第109話 口封じする担任教師と
ご奉仕したい女子中学生に思う存分ご奉仕させやがった分際で月曜日になってもまだのうのうと休んでいる私。
今朝ようやく熱がひいたくらいだから、大事をとってもう一日お休みしようというわけだ。
さすがにそこまで行くと風邪をひいたことを隠せるわけもなく、親友をはじめとしたみんなからのメッセージがいくつもやってきた。放課後にはお見舞いに来てくれるとかどうとか。
でもそうなるとみんなが一堂に会してしまいそうだから、丁重にお断りしてまた明日元気な顔を見せるということで約束しておいた。
そんなやりとりも授業中になるとほとんど(後輩ちゃんからはちょくちょくくる)なくなって、絶妙に持て余した暇にぼんやりとひたっていた。
ら。
インターホンの音が階下から聞こえてくる。
姉さんが応対してくれるだろうと思っていたら、なにやら話し声とともに階段を上る音。
次いでコンコンとノックの音がして。
『ゆみ、担任の先生がいらっしゃったのだけれど』
「え゙」
私にとっての担任の先生などひとりしかいない。
そんな馬鹿なと思いながらも入室を受け入れたら、開いた扉の向こうに姉さんと先生がいた。
先生はいつも通りの凛々しい姿でそこにいて、私が間抜け面を晒しているのを見て取るとうっすらと笑んだ。
―――姉さんに言って先生とふたりきりにしてもらう。
どうやら先生は『担任教師として』お見舞いに来てくれたということらしい。
まだ放課後にもなっていないのに―――いや、だからこそ、なんだろうか。
学習椅子に腰かけた先生は、私をまじまじと見降ろして頬杖をついた。
「連絡通り大したことはなさそうだ。熱はもうないのだったか」
「は、はい。お昼の後測ったら6度2分でした」
「そうか。どれ」
近くに寄ってきた先生が額を重ねてくる。
間近に先生の顔がある。
ほんの少し動くだけで、触れてしまいそうなくらい近くに、先生の唇が―――ある。
「あ、あ、あ、」
「ふむ。少しばかり、熱が高くなってきたようだが」
「先生のせいですよぅ……」
涙目になる私に先生は笑う。
この不倫教師めっ、聖職者の名が聞いて呆れるわッ!
「なにを期待しているんだ。なあ島波」
くすくすと笑いながら、先生が枕もとのリルカを手に取る。
それをくるくると回しながら挑むような視線を向けられては黙っていられない。
この前は完全なアウェイだったけれど、今日は私のホームなのだ。
あまり好き勝手にされてたまるか。
私は先生からリルカを取り上げ、それをぽいとほかる。
そして先生のネクタイをつかむと、ぐいと引き寄せてベッドに倒した。
四つん這いになるみたいに私を見下ろす先生の手を押して墜落させる。
のしかかる人間一人分の重さを抱きしめながら、先生の服の隙間からわき腹に触れる。
さわわ、と撫でても先生は顔色ひとつ変えず自信ありげに笑む。
「幾たびも女を手籠めにしてきたといっても、所詮は高校生か」
「誹謗中傷がひどすぎません……?」
しょんぼりとする私に、先生は手本を見せてやるとでも言いたげにゆっくりと触れてくる。
パジャマの上からふにふにと。
その場所に意識が向いたら、反対側の素肌にそっと。
「ぁんっ♡」
「ッ」
先生を感じるままに声を上げたら、わざとらしいくらいに大きな声が出てしまう。
とっさに先生は私の口をふさいで咎めるような視線で見降ろしてくる。
だけどあいにくと、もう全部手遅れなのだ。
私は先生の手にかみついてやり、強引に払いのけた。
困惑のようなものを見せる先生に、私は笑う。
「もっとお手本、見せてくださいよ―――センセ?」
「……調子に乗るなよ?」
「ふふ。じゃあまた口をふさいでみますか? あはは。そんなところ見られたらどう思われちゃうんでしょうね。教え子の口をふさいで、体に触って……あはっ。このヘンタイ教師♡」
すん。
と先生の目が座る。
私の挑発にあっさりと、それも極めて理性的に乗って、私の口にハンカチを込めた。
それどころか目までふさいでくる。
先生は上位者だ。
あらゆる面において私の上にある。
そんな先生が私の生意気な反抗をねじ伏せるのは至極当然のことだろう。
まさに今から私に立場っていうものを教えてやろうと、そう決心した先生だからこそ―――リルカで縛り付けるのに相応しい。
先生に止められる間もなく電光石火で差し出すリルカが、先生のそれ以上の
見ずとも分かる、それはもう冷ややかな顔をしているのだろう。
ぴぴ、という音だけが先生の従順を私に教えた。
私はまずハンカチを取り去って、それから先生の手を払いのける。
先生の身に任せるいつもとは違って、今回は私の強い意志にリルカが応えてくれている。
私が服を脱げといえば先生はそれに従うだろう。
己の手で目を、口を塞ぎ、拘束を受け入れろと言ったのならそれに従うだろう。
先生はそうされるというような予測をしているようだ。
30分後にひき肉にしてやる、とでも言いたげな獰猛な炎が瞳の奥にあって正直ちょっとちびりそう。
―――だけど甘い。
私がどれだけ先生のことを想っているのか、先生はつゆほども理解していないのだ。
「先生―――ソダチさん。ふふ。今だけはこうして呼んじゃいますね」
先生の手を取って、銀の環に触れる。
「ソダチさん、わき腹はあんまりなんですよね? ……じゃあどこか、気持ちい場所―――あったり、しますか?」
答えて、とそう請えば、先生に抗うことはできない。
だからそうは言わない。
尋ねるだけ。
その答えを探すように、指先で先生を探る。
「いつも奥さんに触ってもらっている場所、あったり、しますか?」
わき腹をゆっくりとなでる。
かすかにふるえるけれど、反応は薄い。
「ソダチさんがおねだりしたくなるような場所……あったり、しますか?」
ゆらりと舌を見せつけてから、そっと耳介を食む。
わき腹から前のほうに指を滑らせて、おへその中をくりゅくりゅとほじる。
奥にある場所を圧すように、力を籠める。
「それとも普段は、ソダチさんがしてあげるばっかりなんですか?」
耳たぶに歯を立てる。
耳の穴の輪郭を、丁寧に舌で確かめる。
背中に手を回す。
背骨に沿って撫で上げて、首筋から肩に流れる。
「だったら、ソダチさんがつい触りたくなっちゃう場所は、どうですか?」
腕をなでおろす。
わきをくすぐる。
ごろりと体勢を入れ替えて、先生の手と指を絡める。
「ソダチさんは、好きな人と、どんなことがしたくなるんですか?」
くくい、と手を引く。
私のわき腹に、先生の手を誘う。
「んっ、ふ。えへ。私は、子供だから……こんな簡単なんです」
先生の手で、私の身体に触れる。
ここが心地いのだと、先生に、教える。
「はっ、ぅ、」
わき腹を、おなかを、背中を、肩を、首筋を―――先生の手で、なでる。
そんな私を、先生は、ただただ冷ややかに―――いや。
ほんの僅かだけ目元に緊張を乗せて、見ている。
「そんなに見られると、恥ずかしいですよ」
私が笑うと、先生は眉をひそめ、それから目をそらすように目を閉じる。
「優しいですね、ソダチさん」
くすくすと、聞こえよがしに笑って見せる。
先生はなにかを言おうとして、だけど口を閉ざす。
先生の指先がわずかに動いて、私の背をくすぐった。
「っ、う……あは。先生に触られたら、どこだって、幸せなんです」
「―――ソダチだろう、今は」
何気なくつぶやいた先生が、私と体勢を入れ替える。
ひどく複雑な顔をした先生は、いくつかの迷いに指先を震わせて、ぎゅ、と銀の環を握る。
「お前はそんな風にして嫉妬するのだな、由美佳」
「バレちゃいましたか。でも、ソダチさんにだけですよ、これは」
「都合のいい口だな」
ふ、と小さく笑った先生は、指輪をそのままにくいっと顎を持ち上げてくる。
「口はふさいでやる。目は自分で閉じているがいい―――こんなところを見られたら、一大事だからな」
私の言葉を踏襲して、先生はそんな冗談めいたことを口にする。
そうして私は口をふさがれて、声の出せない残り二十数分を過ごすのだった。
ああ全く言う通り。
そんな先生を見てしまったら、きっとこれからもう二度と先生を先生などと呼べはしなかっただろう。
それが少しだけ恐ろしくて、だけど―――どこまでも、そうどこまでも、魅力的だった。
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