第128話 お祭り騒ぎな彼女たちと(14)
お嬢様がお似合いすぎる生徒会長さんの後は、さすがにそう簡単に知り合いはやってこない。
なんとなく声が聞こえて、クラス自体には来ていたようだけど、あいにくと別の部屋だった。
人の目の届かないスペースで誰かにおもてなしをされる彼女たちを思うとちょっと心がざわつく。私が人目がないのをいいことに好き放題したから、っていうのもあるんだろうけど。
また今度、なにかの形で話を聞いたりしよう。
ところで、知り合いは来なかったけど私を一方的に知っている人はちらほらいて、若干おびえている様子だったからちょっと傷ついた。っていうか男子に関しては怯えるのおかしいと思う。
とはいえ懇切丁寧におもてなしして普通にお話をしただけで何人かは誤解(もしかしたら誤解じゃないかも)も解けたようだったから一安心だ。
彼女たちの口から私が人畜無害な生き物だということが広がってくれると嬉しいんだけど。
さておき。
お昼も近くなってそろそろお腹すいたなぁ、とか、あとは午後からの三年生の発表に思いをはせつつ後輩の女子生徒をお見送りした後。
仕切りの入り口からおずおずと顔をのぞかせる思いがけない顔に、私は驚かされることになった。
「あっ。シマナミさん……」
「いらっしゃいませお嬢様」
私を見るなりホッとした様子で表情を和らげる図書委員の彼女を席に誘う。
普段と違った私の振る舞いにやや緊張しているみたいな彼女と向かい合って、ほんの数秒だけ彼女をジィっと見つめ続ける。
すると彼女は視線をきょろきょろたじろいだ。
「な、なんでしょう」
「これは申し訳ありません。どうやら緊張されておいでのようでしたから、どうやってリラックスしていただこうかと考えておりました」
「は、はあ」
戸惑った様子の彼女に、さてどうしようかなと考える。
ここまでふたり、先輩たちには軒並みリルカってきたわけだし、彼女も同じようにおもてなししてあげるのが筋っていうものな気がする。
だけど冷静に考えてリルカを使うのをおもてなしと捉えるのは間違っていると思うのは今更過ぎるだろうか。
どうも彼女は本当に偶然私の場所に来たようだし―――
まあいいや。
深く考える時間ももったいない。
私はタイマーをぽちっとやって、それからリルカを差し出した。
「えっ、とあの……」
彼女は驚いてきょどきょどと視線を巡らす。
恐る恐ると胸に抱くスマホに無理やりリルカを押し付けて、ぴぴ、と買った。
リルカをしまった私は彼女の手を取ってその足元に傅く。
ちゅ、と中指の爪あたりに口づけて、誘うように笑みを向ける。
「なんなりとお申し付けください。トウイお嬢様」
「ふぁ」
ぼぁ、と赤く染まる彼女を見るにファーストインプレッションは成功したようだ。
本来はお話しするだけでそういう出し物じゃないはずなのに、どうしてこう彼女たち相手だと執事プレイを始めてしまうんだろう。
とか、気にしたら負けだ。
喜んでもらえるのならそれに越したことはない。
なんにせよ言ったからにはお申し付けを待ってみようとじぃっと見つめ続けてみると、本気で私からはなにも始めないということに気が付いたのか口をもごもごと言葉を噛む。
「……え、っと、しゃ、写真とかって、いいんでしょうか」
「もちろんにございます」
やがて口をついたお願いはずいぶんと控えめで、そんなところも愛らしいなと思いつつ彼女の隣で頬を触れ合わせる。
「はわわ」
と面白いくらい動揺する彼女に任せると残像しか撮れなさそうだったから私がスマホを借りてシャッターを切る。
「もう一枚ね」
「あ、はい、っ!?」
一枚撮ったことでそれとなく緊張も薄れたのか、少しだけ笑みからこわばりが取れた彼女の頬に不意打ちで口づけつつシャッターを切った。
あぅあぅと口をパクパクさせる彼女の頭をなでながら写真を見てみると、私がキスをして彼女が目を飛び出させている姿がばっちりと激写できていた。
「とてもお可愛いですよ、お嬢様」
「け、消してください!」
「イヤです」
「イヤです……!?」
あっさりと命令を退けたものだから愕然としてしまう彼女。
っていうかイヤもなにもこれは彼女のスマホなんだけどね。
あぅあぅと慌てふためいている彼女はどうやら気が付いていないようだけど。
そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに、とそう思う私に、彼女はぽしょぽしょと恥ずかしそうにして、
「せっかくならもっとちゃんと笑顔で撮ってほしいです……」
なんて可愛らしいことを言う。
もうなんかほんと……かわいい。
「そういうことでしたら何枚でもお撮りいたしますよ。お嬢様がご満足いただけるまで、何度でもね」
「それは恥ずかしいじゃないですか……」
「ふふ。恥ずかしがらなくともよいでしょう」
なんとも可愛らしいわがままを華麗にスルーしてまたカメラを構える。
緊張した面持ちの彼女と頬を触れ合わせてひとつパシャり。
「いいではありませんかトウイお嬢様」
「むむぅ」
私はわりと本心から言っているんだけど、彼女は納得していない様子で自分の口角をむにむに。
可愛いのでこれもまたパシャり。
「もうっ」
「お可愛らしかったのでつい」
「可愛くないです」
「ふむ」
なにやらおかしなことを言う彼女の顎をくいっと引き寄せてまじまじと顔を観察する。
もちろん可愛い。
そして一応さっきのむにむに姿も確認してみるけど、必然的に可愛い。
「やはりお可愛らしいようですね。はい」
「し、心臓に悪いです……」
真っ赤な顔でそう言って、だけど続く言葉はごにょごにょともみ消してしまう。
おおむね予想はつくけど、あえてなにも言わずにもう一度パシャっと。
「……どうしてこういうときばかり撮るんですか」
「お嬢様がお可愛らしいからだと、そう繰り返しお伝えしているつもりですが」
「それが恥ずかしいんですよ……」
顔を隠そうとする手を取って、じっと彼女の眼を見据える。
ハッと息を呑んで、だけど視線を逸らせずに身体をこわばらせる彼女へとさらに顔を近づける。
バクバクと心臓の音が聞こえてきそうな彼女をまっすぐまっすぐと見つめたまま―――私は、ぶちゅ、と擬音が聞こえそうな勢いで変顔する。
「ぷふっ!?」
不意打ちに噴き出す彼女とまた頬を合わせて、訳も分からず笑っている彼女とツーショット。カメラを向けたら条件反射的に顔を向けた彼女の困ったような戸惑ったような満開の笑顔が無事に収められて、これにて私のミッションはコンプリートだ。
「いかがでしょう。お気に召されましたか?」
「もぅ、ずるいですよ! ふっふふっ、……っはぁ。あんなの笑っちゃいます!」
「ふふ。恥ずかしいので忘れてくださいね」
「あっ。ズルいですねそれ。わたしは撮られてしまったのに」
くすくすと笑いあっているうちに、ぴぴぴぴぴとタイマーが鳴る。
片手でアラームを止めた私は、それからちゅっと彼女に口づけた。
「今日はわざわざ来てくれてありがと。もうちょっとしかないけど、文化祭楽しんでね」
「…………はぃ」
来た時よりがちがちになって帰っていく彼女をお見送り。
ちょっと調子に乗ってしまっただろうか……まあいいか。
この先も頑張るぞうと気合を入れて、私は次のお客様を待つのだった。
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