第8話 小悪魔な後輩と

頼りになる先輩にたっぷりと可愛がって・・・・・もらったことだしすこしは自重しようかなと思ったけど、やめにする。


なにせ私がリルカを使う前に、相手の方から誘われてしまった。


据え膳食わぬはなんとやら。

向こうからのお誘いという形での援交はこれまでしたことがなかったし、もともと目をつけていた相手ということもあって、私は後輩ちゃんを買うことにしたのだった。


「センパイがエンやってるなんて知らなかったッスよー」


ちょっと歩くだけで下着が見えそうで見えないくらいのスカートで足なんて組んじゃうものだから、防御力なんてまったくない。

わざわざやってきた家庭科室、シンクに腰掛ける彼女はにやにやと笑って私を見ていた。


「私は買うほうだけどね」

「だからこそッスよ。もっと早く教えて欲しかったッス」

「そんな言いふらすものでもなくない?」


そんなやりとりをしつつ、リルカをぴぴっ。

足を組み直して私の反応を探ろうとする小悪魔な後輩ちゃんに苦笑しつつ、私はカバンから彼女と使うつもりで持ってきていたものを取り出す。


「おぉっ?なんッスそれ」

「後輩ちゃんに着てもらおうかなって」

「えっちなやつは追加りょーきんッスからねー」

「それはまたの機会に」


手渡したそれを広げた後輩ちゃんは、まじまじと眺めて、それからぱふっと吹き出した。

どうやらこの期に及んでエプロンなんて渡されるとは思わなかったらしい。予想していた反応だ。

けらけら笑いながら身につけようとする彼女だけど、案外不器用みたいで上手く後ろの紐が結べない。


「手伝ったげる」

「わおっ。センパイけっこ大胆ッス」

「そうかな」


前から抱きつくようにして紐を結んであげる。

じぃ、と顔を見つめていると後輩ちゃんはすこし照れるみたいで、へにょりと緩む表情はとてもかわいい。


きゅ、と小さくちょうちょ結びを作って身体を離せば、彼女はほっと吐息した。

気を取り直してまた小悪魔スマイルを浮かべた彼女は、今度は反対に私に抱きついてきた。甘く濡れているのにどこまでも鋭い蛇のような視線が私を捉える。


「センパイはぁ、やっぱりシたいほうッスか?」


どうやら着衣えっちでもするものと思われているらしい。

エプロンをなんだと思っているんだ。

私はにっこり笑いかえした。


「今からお菓子を作るよ」

「えっ。……まじッス?」

「まじまじ」


戸惑う後輩ちゃんを尻目にカバンからお菓子の素をいくつか取り出す。

家庭科室とはいえ無断侵入の身でできることなんてそう多くはない。

どれもこれも、水があればできる知育菓子みたいなものだ。


唖然としてそれを見つめる後輩ちゃんに向き直って、首を傾げてみせる。


「好きなのとかある?」

「……あの、センパイ?まじで言ってるッス?からかってるんッスか?」


疑念と怒りを乗せて睨みつけられる。

もっと軽くノッてくれるものと思っていたけど、どうやら後輩ちゃんのお気には召さなかったらしい。

とはいえこの30分は私のものだから、私がするといえばするしかないんだ。


「冗談もなにも、ちゃんとお金は払ったからね」

「や、だからそれなのになんでしないんッスか」

「べつに、後輩ちゃんがどうしてもしたいって言うならしてもいいけど」

「……まあ、みうとしてはどっちでもいッスけど……」

「じゃあほら、騙されたと思って」


ほらほらと誘って、手始めに誰もが知っている変色練り菓子を作ることにする。

後輩ちゃんが主導で作るのを、私は後ろから見守った。


「……こーゆーの小学生しょーがくせー以来ッス」

「なかなかこの歳になってやろうとは思わないよね」


作り始めるとなんだかんだ楽しくはあるのか、戸惑いながらもねるねるをねる後輩ちゃん。

ただやっぱり不器用で、粉がわさわさとカップからはみ出してしまう。


「後輩ちゃんって意外と不器用だよね」


後ろから後輩ちゃんの手にそっと自分の手を重ねて、こぼれないようにとお手伝いする。

できるだけ身体を密着させてみると、後輩ちゃんの薄いからだがよく分かった。ふにふにとこぶりなお尻が下腹部に触れて、いろいろとおかしな気分になりそうだ。


肩越しに覗き込む私をちらりと横目に見て、後輩ちゃんはゆるりとほほ笑んだ。


「そーゆーシュミ、ッスか」

「こういう風にしないと後輩ちゃんとこんなことできないじゃない?そういうのが楽しいんだよ」

「みうの思ってたカンジじゃないッス」

「ご不満?」

「や、けっこーたのしッス」


警戒みたいなものがなくなって、後輩ちゃんは鼻歌なんか歌いながらねるねるをねる。

2ばんの粉を入れる前に、私はスプーンを持ち上げて後輩ちゃんの口元に近づけた。


「この状態で食べるのはやったことないでしょ」

「オトナのアソビッスね」


ぱくりと口に含んだ後輩ちゃんは、微妙にお口にあわないのか苦笑いを浮かべながらもむもむとねるねるを食べる。

スプーンに残ったねるねるを舐り取ってみると、まあ、想像以上には絶対にならないケミカルな味がした。


「オトナってムナしいもんッスね~」

「まあしょせん子供のお菓子だからね」


ふたりで笑い合いながら、にばんめの粉を入れる。

ねると、ねるねるはみるみるもこもこ膨らんだ。


「わっ、えっ、これ膨らむんだー。へー」

「センパイはじめてッス?」

「実はそうなの。すごーい。……いや、私高校生なのに。なんかハズい」

「かわいッスよ」


にやにや笑う後輩ちゃんが、今度はスプーンを差し出してくる。

うん、ケミカル。


ぺろりと唇のもこもこを舐め取る私を笑いながら後輩ちゃんもぱくり。

相変わらずお口には合わないようだ。


頼みの綱の3ばんの粉を、後輩ちゃんがねるねるの中にぶちまける。

粉っていうかキャンディーだ。役目をもらえなかった横のお皿が哀れを誘う。


じゃりじゃりごとねるねるねるが最終形態になって、それをふたりで分け合って食べた。


「結構面白かったや」

「センパイって実はけっこー表情ひょーじょーゆたかッスよね」

「そうかな」

「ッス。センパイがこーゆーのしたがるのちょっと分かっちゃったッス」

「お気に召してもらえたならなによりかな」


くすくす笑うと、後輩ちゃんはひらりと私の腕の中から抜け出した。

そしてあっという間に後ろに回って、背後から身体を重ねてくる。

後輩ちゃんは意外にスポブラ派らしい。

するる、と下りた手が腰をさすって、ぞくぞくと背筋が震えた。


「後輩ちゃん?」

「フツーやったことない人がやるべきだと思うおもーッスよ」


にやにやとイタズラめいた笑みに似つかわしくない鋭い視線。

なんだかロックオンされたみたいな気分になる。


「ほらセンパイ、次はなにつくるッス?みうが教えたげるッスよ」

「んっ……それはいいけど、そんなとこ触らなくてもいいんじゃないかな」

「言うじゃないッスか。手とり足とりって」


しゅるしゅるとふたりの指が絡まって、太ももというよりはお尻に近いところをなでられる。

とてもいまから知育菓子を作ろうという感じじゃない。

完全に主導権を奪われてしまったみたいだ。

というかなんかこう、下品だ。

かわいい。


「さあセンパイ♡はやくみうに教えてほしーことおねだりしてくださいッス♡」


後輩ちゃんのこびこびとろ甘ボイスが耳元でささやく。

あざといと思っていてもかわいい。


このあとめちゃくちゃ知育した。

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