第145話 双子ロリと望むままで

生徒会長さんに『なんでもする』だなんて口走ってしまったものだから、とてつもないものを背負わされてしまった気がする。


私が次期生徒会長……?


ぜんぜんまったく信じられない。

だけど彼女は間違いなくどこまでも本気だった。

そして彼女が本気を出したらなんだって出来てしまいそうな、そんな予感さえある……たぶんきっと、あながち過大評価でもないのだろう。


そこまで熱烈に―――それもあのシトギ先輩から求められることは心地よくて、だけど過分な肩書への憂鬱感がフライングで肩にのしかかってくる。

私はふらふらとさまようように公園にやってきて、いつの間にか双子ちゃんズを侍らせて英気を養っていた。


「ゆみ、チョコあげるー」

「ありがふぉ」

「ふふ。ゆみかちゃん、あまいですか?」

「うん。じゃあ私もお返しね」

「えへへ。ありがとお」

「おねぇちゃんばっかりずるいです」

「いもうとちゃんにもちゃんとあげるからねー」


双子ちゃんの今日のおやつだとかいうチョコレートをみんなでシェア。

当たり前のようにあーんって食べさせあいっこして、幼気な指先に唇が触れたりすると照れ照れり。


うーんこの、どうしようもない人でなし的行動よ。


でもなんだかんだ癒されるんだよねぇ。不用意にリルカさえ使わなかったら。

なんて思っていると、いもうとちゃんが私の懐をまさぐってくる。

そしてあっという間に目的のものを見つけると、するっと抜き出して首をかしげる。


「? いつもとちがいます」

「あー。うん。ちょっといろいろとあって」


すっかり普段使いになってしまった黒リルカを手元にしているから、リルカは今はお財布の中なのだ。いもうとちゃんはリルカのほうを探していたんだろう……なぜ、とかは問いかけたら負けな気がするから気にしないことにして。


「でもこれはほら、ふたりからお金をもらっちゃうことになるから」


そう言ってしまいなおそうとするけど、ふたりの視線がカードにくぎ付けになっている。

試しに左右に振ってみると目線がそれを追ってかわいい……じゃなくて。


えーっと。


「ゆみかちゃんを、すきにできるんですよね?」

「ゆみ。わたしたち、ゆみにもらったおかね、とってるよ?」

「いやあの、……し、したい?」


問いかけると、当たり前のように頷きが返ってくる。

脳が警鐘を鳴らしている。

このふたりに身を任せるのは非常によくないという確信があった。


だけどここ最近の黒リルカ使用によって染みついた奴隷本能が、私を求める彼女たちの意思に応えてカードを差し出していた。


ぴぴ、ぴぴ。


順番にスマホを触れて、そうしてふたりの主人が私を得る。

ああせめて、トイレとか、人目につかない場所に移動するべきだったと。

そんな思いは、至近距離に迫るふたつの熱にあっさりと溶かされる。


「ゆみかちゃん。べろ、だしてください……♡」

「うん」


ぇお、と、望まれるままに舌を晒す。

彼女はそれをはむ、と咥えて、ちゅるちゅるとすすりながら笑う。

どこでこういうことを覚えるんだろう。

それともこういうことを常日頃から妄想しているのか―――呆れにも似た気持ちは、彼女のいたずらな舌に舐り取られていく。

くすぐったいような心地よさに彼女の幼いカラダを抱き寄せると、小さな手が私をぎゅっと抱きしめた。


「みくちゃんだけ、ズルい」


そこへ、横ざまからおねえちゃんがインターセプト。

いもうとちゃんから私の舌を奪い取って、それを喉の奥に飲み込むみたいにして、軽くえずく。

それを可哀そうに思って舌を引っ込めようとすると、だけど彼女は噛みついて止めた。


ふぅふぅと乱れる鼻息と、とげとげしい視線。

まるで野生の獣が自分の餌を主張するような、そんな荒々しい独占欲。

いつもの彼女とは違う―――私が自分のものだっていう、そんな実感が彼女を変えてしまったのかもしれない。


ぎゅうと背に回った手が制服越しに爪を突き立てて、ぐぢ、と、皮膚を引き剥がそうとするみたいに力が籠められる。


痛みに歪んでしまう私の目元に、彼女の吐息が熱を増した気がした。


「なかまはずれにしないでくださいっ」

「ひゃぅ」


おねえちゃんの脇腹をくすぐって強引に居場所を確保したいもうとちゃんは、それから私の唇を舐り、はぷ、と密閉するみたいに唇を重ねてくる。

横からおねえちゃんが舌を伸ばすといもうとちゃんはすぐにそれを受け入れて、ちゅる、と吸い寄せるように今度はおねえちゃんとくちづける。


目の前で唇を重ね、舌を交わらせ、息継ぎのように頬をすり合わせるふたりの少女。


誘われるように顔を寄せたら、二本の指が私の唇をふにっと止めた。


「ゆみは、だめ、だよ?」

「ゆみかちゃんからはなんにもしちゃだめです♪」


くすくすと笑う妖精たち。

仲間外れにされた私はいったいどれだけみじめな顔をしていたのだろう、ふたりはぱちくりと瞬いて、そうしてそろって頬に口づけをくれる。


「ウソだよゆみ」

「そんなおかおしないでください……♡」


ちゅ、ちゅ、と頬を吸う。

耳側に回って、緩やかに耳たぶを食む。

うなじの方に舌が巡って、首の後ろでふたりの舌が交わる水音がする。


ぢゅ、と、少しだけ強く肌を吸われる。


きっと跡をつけられたのだろう。

ほんのりとじんじん残る熱を、ふたつの舌がちろりと撫でた。


そうしてふたりはまた私の前に戻ってきて、にっこりと笑って交互に口づけをくれる。


「いつもよりすなおでかわいいですね♪」

「こいびとになったらいつもこうなのかな」

「どうかな……」


いつもよりも素直。

というよりは単に、いつもは社会的にヤバそうだから一歩引いているというだけで。

だけど今の私は、そんなことよりも、ふたりのほうが優先だから。


それを素直と呼んでしまってもいいのだろうか。


こんな風に度を越えた接触を求めていることを、認めてしまうのは少し恐ろしい。


だけど。


「ねえ、ゆみ、もっとすなおになって……?」

「どうせヘンタイさんなんですから、もっとケダモノをみせてください♡」


無邪気な―――もしかしたら片方は邪気に満ちた、ふたりのお誘い。


ふたりが、望む、こと。


よりにもよって今の私に、そんなことを、望むのか。


「ははっ」


私はふたりを抱きすくめ、驚きの声ごと喰らいつくすように噛みついた。

とはいえ私にはふたつも口はないから、片方の口には指をねじ入れ、強引に舌を捕獲して黙らせる。

これでもう言葉を引っ込めることはできない。

だからこれからする全部はふたりが望んだことなのだ。


今の私に、それに逆らうことは―――できない。

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