第9話 闇を抱えた保健室登校児と

無糖です

―――


小悪魔系な後輩ちゃんに手取り足取り手ほどきを受けたりなんかしてのほほんと過ごす私みたいな能天気な人間がいる反面、悲しいことにこの学校にも保健室登校の生徒というのがいる。


理由を詳しくは知らない。

知ろうともしてこなかった。

それでもそんな子がいるのなら、買ってみたいと思ってしまう訳で。


養護教諭の先生が席を外しているタイミングを狙って、私は彼女のもとを訪れていた。

薄い桃色のカーテンに囲われた真っ白なベッドの上。ワイヤレスイヤホンを装着した彼女はスマホの画面を虚ろに眺めて寝転がっている。

私に気がつくとちらっと視線だけ向けて、すぐに興味なさげにそっぽを向いてしまった。

変に声を上げられるよりはずいぶんとましだ。

私は彼女にリルカを差し出した。


それを目にした彼女はけだるげにため息を吐き、パイプベッドを軋ませておもむろに起き上がった。下にしていた耳の分のイヤホンを装着して、さっさとしろ、とでも言いたげにスマホを差し出してくる。


ぴぴ、と決済が行われると、彼女はぼふっとまたベッドに寝転がった。


「セックスでもなんでもいいけどさっさとしてくれない」


まるで自分の身体に無頓着なようすで、彼女はなげやりにそう言ったきり目を閉じた。

スマホの音量を上げて、漏れ出す曲が私にも聞こえてくる。

聞いたことのないボーカロイドの曲だ。画面を見てみると、動画再生サイトで音楽を聴いているらしい。五桁くらいの再生数の、大ヒットとは言えない作品みたいだった。


私も気になってスマホを取り出す。

ベッドの縁に腰かけて、イヤホンがないから小さな音量でスピーカーから聴いてみた。

耳を近づけてみても、さすがに音質は十分とは思えない。


それをもどかしく思うくらいには、好きになれそうな曲だった。


どうしてもくだらなくて、そしてくだらないままに終わっていくと分かる自分を歌うような曲。

いい曲ではあるけど、メンタルの弱いときに聴くと自分を重ねすぎてしまうかもしれない。

同じ作者さんの別の曲を見てみると、ほかの曲は四桁再生くらいが多かったけど、すこしだけ六桁の再生数も混ざっている。


適当に選んで何曲か聞いてみた。

その中には作者さん自身の声がボーカロイドと歌うものもあって、優しい歌声に驚いた。


何曲か聞くうちに。

この曲たちはきっと、くだらかったり、どうしようもなかったり、そんな自分でもいいやって、そう言ってくれる曲なんだとそう思った。孤独を共有して、音楽越しにでも傍にいるのだと、そう囁いてくれるような曲なんだとそう思った。


それをこんなところで、たったひとりで聴いているのなら。

あんななげやりな態度も、すこしだけなっとくできる。


なんて、そんなの勝手な妄想なんだろうけど。


私は30分間、彼女の傍にいた。

彼女の聴く音を、ひとりとひとりで、聴いた。

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