうちゃんのほうが、甘いよ」
自分でもちょっとクサいセリフだなと思ったから、返答は許さずにもうひとくち。
そのまま頬にくちづけ、首元を甘噛みするように下っていく。
彼女の口に差し入れた二本の指で舌をもてあそびながら、服の下に潜り込ませたもう片方の手をおなかに張り付けた。
「あんなに甘いもの食べたから、みうちゃんもしっかり運動しようね」
「……♡」
さわ、とわき腹に触れると彼女の体は前のめりになる。
そうするとほんの少しだけ重なるおなかの柔らかな脂肪をフニフニとかわいがりつつ、おへそをくすぐって、耳に舌を触れる。
ぴくぴくと震える身体を抱きすくめ、動きを止める。
それでももちろん彼女の身体は素直に反応してくれる。
快楽と、生理現象と。
くすぐられ、かわいがられるだけでなく、口の中で他人の指が暴れているということによってだらだらとこぼれる唾液が私の手をべたべたにして、服まで汚れてしまう。
だから私は当然にささやいた。
「服、脱ごっか」
返答など求めてはいなかった。
私の手はすでにボタンにかかっている。
だってこんなに気持ちよさそうなんだ。
もっと気持ちよくなれるのに、今の彼女が拒む理由なんてない。
「ぁ、まっひぇ、♡」
それなのに微力に抵抗をしようとする手を、強引に振り切る。
今の私にためらう理由なんてない。
彼女が望むことなんだ。
それに、まだ始まって5分も経っていない。
こんなところで音を上げていたら、全然おなかいっぱいになれやしない。
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