第92話 イヤじゃない親友と

不健全な双子ロリっ子たちと新たなるプレイを開拓したりして癒された私は、翌日からも精力的に働いていた。


ら。


「ちょっと」


制服をちょんっとつままれて、なんとも不満げな声が呼び止めてくる。

にやつきそうになる頬をなんとかかんとか落ち着けながら振り向けば、なるほどこれならあんな声になるのも仕方ないなという表情をした親友が私を見上げていた。


「アンタ、なんで最近ワタシと……し、シてくれないのよ」


ざわ、とざわめきが伝播する。

なにせここは教室だ。

私と彼女がキスしていたくらいは普通に知られているこの空間内で発するには、それはあまりにも危うすぎた。


けれど彼女は気がついた様子もなく、意識的にか無意識的にか私の胸の真ん中あたりに手を添えるようにして顔を寄せてくる。


「わ、ワタシだって寂しいのよ? ……夜とかも……」


もちろんこれは、電話来ないかな、みたいなそういうたぐいの寂しさだろう。

だけどこの文脈だとさすがにそれは通らない。

いっそざわざわさえなくなって、気を使ってかあるいは嗅覚に従ってか周囲の学友たちが距離をとっていく。


いつ気がつくのか試してみたい気持ちがむくむくと沸いてきたけど、こういうかわいい姿をあえてみんなに見せてやるのも癪だった。


「アイ。ちょっとこっちおいで」

「な、なによ」

「いいからいいから」


戸惑った様子の彼女を、とりあえずいつものように人気のない校舎裏に連れ込む。

それからお望み通りリルカでぴぴっと逃げられなくしてやってから、私は彼女ににっこりと笑ってみせた。


「ねえ。今のさ、すっごい勘違いされてたって気づいてる?」

「はぁ? ……なにそれ」


本気でピンと来ていないらしい彼女の耳元に口を寄せ、クッと強張る身体をそっと撫でさすりながら丁寧に教えてあげる。


すると彼女はみるみる顔を真っ赤にして、あまりの衝撃に言葉さえまともに使えない様子で口をパクパクさせる。


「ふふ。どう思われてるんだろうね、今頃。……あんなこと言ったあとでふたりっきりでいなくなったらさ、どんなことしちゃうのかな」

「ちょっ、ば、バカじゃないのアンタ!? そんなこと言ってる場合じゃないじゃない!」

「ダメだよ」


すぐさま誤解を解きに駆けだそうとする彼女の腕をがっしりと掴んで拘束する。

体ごと壁に押し付けるようにして、ぐるぐると混乱する彼女にしっかりと伝えてあげる。


「またウワサ、広がっちゃうかもね。今度はアイと、学校でいやらしいことした、って」

「だからっ……!」

「それとも、私とそんな風に言われるのはイヤ?」


私が問いかけると彼女は眼を見開いて、そしてすぐに真剣な表情になった。


「アンタの名誉を傷つけてまで隣にいたくないわ」


ああ。


まったく彼女は、親友としてはどこまでも立派なんだ。

先輩に啖呵を切ったときだってそうだった。

あまりにも親友すぎる。


―――ところがどっこい今は『恋人』のターンなのだ。


「そういうのいいから」

「は」

「私とえっちなことする関係だって思われるのはどうかって聞いてるんだよ、アイ」

「なっ」


たじろぐ彼女にもっと顔を寄せる。

するりと手をおろして、スカート越しに彼女のモモの合間に手を挟む。


「どんなふうに噂されてるかな。こうして人気のない場所で、声を潜めて、バレないようにイケナイことをしてるって、想像されてるのかな」

「ちょ、っと」

「想像してみた? ねえ。私とそういうことするの―――イヤじゃ、ない?」


ぐいぐいと身体を押し付けると、彼女の体が熱くなっていくのがよくわかる。

まったくかわいいことだ。

こんなにもかわいい顔をされたらさすがにくらっとくる。

私だって思春期なんだっていうことをぜひとも彼女には理解してもらいたいところだ。


いやもちろん、こんな中途半端な関係でなにかをするつもりなんてないけど―――でも、したいと思うのは、仕方がないじゃないか。


「私は、それでもいいかなって思うよ。……『恋人』なら、普通だよね」


さあどうなんだと、有無を言わさずに顔を寄せる。

触れるほどに近いけど、触れない。


「いっ、やじゃない、わよ……で、でもウワサされるのはまた違うじゃない」

「どうして? 別にいいんじゃないかな……いつかは、そうなるかもしれないんだよ?」

「そっ―――」


全身が燃え上がって機能停止する。

どうやら刺激が強すぎたらしい。

こんな調子だと、噂だってろくに立ちやしないだろう。あまりにも免疫がなさすぎる。


とりあえずいいことは聞けたし、このあたりで許してあげることにしよう。


「冗談だよ。すぐ戻れば変な噂とかされないからさ」


ぽんぽんと頭をなでてから手を引いて戻ろうとする。

だけど彼女は動こうとしなくて、振り向くとどこかぼんやりとした様子の彼女が私を見ていた。


「―――せふれって、つまりともだちよね……?」

「熱暴走してる!?」

「ともだちとするのはふつうのこと……」

「いやいやいや! それはかなり特殊な友達だから! 戻ってきて! どちらかというと私がやばい!」




けっきょく脳がうだってとち狂ってしまった親友をクールダウンさせるには結構な時間がかかってしまい、戻った私たちを迎えたのはなんとも微妙な視線だった。

これはやってしまったかもしれないと頭を抱える私の一方で、彼女がまだなにかぼんやりしていたのが気がかりだった。


……へ、変な後遺症とか残ってないよね……?

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