第28話 健全な生徒会長と

酔いどれOLの肉枕になった私は年上を甘やかす快感を覚えてしまったので、甘やかせそうな年上に声をかけることにした。

ちょうどいいことに今日は祝日だ。

姉さんは研究室の方が忙しくていないけど、私はとうぜんお休みの日。


そんな日に、我が家の玄関には彼女がいる。


「こんにちは。お呼びいただきありがとうございます」


ひどく不承不承といった様子ながらもぺこりと頭を下げる優等生な生徒会長さん。

なんと祝日なのに制服を着ている。

かなり警戒されているのか、それとも極端なマジメっ子なのか。後者であって欲しいけど、まあ今日のところはしかたがない。


「まあとりあえず上がってください」

「お言葉に甘えて失礼いたします」


言葉と裏腹にまったく甘さを覗かせない彼女。

二度も丹念にリラックスさせてあげたけど、敵地(?)に足を踏み入れてしまってはさすがに警戒もするらしい。


っていうか生徒会長がここにいるのやばいかも。


「それで、わたくしを家に招いたのはいったいどういった御用件ですか」

「そういえばそれ聞かないで来てくれましたよね」

「……」


めっちゃ睨まれた。

毎回呼び出しに来ると不審だからって電話番号教わっちゃったけど、まさか休日に呼び出されるとは思っていなかったんだろう。めちゃくちゃ不機嫌そう。

でもかわいい。

なにせずいぶんと独占させてもらったし、そろそろ照れ隠しくらいは分かるんだよね。


ちなみに照れてるときは視線の鋭さが四割り増しくらいになる。

普段より威圧感を感じたら照れだ。そのはず。本気でキレてないかぎりはたぶん。


とりあえず視線が痛いのは間違いないので寝室に連れ込む。

リビングを横目に過ぎたあたりから視線が鋭さを増したのはさすがにキレているかもしれない。

でもリルカをちらつかせれば買うまでの流れに逆らうことはできないのだった。残念。


部屋に着くと、ラベンダー香るささやかな熱気に迎えられる。

準備はすでにできているのだ。


「とりあえずベッドにどうぞ」

「……」


促してみると、ひたすら私を睨みつけながらも大人しくベッドに腰かける。

大丈夫かな。終わった後に殺されたりしないかなこれ。

いやまあ、殺されるようなことは……ちょっとしかしないつもりだけど。


私もベッドに上がって、さっそく彼女にリルカを差し出した。

あいかわらず殺人的な視線で射抜きながらも私に買われてくれる。


「そういえばインナーとか着てます?」

「着ていますが。それがなにか」

「じゃあ脱いでもらえます?上だけでいいんですけど」


わぁお。

すごい。こんなに冷たい視線初めて見た。

リルカの効力下でも殺されそう。

つい意思が砕けてしまいそうになるけど、負けじと見返す。


「―――あなたはそのような外道ではないのだと。ほんの少しだけ信じようとしていました」


煮えたぎるような怒りで震える彼女の言葉。

肩を震わせながらも彼女は制服を脱いでいく。

うっかり舌を噛み千切りたくなるほどの罪悪感に心臓が痛い。

辛うじて築き上げてきた信頼のようなものが急速冷凍されて粉みじんのかき氷になるのが分かる。

たぶん私がいままでおかしなことをしなかったのはこの布石かなにかとでも思われているんじゃないだろうか。


うわあい。死にたい。

もうちょっといいやりかたがあったんじゃないかなぁ、とかさ。

いまさら思っても遅いんだけど。


睨み合いながらも彼女は制服を脱いで、タンクトップのインナー一枚になる。

うーむ。

姉さんは普段こういうラフ(?)な格好にならないから、なんかこう、感動がある。

ホント大きいや。

けっこうゆったり目だから、こう、服が張って……おぉー。


「っ……」


私の視線に気がついてスカートからインナーの裾を出す。

それはそれですごいけど、あまり見つめると本当に嫌われてしまいそうだからなるべく視線をそらす。だって親の仇を睨むみたいな目してるし。これは目の前で親を殺されたレベル。


「さて、じゃあベッドに仰向けになってください」

「……いいでしょう」


私の指示に従って彼女はベッドに仰向けになろうとして、戸惑った様子を見せる。

たぶん見慣れないものでも見つけたんだろう。


「あの、これはなんですか」

「胸の大きい人でもうつ伏せで眠れるクッションです」


人ひとりが寝っ転がれるだけに大きなクッションで、ちょうど胸の辺りがくぼみみたいになってる。正直私からすればネタアイテムとしか思えないんだけど、せっかく来てもらった彼女には快適でいて欲しい。姉さんも案外いい感じって言ってたし。


おかげで金欠を促進させる理由にもなったけど、まあ仕方ないね。


「さあどうぞ心置きなく寝転がってください」

「……分かりました」


そのクッションのおかげかほんの少しだけ視線の鋭さが減った気がする。

というよりは戸惑い成分が混ざった。

まあそうだよね。


とはいえ、そんなことじゃ彼女の警戒は解けない。

彼女の上に四つん這いになったら、すぐに身を強張らせた。


「じゃあ、始めますね」

「好きになさい」

「力を抜いてリラックスしてくださいね。そしたらちゃんと気持ちくしてあげますから」

「……そうですか」


リラックスの欠片もない硬い声音。

たった30分でこの人を堕とせるだろうかという不安がよぎる。

それを振り払って、私は彼女の背に手を触れる。


もちろんマッサージだ。

言うまでもない。


「やっぱり細いですね、とっても。筋肉質で。だけどすごいやわらかいです」


軽く触れるとやわらかな脂肪がふにふにと受け止めて。

指で圧すと筋肉の心地よい弾力が返ってくる。


「肩もですけど、背中もすっごい凝ってますね。やっぱり座り仕事は疲れるんですね」


ぎゅ、ぎゅ、と筋肉をほぐしていく。

ほんとうはいろいろやりたかったイタズラがあるんだけど、下手したら本当に嫌われかねないのでいったん素直にマッサージをする。

姉さんで練習した指圧マッサージだ。

全身を合法的に弄ぶことのできるので、ずっとこの人にしてあげたかった。

じつはもっと進んだ手も用意しているけど、いまの感じでやるのはさすがに厳しい。なんならまた後日になってしまうかもしれない。ディスポの防水シーツまで箱買いしたのに。


そんな雑念はさておき。


「気持ちいですか?頑張って練習してみたんですけど」

「……あなたは、どうして勘違いされるようなことを」

「勘違いでもないですよ?」


ちょっと熱くなってきたので服を脱ぐ。

ベビードール一枚になっても見てもらえないのが悲しい。

とはいえ服を脱いだことくらいは分かるんだろう。

また彼女はすこし身を強張らせた。


それをほぐすように、ぐぐ、と押し込みながら身体を重ねる。


「あなたに触れたいと思ったのは本当です。そうでもないとこんなことしませんよ」


体重をかけて、だけど痛くないように、手のひらとか、親指の付け根のところでゆっくりと圧す。

耳元に吐息をかけて、私の近さを強調する。

強張れば強張るほど、ほぐし甲斐があるというものだ。


「それとも、私がただあなたをマッサージしてあげるためだけにしているとでも?」

「んっ……下心が、っ、あるということですか……」

「それはそうですよ」


ぎゅ、ぎゅ、と身体を圧す。

前腕を押しつけてみたり、こすり上げてみたり。

布の上からだから変に肌がこすれないように。

その合間に、腰を掴んでみたり、胸の横をふにっとしてみたり。

下半身に伸びそうになる手はさすがに堪えた。


「っ、そもそも、お金を払って女の子を買うっていうのにっ、下心がないわけないじゃないですか、っ」


マッサージは結構力を使うから、私まで息が荒くなってくる。

それになにせ程よく鍛え上げた女体っていうのは、こう、触れていると気持ちがいいし。

……でもこれ、まるでへんたいみたいだ。

否定はできない。


苦笑しながらもせっせと圧していると、彼女は首だけで振り向いて私を見る。

視線が私の身体を往復して、少し気恥しくて目を逸らした。


「……どうしてっ、んっ、そんなことをわざわざ、仰るのですか」

「え?」


どうしてと問われると、戸惑う。

なにせなにか考えがある訳でもない。

あえて言うならなんとなく。

というかまあ、隠す必要もないし……いやあるんだろうか。

うーむ。


ぎゅっぎゅとしながら考えていると、彼女はまたうつ伏せになる。

しばらく小さな声をもらしながらされるがままだった彼女は、またぽつりと言葉を溶かす。


「あなたは、私に触れると……、、興奮するのっ、ですか?」


……この人ストレートしか投げたことないんだろうか。

どうしてこう身もふたもないことを。

しかし興奮というと……いやまあ、うん。


「ま、まあテンションは上がりますケド」

「そうですか」


そう言ったきり、彼女はまた大人しくなる。

けれど溢れだす声がすこしだけ弾んで、吐息に熱が滲むのが分かる。

私の指を求めるように、ほんのわずか身体を動かすのが分かる。


……どうして、こんなやりとりで彼女の身体からこわばりが解けたのだろう。


ごくり、と。

飲み込むツバの音も聞こえているはずなのに。


―――ふと。


彼女のインナーがはだけているのに気がつく。

ほんの少しだけ汗ばんだ肌が露になっている。

筋肉の形や、するりとした背骨が分かる。

腰に向かって流線を描くボディラインなんて蠱惑的だ。

あっ。

ヴィーナスのえくぼまである。

鍛えてるからなあ……かっこいい。キレイだ。憧れてしまう。

きちんと努力をして、しかもそれを続けているという証。

彼女の身体は研鑽でできている。


……。


彼女の肌に、触れて、みた。


「っ、……」


わずかな強張りは、呼吸を重ねてほどける。

むしろ私が変に緊張してしまうくらいだ。


「マッサージ……続けてもいいですか?」


そう言いながら、彼女の肌を揉む。

マッサージなんかじゃない、私が心地いいだけの手遊び。

断りやすいようにと、そんなささいなイタズラだ。


彼女はしばらく沈黙し。

それから。


「……どう言おうとも、続けるのでしょう」


そう言って彼女はまた沈黙する。

うーむ。

悩ましいところだけど、彼女ができる最大級のおねだりがこれということにしよう。


そんなふうに、できるだけメンタルの優位を保とうと努力しつつ、彼女の背中を指圧する。

インナーの裏に手を潜らせて素肌に直接触れる。

そのせいで露になっていく身体は、想像よりももっと綺麗な形をしている。


「んくっ」


横腹にチラリと触れたとたん、彼女の身体はくぃっとくねる。

驚いて手が止まると、彼女はくてんと力を抜く。


しばし停止して。


それからまた脇腹をちょぃん。


「っ、ふぅ」


またしても身を捩らせた彼女は、少し荒い息を吐いた。

どうやらそうとう効果があるらしい。

ふぅむ。


「ごめんなさい。くすぐったかったですか?」


そう言いつつちょっぴり触れる。


「ぅ、も、問題ありません」

「我慢なんかしないでいいですよ。正直に言ってくれれば、くすぐったくないようにしますから」


私は彼女の背に手のひらをぴったりと触れさせる。

くいくいと母指球のあたりで筋肉を押し込みながら、ゆっくりと手を脇腹の方に下ろしていく。

ぴくぴくと震える身体を抑え込むようにキュッとわしづかみにする。


「いまは、くすぐったいですか?」

「……いいえ。触れたときにすこしだけ」

「ふふ。そうですか」


手のひらを密着させて、くすぐったくないように、私の手を馴染ませていく。

ふにふにとやわらかく薄い側腹部を丹念にかわいがりながら、手を上に持ち上げていく。


「んっ、ぅぁ……くすぐったい、です」

「それなら、もうすこしゆっくりしますね」


震える彼女をなだめるように、ぐぃぐいと押し込みながら手を沿わす。

肋骨の辺りに触れると身体を強張らせてしまうから、内側に手を動かして、揉み込みながらまた腰のあたりに戻していく。

ゆっくり、ゆぅっくりと、くすぐったくないように、圧迫しながら。


「くすぐったいですか?」

「いえ……大丈夫、です。慣れました」

「そうですか」


私の手の感覚に慣れたという彼女を好き放題に揉みこんでいく。

人の肉を揉む心地よさを楽しみながら、たくさん、たくさん。

これはより心地よいマッサージのためであって、べつにいかがわしいことをしている訳ではない。


「ふっ、あははっ、気持ちい、ですかっ」

「あっ、ぅふっ、ぅ、」


揉み込むほどに乱れる彼女の吐息。

マクラを噛んで声をこらえようとするその姿がたまらない。

まったくそういうことをしている訳ではないんだけど、まるでそういうことをしているような気分になってくる。


なんだこのかわいい生き物。


「気持ちい?ねえっ、言ってほしいな、いいでしょ?言ってよ、」

「んっ、ぅくっ、ぅ、きもちっ、ぅん……いい、で、す、」


かわいい。

もっとかわいいところが見たい。

その気持ちが私の手を動かしていく。

インナーがあるおかげで露出も最低限だし、極めて健全なマッサージなのでためらいはない。


とても健全。

極めて純情。

ただたぶん動画を撮ったら高値で売れる。

だけど合法。

完全に潔白。


「ちゃんと言って、気持ちよかったらちゃんとっ、」

「ぁ、あ、あっ、ん、ぅ、ぃいっ、」

「ここなんて、イイでしょう?」

「んっ、うっ、そこっ、は、ぁっはあっ、」


すっかりハイになった私は、彼女をいっぱい気持ちよくすることがとても幸福で。

時間をたっぷりつかって、それはもう彼女の反応を堪能するのだった。


―――その夜はちょっとベッドで眠りにくかったけど、とっても健全だった。

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