第116話 お祭り騒ぎな彼女たちと(2)
甘えん坊な不良にたくさん甘噛みとかマジ噛みとかされた痕を隠すこともできず席に戻る。
彼女は唯一の出場種目が終わったからと屋上で優雅に日向ぼっこするらしい。
だからわざわざこんなことをしたんじゃないだろうなとちょっと邪推してしまうけど……あながち冗談じゃなさそう。
そんな痕があれば当然なにかしらざわめきが生まれるのは仕方のないことで、だからだろう、親友がとなりでむくれている。
「えっと。怒ってる?」
「ベツに怒ってなんかないわよっ。ただ? チームメイトがガンバってるときにいかがわしいことしてるとかサイテーって思ってるだけよっ」
「ぁぃ……」
なるほどめちゃくちゃ怒っているらしい。
私は軽く周囲を見回して、どうやらそれなりに注目を集めているらしいと理解して、まあいいかと彼女を横倒しに膝枕する。
「にゃっ、にゃによ!?」
「なにが?」
「なにがってアンタ、」
「ほら応援しなきゃ。チームメイトが頑張ってるよ?」
彼女の言葉をさえぎってグラウンドのほうに顔を向けさせる。
元気に走っている生徒諸君の中に知った顔はほとんどないけど、もちろん私たちの組のゼッケンもそこにはいる。
だからそれをほっぽっていかがわしいことなんてするわけもなく、もちろん最低ならざる彼女もまた一生懸命に応援することだろう。
「がんばれー」
「が、んばれ……ってだからってなんでこんなことになってるのよ!?」
「だから―――なにが?」
「ぇう」
にっっっこりと笑顔で見下ろす。
この状況に何か文句でもあるの? ないよね―――という純然たる威圧。
頬を赤らめて力を失う彼女に満足して、優しく頭をなでてあげる。
「ほら。一緒に応援しよ?」
「ぅ、うん……」
「今日はよわよわだね」
「あ、アンタのせいじゃない」
からかうと、むむ、と不満げににらみつけてくる。
だけど結局何を言うでもなく頭を動かしてちょうどいい場所をさがす彼女は、やがて後頭部をおなかに預けるようにして体を落ち着ける。
「アイはクラス対抗リレーだよね。次だっけ」
「足遅いからしんどいわよほんと」
「目いっぱい応援するからね」
「いいわよハズかしい……」
「ふふ」
一番足の速い人は最後のチーム対抗リレーに持っていかれてしまって、それ以外もほかの競技に分散したりした結果、じゃんけんで負けた彼女がクラス対抗リレーに出場することになっている。
どちらかというと足の遅い彼女は、それをずっと憂鬱に思っていて。だからまあ、不満げなのはそういう理由もあるんだろう。
私はリルカを取り出して頬に触れる。
少しだけうろたえて、だけどスマホを触れてくれる。
「ちゃんと頑張れるように、たくさん英気を養ってあげるね」
「な、なにする気よ」
「あはは。そっちこそなにされるつもりなの?」
にこにこと笑いながら目元をなでる。
頬をくすぐって、口元を、唇の下に沿うようになぞる。
さわさわとまるで猫みたいに顎をくすぐると、彼女は周りに気が付かれないように体の動くのを我慢して、おかげでむしろどこか煽情的に見える。
「アイは、どうしたら頑張れる?」
「…………き、キスしなさいよ」
「ふふ。はぁい」
彼女が望むままに私は顔を近づけていく。
ぎゅっと目を閉じる彼女はとても愛らしい。
私はくすぐるように笑みながら―――そっと額にくちづけた。
顔を離すと彼女は戸惑いがちに目を開いていて、なにか言いたげに視線をさまよわせる。
この上場所の指定までするようなメンタルはどうやら彼女にはないらしい。
彼女の言いたいことをわかりながら、私はじらすように彼女の目をふさいで、こんどは頬に、目元に、耳元に―――
「な、なんでよ」
か細い声が問いかける。
ぎゅっと腕をつかんでおねだりしてくる彼女は、からかわれているとでも思っているんだろうか。
「ふふ。なんでって、なんで?」
でも私はいたってまじめだ。
いたって真面目に彼女に頑張ってもらうため、考えた結果の行動なのだ。
その結果私のささやかなサディズムを充足させるような行動になったとしても―――それは別に副次的なことであって本意ではない。ないったらない。
「アイは、ご褒美があったほうが頑張れるでしょ」
「ごほうび……ですって……!?」
「うん。ご褒美」
彼女の唇に、指先で触れる。
「どんなご褒美してほしい?」
「ど、どんな……」
「唇がいい?」
フニフニともてあそんで、その熱をたくさん指先に移して。
それから見せつけるように指先にくちづける。
ちょっとどころじゃないキザな行為は、だけど彼女のお気に召したようで、まるで金魚みたいになって口をパクパクしている。
「それとも……」
つぅ、と体操服の上をなぞって、上向いたカップのはざまに手を沈める。
「跡、付けてほしいかな」
胸骨をぐっと押して、とんとんと心臓を叩く。
「ここ以外にも……たとえばね」
谷間を下り、お腹を撫で下ろす。
こわばる彼女を安堵させるように脚の方に逸れて、太ももを挟むように降りていく。
少しずつ手を立ち上がらせて、素肌に触れるころにはもう指先だけになっている。
触れるか触れないかのフェザータッチ。
裾のふちをさわさわと触れて、そのもっと奥を期待させるように。
「誰にも見えない場所でも、いいよ?」
「、 、 、」
もはや彼女は声さえ出せないようだ。
ぱっと手を放して、私は笑う。
「終わるまでに
ちゅっと額に口づけて、アナウンスで呼び出される彼女を送り出す。
これだけ燃料をくべてあげたんだから、それはもう元気いっぱいに走ってくれることだろう。
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