第112話 さっきしたスポーツ娘と
昨日が何の日か皆さんは覚えていますか?
そう、今作のIF作品『クリスマス短編集~もしも性夜のクリスマス(仮)~』の投稿日でしたねっ(巧妙なステマ)。
これ→ https://kakuyomu.jp/works/16816927859279359539
―――
夕暮れの図書委員と爛れた関係になってみた。
それはたぶん彼女の気持ちが大きく変わったということではなくて、どちらかというと私のワガママが大きなところを占めているんだろうけど。
さて、その夜のこと。
そろそろ寝ようかなとぼんやり考えつつ家でのんびりしていると、突然カケルからメッセージが届いた。
デートのお誘いかなと無警戒に軽快な指どりで彼女とのチャットルームに訪れると、そこにはひとこと。
『さっきしたよ』
……?
さっきした。
いったいどういうことだろうと考えて。
そして恐るべき記憶に思い至った瞬間に着信が飛び込んでくる。
どんな顔をすればいいのか分からなくてひどく微妙な顔になっていると自覚しながら耳に当てる。
「もしもし」
『やほっ』
「やほっ。じゃないんだけど」
『えぇー。だって言ったじゃん』
「いやだけどさ」
まさか本当にそんな連絡くれるとは思わなかった。あれから結構時間経ってるからてっきり冗談だったんだと思っていたんだけど……マジだったらしい。
そんな呆れがため息に乗っかる私に、彼女はにやけ顔が目に見えるような満悦の笑いをこぼす。
『んふふ♡ めちゃよかったよ』
「そのレビューはいらない」
『ユミカってやっぱり上手なんだねー』
「やっぱりってなにさ。……っていうかそれ私じゃないから」
妄想のレビューなんてされても答えに窮するしかない。
そもそも空想上の私のことを嬉しそうに語るのはそれはそれでシャクだ。
なにせ彼女が『よかった』だの『上手』だの言うそれは私ではないのだ。
……教えてあげるんじゃなかった。
私は少し沈黙を挟み、それからなんの気なしに髪をいじいじしつつ問いかける。
「―――ねえカケル。そんなに気持ちよかった?」
『え? うん。……ユミカ?』
「じゃあさ、私もしてみよっかな」
『えっ』
スピーカーの向こうから驚きの声が聞こえてくる。
私は気にせず下を脱いで下着になって、スマホを枕元に置いた。
スマホの向こうに彼女がいるのにこんなあられもない姿をしているということが、それだけでなんだかとても体を熱くする。
「カケルがいっぱい触ってるときさ。私もたくさんカケルに触ってたんだよ」
目を閉じて、そっと自分の頬に触れる。
彼女と向かい合って頬に触れあっているような、そんなイメージが、指先にゆるやかなむずがゆさを覚えさせる。
私の手は彼女の手なのだ。
そういう風に、イメージしていく。
―――彼女の手が、ゆるりと首元をなでる。
手の甲をしゅるりとすりつけて、あやすように。
なるほど確かに、悪くない。
「ふふ。カケルって、実は甘えんぼさんだよね」
『ユミカ』
彼女の声を無視して、彼女の解像度を上げていく。
彼女はそう、案外甘えんぼだ。
それはさみしさや、以前あまりよくないことをしていた後ろめたさ、自分が清らかではないんじゃないかっていう恐怖、そしてそんな自分が私にどう見えているかという不安―――そんなものによって形作られている。
だから私に触れる手は、まるで壊れ物に触れるように恐る恐る、だけどただ力だけ強い、不器用な手つきで。
「いいんだよ。もっと、好きなようにしても」
『ユミカ……』
彼女の声が、深く沈んでいる。
私はそっと目を開いて、カメラをオンにするようにとリクエストを送る。
すぐさまカメラがオンになって、真剣な表情の彼女が顔を見せる。
『ごめん……ワタシ、調子乗った』
「ふふ。なんのこと? そんなことより……続き、しよ?」
『え』
彼女に笑いかけて、彼女に見えるように、胸元をはだける。
こんな淫乱みたいなことをするのは、それも彼女相手だというのが、少し気が引ける。
彼女の記憶の誰かも同じようなことをしたのだろうか。彼女はそれを思い出しやしないだろうか。
なるほどこれもまた嫉妬なのだと自覚する。
「カケル。カケルは、私にどんな風に触りたい?」
『え、っと……ゆ、ユミカ。そういうのダメなんじゃないの……?』
「でも、カケルはしたんでしょ? ずるいなぁ」
『いっやあの、……えっ。そういう展開だったっけ……?』
「言ったでしょ? 私もしてみよ、って」
確かにカケルが私というイメージ相手に楽しんだのは腹立たしい。
だけどじゃあほかの人だったらと思えばもっと腹立たしいわけで、以前言ったように彼女の夜のお供が私であるっていうのも悪い気分ではない。調子に乗ってにやにや(見なくてもわかる)レビューしてきたことにむかっときたけど別にそれくらいはいいやって思える。
つまりまあ、このささやかな嫉妬は実はさほど重大なものではない。
ちょっとからかってみただけのこと。
で、それはそれとして好きな人でするのも一興かなって。
せっかく声もあるんだし。
みたいな。
割とそういうことにオープンな彼女相手でもないと、とてもできないことだ。
……オープンな風に見せてほんとは寂しいくらい奥手な彼女相手に、してあげたいことだ。
「ほら、カケル。カケルがしてくれないなら、私別に妄想でもいいんだけど」
『それは……ヤダ』
むぐぐ、とうなるカケル。
そんなに悩ましいことなのは、たぶんそれだけ私のことを大切に思ってくれているっていうことだろう。
そういうことなら話は早い。
「じゃあ、こうするしかないよね」
私はリルカを取り出す。
遠距離でも後払いで効果を発揮できるなんでもありな高性能―――たぶんきっと幽霊相手にも使える気がする。
彼女はひどく動揺しながらもリルカの魔の手から逃れることはできない。
見るからにドキドキした様子で、彼女はそっと自分の胸をむいっと持ち上げる。
私もそれをまねする。
まあ、お互いに持ち上げるほどはないんだけども。
『ほ、ホントに?』
「試してみたらいいんじゃないかな」
私はにこりと笑って見せる。
はてさて彼女はどこまでしてくれるだろう。
そんなわくわくの夜は、なかなか悪くないものだった。
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