第129話 お祭り騒ぎな彼女たちと(15)

かわいい図書委員ちゃんのあんな写真やこんな写真をたくさん撮った後には、もう知り合いはやってこなかった。

残念なようなほっとしたような複雑な気分。

とはいえシステム的にも仕方のないことだから諦める。


そして午後からは、三年生による演劇の時間。

体育館にみんなで移動して、それが終わったら学校祭全体の総評だとかいろいろやって解散という流れになる。


正直知らない先輩方の一般高校生レベルの演劇とか魅力は少しもなかったけど、始まってみれば文化祭という雰囲気のおかげかそこそこ楽しい。親友と一緒にひそひそと感想を言い合ったりできたっていうのもあるだろう。


そうこうしているうちに途中休憩のひとつ前、先輩のクラスがやってくる。

こういう演劇ってなにかのパロディとかそういうイメージがあったんだけど、なんとごりっごりにロミジュリ(短縮版)だった。

ロミオもジュリエットも私の知らないだれかで、先輩はといえばロミオが最初一途に思っている女の人の役だった。なるほど烏の狡猾なイメージは確かにそれらしい……とか思うのはさすがに失礼だろう。そもそも先輩はどちらかといえば白鳥側の人だし。


だからほとんど出番はなくて、ほんの一瞬だけであっさりと退場してしまう。

主役メンバーの妙に堂々とした様子を見ると演劇部かなにかかもしれないけど、それに負けないくらいに先輩も輝いていた。


そんな劇が終わると、トイレ休憩の時間が15分設けられる。

私は体育館を出ていく人たちの群れに逆らうように先輩のところを目指して、そうしたら同じようにこっちに来ていた先輩と遭遇する。


「あ、先輩」

「やあ。来ようとしてくれていたのかい?」

「先輩はお手洗いですか?」

「キミはつくづくボクをからかうのが好きだね。キミに会いに来たに決まっているじゃないか」


そう言って先輩はくるりと回る。

ドレスの裾がふわりと舞って、きゅ、とターンを止めるのに合わせて巻き付くように落ちる。

ジュリエット役の人と比べるとシンプルで、そういったところでも差別化されたグレーのドレス。

だけどすらりとした先輩にはそれがばっちり決まっていて、このまま夜会にでも招待したいほどだった。


「とてもお奇麗ですよ」

「ありがとう。ボクも存外気に入っているんだ」


にこりと笑う彼女と一緒に、行き交う生徒たちから離れた体育館の壁際に。

当然話題は劇のことになって、私は語彙力の限りを尽くしてそれはもう先輩をホメちぎった。


「私がロミオなら目移りなんてしないですね。ええ」

「キミがロミオならば、親友はそもそもほかの女に目が行くことを良しとしないんじゃないかな」

「私もしかしてすごい女たらしとかって思われてます???」

「状況をよく考えてからものを言ってほしいところなんだけれど」

「むしろ私はたらされてるほうですよ」


先輩をはじめとした彼女たちを大好きになってしまったからそれを伝えているというのが私の生き方なので、私がそういう女たらしみたいな人種だと思われるのは前後が逆っていうものだ。


そんな説を声高に主張するけど鼻で笑われた。

なんでだ。

心当たりがありすぎてまったく理由がわからない。


釈然としないものを抱えつつも、私は溜息を吐く。


「どうせなら先輩が主役とかやればよかったんですよ。そしたら視聴率も急上昇です」

「どの局で放送されるんだいそれ」


呆れたように苦笑した先輩は、かと思えば私の手を取ってくるりと誘う。

ダンスするようにターンを決めて、そのままグイっと後ろに傾げた体を腰に回された先輩の腕に支えられる。

触れるほど近づいた先輩の笑みが緩やかに目を開き、宝石よりも目を引く黒の瞳が私を捕らえた。


「他の誰にとってもカラスでいい。キミにとって白鳥であるのなら。―――なんてね」


なんとも劇的なことを劇的に言ってのけたかと思えばぱちんとウィンクする先輩。

こういうキザな振る舞いが妙に似合うのがとても悔しい。

いったいこんな姿を見てだれがこの想いを失えるだろう。

私は大人しく先輩の魅力にやられておくことにして、しばらくはその腕の中で浸っているのだった。


……後で気が付いたけど当たり前のように結構ギャラリーができていて、この件をきっかけに先輩の人気が急増したというのは余談だ。

複雑な気分。

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