第91話 不健全な双子ロリと

そこはかとなく特別に想いあえていると思いたい保健室登校児とゆったりとしたひとときを過ごしたりしつつ、のんきに文化祭や体育祭を目指していたある日のこと。


まじめな学生としての本分と別にやりたくないことをやらされる疲労感でくたくたになった私は、まるでやつれはてたOLさんが女子高生にほいほいとついて行くかの如く(語弊)学校近くの公園にやってきていた。


やはり当然のようにそこにいた癒し系双子ロリちゃんズは、今日は花をモチーフにしたみたいなさわやかキュートなワンピースルック。おねえちゃんが真っ白で、いもうとちゃんが鮮烈な赤色だ。


「ゆみー!」

「うふふ。こんにちは、ゆみかちゃん」

「こんにちはー。来ちゃった」


わらわらとやってきた彼女たちはベンチに座る私を挟んで座って、私からリルカを差し出すまでもなくスマホをいじいじしてもじもじする。

かわいい。

この子たちのためなら幾らでも払っちゃえる気分だ。

現時点ですでに云十万とかいう出費になっていて必死にためたお小遣いがそろそろ本格的にヤバいという事実さえ気にならない。


もっとも二人に払った分は、たぶん違和感なくご両親の口座に振り込まれているわけなんだけど……よくよく考えたらそれって結構不思議な力だ。や、まあこんな都市伝説まがいの力を不思議だなんだって今更過ぎるけど。


それはさておき。


ぴぴっと両手の花をお買い上げした私は、さっそく癒しを求めて二人を抱き寄せてみた。

こう、ね。

幼気な華を両腕に侍らせて座る様はさながら悪党のボスだ。

足なんか組んでみたらもっと気分は乗るだろう。ふたりを飾りみたいに使いたくないからしないけど。


はてさてどうしようかなぁと思いつつ、ふにふにと私の手に触れる小さな葉っぱをかわいがる。触れ合うだけで心地よくて、頬をすりつけて、吐息を触れ合わせる。


「うふふ……♡ゆみかちゃん♡」


くいっと頬を引き寄せられて、下唇をちるちると吸われる。


「あー!わたしわたしもー」


負けじとおねえちゃんもちぅちぅ。


―――もしかしてこれってめちゃくちゃ不健全なことなんじゃないかって思ったけど今更過ぎたから考えるのをやめることにした。

キス写真とか撮られてるからね。仕方ないね。いやもちろん、そんな嫌々じゃないしむしろしたい……いやそれはダメなのか……?どこからがセンシティブなのか分からない。


……もしかしたら小学生とキスした時点でアウトだったりする?


…………うん。

やっぱり考えちゃいけないな。


気持ちをさっぱりと切り替えて、めいっぱい癒されていくことにする。

ちゅっちゅと触れ合って口から癒されたところで、今度は彼女たちの柔らかな髪に鼻先をうずめてふんすふんすと香る。


少女のにおいを堪能する女子高生の図。


この鼻腔を満たすのが犯罪臭というやつか……。


「ゆみヘンタイみたーい」

「うふふ♡ヘンタイさんですね……♡」


少女に罵倒されながら匂いをかぐのって癒されるなぁ……。

……もしかして私って結構終わってるんだろうか。

いやでも、ほら。罵倒っていってもまんざらでもない感じのやつだし。これもひとつのじゃれあいみたいなね。


そんな誰かへの言い訳(たぶん自分)を脳内で繰り返していると、ふたりがぐぐぐと私の頭を下げてむきゅっと髪の毛に顔をうずめる。


そしてすんすんとかわいらしい呼吸音。


お返しということなのか、めちゃくちゃ嗅がれている。


「んふっ」

「ふふ……♡」


なにか感想を言ってくれるでもなく、ひたすらにくんくんと嗅がれる。


少女ふたりに自分の匂いを嗅がせる女子高生の図。


どういうフェティシズムなんだろう。

逆マーキングみたいなことなんだろうか。

いや私がさせてるんじゃないんだけども。

……うーむ。こう、そこはかとなく恥ずかしい。


「んん」

「? ……うふ♡」

「な、なに?」


突然なにかに反応するふたり。

なにごとかと問いかけてみても特に反応はなく、すんすんくんくん。

なんだろう。変な匂いでもしたんだろうか。いやでもそんな急に匂い変わることある?


……うわ。


イヤなことを思い出した。

イヤなことっていうか、なんというか。

このあいだ、後輩ちゃんにも言われたんじゃなかったっけ。えっちな匂いがどうのこうのとか。まさかそんなものがこの場面で発生しているとは思いたくないけど……っていうかしないし。そんな野生動物じゃないんだから。


……しない、よね……?


にわかに不安に襲われた私はふたりを引きはがす。

そのとたんにそろって抗議する少女たちの頬が朱に染まっていて、私は逆に肝が冷えた。


たぶんこれはあれ。顔を押し付けてたからちょっと息苦しかったとかそういうやつだろう。うん。そういうことにしとこう。


匂いはどうやら絵面的にもヤバそうなので、ほかの方法で癒されてみることにする。


味覚嗅覚ときたら……視覚、はもう存分に堪能しているとして。

お蔵入りの聴覚を除けば触覚? でももうそれも結構、こうしてぎゅっぎゅとしてるだけで満たされてるし……もしかして私って実はすでに完全癒され状態だったんだろうか。


ふたりとこうしているだけですでに癒し。


これはコペルニクス的転回だ。

たしかにそもそも―――つまりリルカを手にする前は、ふたりの仲睦まじいお話やじゃれあいを眺めているだけで癒されていたわけだし。思えばこうしてふたりに対して何かをしようだとかしてもらおうだなんていう考えは、それそのものが不健全だったのかもしれない。


どんな健全な行いも、純粋な癒しという観点で見たら不健全だったのかもしれない。


ああ、心が晴れ渡るようだ。

私はいつからこんなにも汚れてしまっていたのだろう。

愛らしく仲良しなふたりと同じ空間にあるだけで癒されていた無垢な私はいつからこんな風になってしまっていたのか。


これはいまいちど初心に帰って、健全な癒しを追求してみるべきかもしれない。


そう思い立った私はさっそく彼女たちの間から抜け出して、ふたりを抱き合わせた。

そしてベンチの前に座って、困惑しながらもむぎゅっと抱き合う少女らへと告げる。


「私は見てるから、ふたりでいっぱい好きなだけしてみて?」

「ゆみはいいの?」

「うふふ……♡ゆみかちゃんはヘンタイさんだからいいんだよ、おねぇちゃん♡」


さすがいもうとちゃんは理解が早い。

私が断じて変態ではないという点さえ除けば完璧に私の意図を察して、さっそくおねえちゃんと指を絡めている。


そこから始まる、それはもう濃密な双子愛。

少女という非人間的な神聖さでカモフラージュされなければ百人がアウトと判定しかねないそれを、私はまるで明鏡の水面に浮かぶかのような心地で眺めていた。

私が完全な部外者となったことで、そこはすでに完全健全空間になっているというわけだ。


すなわち現状は、双子の少女のからみを下のほうから眺めている女子高生の図ッ!


どうあがいても不健全だった。

なぜだろう。皆目見当もつかない。

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