第15話 上から目線なスポーツ娘と

音楽好きな保健室登校児に私の音をいっぱい聴かせてあげてなんとなく満足感を覚えていると、ふと思いついたことがあった。


思い立ったが吉日を信条としている私なので、もちろんすぐに試してみたくなってしまう。

まさにその同日から準備を始めて、翌日。

リルカがなくてもなでなでくらいはさせてくれるようになった図書委員の彼女に別れを告げて、校門前に事前に陣取った。


最終下校の時間が迫ってくれば、熱心な部活に励む学生たちはわぁわぁと楽しくお話しながら駆けてきて、待ち受ける教師に「あと五分だぞー」などと急かされては、なんだあと五分もあるのかと歩調をゆるめたりする。


そんな運動部の生徒たちの中に、ひときわ目立つ彼女がいる。


さすがに背が高いから、周りを囲まれていても彼女は私に気がついた。

ゆらりと微笑みの質を変える彼女にすこしドキリとさせられつつ、ちらりとリルカに夕日を映して、私はそそくさと公園へと移動した。


待っていれば、彼女はまた、見惚れるくらいに綺麗なフォームでやってきた。

前と同じベンチのとなりに座って、彼女はふふっと笑う。


「おまたせ。キザなことやるじゃん」

「秘密組織感出してみた」

「あはは、めっちゃわかるかも」


けらけらと笑う彼女にリルカを差し出せば、にやりと笑ってスマホを触れる。


「さぁて、今日はどうしてくれちゃうのかな?」

「うん。いろいろ考えたんだけどね」


がさごそとカバンを漁りながら彼女の制服をまくった。

露になった腹筋は、やっぱり何度見ても恰好いい。


「へぇ」


私がなにをすると思っているのやら。

失望を隠しもしない彼女だけど、ちょっと気が早すぎる。


私はそんな彼女の腹筋に、ぺたりとおもちゃを張りつけた。

そしてすぐさまスイッチを入れる。


「んぃ!?」


不意打ちに悲鳴を上げてお腹を押さえる彼女。

どうやらあれだけ鍛えていても効くものは効くらしい。


「んっ、ぅくっ、ぅあっ、これヤバっ、」


かわいらしい声を漏らす彼女を見下ろしつつ、手元のリモコンを弄る。

昨日遊んでるときに最大出力のまま電源を切ってしまっていたらしい。

とりあえず出力を下ろせば、彼女は辛うじて言葉を交わせるようになった。


「も、もぉ、びっくぅっ、りしたんんっ、だけどっほぉっ」


腹筋パッドに電気が流れるたびに身体を弾ませる彼女はとてもかわいい。

ニヤニヤ見つめていると、彼女は悔しそうに睨み上げてくる。


「なんっ、急にこんぁっ、ぅ、こんなっ、なんでっ」

「いろいろ考えた結果、せっかくだし陸上部エースっぽいことをしてあげようと」

「そっ、れがこんっ、な、、、っ、ぜった、おかっ、しっ」

「やや、もちろん太もも用もあるよ?」

「うっそ」

「嘘じゃないんだなーこれが」


ちいさめのパッドを取り出して見せれば、彼女は表情を引きつらせる。

いやいやと首を振る彼女の涙目をにっこりと堪能しつつ、彼女の引き締まった太ももにパッドを張りつける。

カチッとスイッチを入れれば、彼女は「んぁーッ!」と悲鳴を上げて足を伸ばす。

相当に効いているらしい。

かわいい。

なんだろう、そもそも私ってこういう感じのコンセプトでリルカを使うつもりだったような気がする。

最近はすこし甘かったかもしれない。というか受け身すぎだったかも。

こんなふうに一方的にしてあげる方がアガるな。うん。


「あっ、これっ、んぁっ、お゛っ、んぃぃっ」

「ふふ、お気に召したみたいだね。もっと強くしてほしい?」

「まっ、やらっ、しないでっ」

「んー。でもなぁ、前30分経つ前に帰っちゃったお仕置きもまだしてないしなー」


ねちねちと前回のことを引き合いに出してみれば、彼女はもはや泣きながら懇願してくる。


「ぃやっ、そんなっ、、おねっ、やめっ、なんでもすぅっ!?るっ、からっ、ねっ、ねっ?」

「へえ。なんでもするんだぁ」

「するっ、から、あっ」


そこまで言われては仕方がない。

本当に心底しぶしぶながらもお願いを受け入れてあげるのだと教え込むように、これ見よがしにため息をする。

ほっとした表情になる彼女に、そしてコントローラーを見せつけた。


「―――じゃあ、もっとかわいいとこ見せて?」

「ひっ」


出力を最大まで上げて、そのうえ断続的な刺激を連続的なものへと変える。

真っ青になって伸ばす手が届くよりも前に信号は彼女の身に張りつくパッドへと届いた。


「んぎぃいいいい!?」


歯を食いしばってなお噛み殺せない悲鳴が響き渡る。伸びきった身体がぴくぴくと痙攣してちょっと怖い。

これ御近所に聞こえちゃうかもしれない……けどまあ、彼女がこんな目に合ってるとは誰も思わないか。


しばらく彼女をそうしていじめた私は、いったんパッドの刺激を停止させた。

くたりと力が抜けてベンチからずり落ちそうになる彼女を支えて、にっこりと笑ってみせる。


「大丈夫?」

「………………」


おおう。

めっちゃにらまれる。

なんだこいつかわいいなあ。


たまらなくて額にちゅっとキスをすると、彼女はひどくむくれた。


「なんか上からっていう感じがしてムカつく」

「ふうん」

「ウソだよ!ごめん!ぜんぜん嬉しい!わ、わーい!キスしてもらっちゃった!ひゅう!やったぜ!」


ちらっとリモコンを見せつければすぐに焦って手のひらを返す彼女につい吹き出してしまう。

キャラがぶれぶれだ。

それは自覚があるんだろう、恨みがましい視線を向けられるのもなんだか楽しかった。


「ふふ。ごめんね、さすがにちょっと調子乗った」

「ホントだよもぅ。あーあ、びっくりした」

「なんかこう、有名人だからって上から目線なのムカつくなって」

「うっわ、そんなこと思ってたの?」

「自覚あるでしょ?」

「……」


前回のことを思えばぐうの音も出ないらしくそっぽを向いてしまう。

そんなところもまたかわいいと、そう思ったからちゃんと耳元で伝えてみた。


「かわいいね」

「っ、あはは、ありがと」

「はい照れたー」

「仕方ないでしょ!もぉー!ほんと調子狂うなぁ!」

「どんどん狂ってもらってどうぞ」


なんてことを言いつつパッドを取ってあげる。

ジェルで引っ付いてるそれは、彼女の熱にちょっぴり暖かくなっていた。

引っ付いていた場所は少し赤くなっていて、なんとなく申し訳なくなってくる。


「それにしてもそんなのよく持ってたね」

「いや、昨日買ったの」


見せてほしそうに手を差し出す彼女にパッドを渡す。


「へー。けっこうお金持ちなんだ」

「バイト頑張ってるから」

「ふぅん。これっていろいろパターンあるの?」

「あるよ」


ボタンがたくさんついているリモコンを見せれば、彼女はそれをさらっと奪い取った。


……ふむ。


彼女の手にあるパッドとリモコン。

にこやかな笑み。

調子に乗った私。


わたし は にげだした!

りくじょうぶ からは にげられない!!


「え、えへへ」

「ほら私ってどちらかといえばリバじゃん」

「いやちょっと意味わかんないかなぁ」

「ふふふ。じゃあカラダに教えてあげよっかな♪」


―――そうして私は因果応報という言葉の意味を知った。


ちょっと楽しかったのは内緒だ。

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